総合評価 ★★★☆☆ ''' (前作に比べると迫力に欠け内容も練れてなおらず散漫な印象。しかし取り上げている内容自体の希少性ゆえ読む価値はある) この本の著者は同じ出版社から『コンゴ傭兵作戦』という本を以前に出しており、既にレヴューしたようにそこそこ面白く、また興味深い内容だったのでこの本も読んでみました。 しかしながら正直なところ前作に比べて見劣りするな…というのが率直な感想です。 さて、本書は約280ページで3部構成となっており、第1部はカタンガと題して1960年のコンゴにおけるカタンガの分離宣言から1967年の傭兵反乱の失敗にいたるまで(前作『コンゴ傭兵作戦』の直前の時代です)、第2部はビアフラと題してナイジェリアにおけるビアフラ共和国独立運動に伴う傭兵の関与(特にビアフラ側のロルフ・シュタイナーと傭兵パイロットを中心に)、第3部はアンゴラと称して1960年代から70年代のアンゴラ内戦を主にFNLA側の視点から(とくに非常に印象的なトニー・キャランという人物を中心に)それぞれ取り上げています。 そして全体の紙数の内、約半分にあたる130ページ程度が第1部に充てられており、ここからも著者のコンゴに対する関心の深さが伺われますが、特にその第1部に顕著なこととして政治的な面についての記述が多く、逆に傭兵の戦術や作戦などに関する記述が少なくなっています。その結果、1960年代から70年代のアフリカでの内戦の概要と様相を知るためには有益な出来になっているのですが、文庫版新戦史シリーズなどという軍ヲタ向け出版物として出すよりはむしろ国際政治とかに興味がある人向けにどこぞの真面目な新書にでも入れてもらうべき本だったのではないかとも思います。 ちなみに、主観的に見た面白さという点でも、また読み物としての面白さという点でも、この第1部が最も面白みに欠けており、第2部、第3部、第1部の順に面白かったと思います。 その理由は、第1部はカタンガ分離独立運動を概観したような内容であり、国連軍の介入があったことなどもあってどうしても記述の中心が政治的な動きになっている上に、やはり国連軍相手では傭兵が指揮する民兵部隊ではどうしても歩が悪く活躍の場もない、そして何より他の2部には良かれ悪しかれ記述の中心となるキャラクターがあるのに対して、第1部にはそうした印象的な傭兵が出てこないということがその原因でしょう。 まあ、こう考えると著者が悪いというわけではないのようなのですが、しかしながら、前作に比べて誤字もいくつか目に付きましたし、文章自体も練れていませんし、題材が3つに分かれていますがどれもボリューム的に中途半端で全体としても散漫な印象は拭えません。 できればビアフラとかカタンガだけで一冊の文庫本くらいにすればもっと興味深いものが出来るのでしょうが、マイナーなテーマですから売れそうも無いですし、止むを得ないところなのでしょうかね… それと余談ですが、本書は写真も図も少ないのですがその少ない地図も正直言ってよくわかりません。もともとアフリカの地理などほとんどの人がよくわからないだろうところへ持ってきて、ただ町と川と境界線だけの地図を見せられても全然イメージが湧かないので非常に苦労します。この点に関してはここ5年くらいのDTPの進歩(特に実感するのが学研M文庫の図版)は素晴らしいものがあると思います。まあ本書は1991年の出版ですから手を抜いているというわけではなく標準的な出来だったとは思うのですが、再販するなら手を入れてほしい部分ですね(再販自体が望み薄そうですけどね) そういうわけで、確かに有益な本ではあるのですが内容も今ひとつ面白みにも欠けるし、掘り下げも不十分で物足りなさを感じてしまうという意味で本としての評価は★2つ位と非常に低いのですが、他に同じ題材を取り上げた本がなく珍しいので希少性により若干プラス評価というところです。読み物としては迷わず『コンゴ傭兵作戦』の方がお勧めです。
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