概略 ハードカバー約460ページくらい。帝国陸軍の作戦要務令の第一部および第二部の全文+解説に第三部、第四部の目次をつけた本です。そういうわけですから全部を読みたい人は『統帥綱領』でも有名な大橋武夫氏の本がありますのでそちらを読むしかないですね。 ちなみに第三部だけならここで読むことができます↓(なんと歩兵操典や輜重兵操典、赤軍臨時野外教令とかまであります!ありがたいものですね)。 http://www.warbirds.jp/sudo/ さて、当然にまず「作戦要務令」ってなんですか?ということの説明から本書も始まります。 作戦要務令というのは昭和13年に定められた軍令(この軍令って言うのは法令というのとほぼ同じ概念と考えていいと思います、ただ対象が軍人に限られるってだけ)で、具体的には陣中(戦場)勤務の要領と諸兵連合の戦闘についての基本事項を士官の利用を想定して取りまとめたものです。まあ、ちょっと抽象的なんですがマニュアルみたいなものですね。 以前からあった陣中要務令というものが作戦要務令の第一部(陣中での勤務要領)、第三部(輸送等の後方活動)に発展し、戦闘綱要という戦闘や作戦に関するマニュアルのうち諸兵科が共同して行う戦闘における作戦・戦闘の要領が第二部(戦闘)に吸収されて(兵科ごとに異なる詳細な戦闘や作戦のマニュアルは兵科ごとの操典に)いるというように著者は解説しています。ちなみに第四部は特殊な作戦に関するもので、機密としての扱いの度合いも他の3部とは異なりほとんど流布していなかったそうです。 まあ、軍人さんっていうのも役人なわけで、近代法治国家の役人である以上職務を遂行する上での勤務規則は当然必要なわけです。さらに士官というのは管理職ですし、戦争なんていうのは相手があることなのですべての状況を想定したマニュアルの作成なんて当然出来ないわけで、仕事を処理する方針ぐらいは決まってないと各人の勝手に任せることになってしまいます。下級者がどういう行動をとるかの基準がないと上も作戦なんか立てようもありませんから硬直しているといわれようが予測不可能よりはまだましですよね。 そういうわけで本書は支那事変後半から第二次世界大戦にかけて帝国陸軍の士官が作戦・戦闘について判断を下す際に準拠していた基準であった作戦要務令の解説ということになります。逆に言えば、この時期の戦史・戦記を読むときにはこうした軍令によって律せられた役人の活動という側面からも理解する必要があるというわけで、ある意味避けてはならないドキュメントなのではないかと思います。その割には読まれていないみたいですけどね…(ちなみに私は以前に一度よんでいるのでこの本を読むのは実は2回目だったりします)。 そういうわけで、読んで面白い本では断じてありません。おまけに結構抽象的な規定ばかりなので読むのに非常に時間がかかります。 しかし、これを読んでおくと例えば簡単に第何師団がどこからどこまで進出…と記述してある文章を読んだときに頭に思い浮かべることができる情景というものの幅が大きく広がります。特に第一部の警戒・行軍・宿営の部分は非常に具体的でしかも軍隊の日常的なあり方と大きく係わっていますからどういう順序でどのように行軍しているのか、というのがわかってくるわけです。 例えば歩哨ってどういうものなの?とか尖兵って実際にはどういう感じのものなの?とか普通に戦史や戦記ではこんなものかな…ってイメージで読み流してしまっているものがどういう目的のもとどういう基準により派遣されているのか、そしてその行動基準はどういうものかわかってくると理解が変わってきますよね。 また、著者がビジネスマン向けの説明を心がけていることから、若干煩わしい記述もあるのですが、それを補って余りあるくらい旧軍用語の平易な用例付解説としての価値も有しています、旧軍の文書に興味がありゆくゆくは読んで見たい、でもどこからはじめれば…なんて方のための入門書としてはいいのではないかと思います。 そういう意味で第一部までに関して言えば読んでおく価値はあると思います、しかし読み物として面白くないですのでその点はご注意下さい。 読んでいて気がついた意外な点。電報の発信権限について兵站監が最上級にランクされていること。前回見落としていましたが軍機電報の発信権あるんですね…
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