気づけば2019年も残り20日ほどになりました。プライベートでいろいろあった年でしたが、考えてみればブログを2回しか更新していませんでした。本館の復旧作業も進んでいないのですが(リンクの付替えでなんかうまく行かず苦戦しています)たまには何か書くかなあと思ったので、ちょっと昔の話でも。

 筆者は、今を去ること25年ほど前に、理学部の研究室を出て製薬企業に入りました。会社でカルチャーショックを受けたことはいくつもあったのですが(みんな実験速っ!とか、溶媒って別に蒸留しなくても反応行くのかよ!とか)、とりあえず初めに驚いたのが「用語が通じない」ことでした。

 配属初日、「佐藤くん、今日からこのプラッテを使ってね」と当然のように言われたのが第一の驚きでした。プラッテなんて言葉は初耳でしたから。さらに「ナスコルとマイヤーはこの器具庫にあるからね」といわれて(何を言っているんだこの人たちは……?)と呆然としてしまったわけです。

 プラッテは実験台のこと、ナスコルはナス型コルベン、つまりナス型フラスコのこと、マイヤーはエルレンマイヤーフラスコ、すなわち三角フラスコのことであるらしいことを後に知ります。マイヤーってそこを取り出すのかよ!エルレンとかいうならまだわかるけどさ!と思いましたが、まあ文句を言っても始まりません。

 何でこうも基本用語が違うのか不思議でしたが、どうやら薬学部出身の人がこれらの言葉を使うようでした。フラスコやメスシリンダーなど、筆者がそれまで使ってきた実験器具の名称は英語由来でしたが、コルベンやエルレンマイヤーはいずれもドイツ語由来の言葉です。理学部化学科の開祖である櫻井錠二はイギリスへ留学し、薬学の祖である長井長義がドイツに留学したのがその起源ではないかと勝手に仮説を立てていますが、実際のところはよくわかりません。櫻井と長井は対立関係にあったという話も聞きますので、用語が統一されなかったのはそれも原因ではと勘ぐったりもしています。

 用語が統一されないといえば有名なのがジクロロメタンで、「ジクロメ」「ジクロロ」「ジクロ」「メチクロ」「エンメチ」「エンカメ」「DCM」などなど、研究室によって様々な略し方をされています。「反応溶媒は何使ってる?エンカメ?」「やっぱしエンメチですね」「ジクロメじゃなくクロホでも行きますけど」とか、傍からは「何の話をしてるんだこいつら」的な会話が繰り広げられていたりします。

 薄層クロマトグラフィーは「TLC」と呼ぶ人がほとんどでしたが、頑固に「シンレイヤー」と呼ぶ人、「ハクソウ」と呼ぶ人もいて、これも会話がカオスになっていました。こういうのは、一度そう呼んでしまうとなかなか変えられないもののようです。

 このへん、研究室ごとで使われていた用語を調べて、系統樹のように整理すると面白そうだななどと思っていますが、誰かやってくれないものでしょうか。最近はまたいろいろ新しい呼び方、スラングなどもできていることでしょうから、コメントなどで教えていただければ幸いです。