お父さん世代が
“ニセモノ”を駆逐する

 上海ディズニーランドから地下鉄11号線に乗って帰路につくと、車内に今どき珍しい“物売り”が現れた。大きなズタ袋には、ミッキーの耳のついたカチューシャが詰め込まれている。先頭車両から後部車両まで、それを担いで売り歩くわけだが、上海ディズニーランドを訪れる中間層以上の人々は、いまどきそんなものには目もくれない。

体を張ってニセモノ売りと闘う上海のお父さん

 車両に座っている筆者の前にも、荷物を突き出すようにして営業をかける“担ぎ屋”が現れた。「いらない」と手を振るとその場を立ち去り、今度は3人連れの中国人ファミリーの前に立ちはだかった。そこで「安くするよ」「いらない」などのやり取りがしばらく続いていた。

 ところが、だんだん口論に発展し、互いの声が荒っぽくなってきたと思った瞬間、車両に男性の怒号が響き渡った。

「お前たち!こんなニセモノをいつまで売っているんだ!警察に通報してやる!」と、小さな子どものお父さんが立ち上がり、スマホを取り出して「110番」しようとした。すると、担ぎ屋もカッとなり、これを阻止しようとお父さんに手をかけようとする。あわや取っ組み合いというところで、担ぎ屋仲間が仲裁に割って入り、事態はことなきを得た。

 しかし、これはすごい光景である。上海では、体を張って“ニセモノと闘うお父さん”まで出現するようになったのである。

 長らく続いたニセモノ社会だった中国も、その時代がそろそろ終わりに差し掛かっているような気がした。地下鉄2号線の「上海科技館」駅には相変わらずニセモノ市場があるが、「こんなに精巧にできているのに、買う人が減った」と店員がぼやいていた。近年、訪日中国人が日本での買い物を好むのも「ニセモノをつかまされないため」でもある。

 上海では、“人”も日に日に進化している。もとよりエリート層や富裕層を中心に「高い意識」や「国際感覚」は垣間見られたが、今では中間層も大きく底上げされている。日本人と中国人、これまで「話がかみ合わない」と歯がゆい思いをすることも多かったが、少なくとも上海ではそれを感じることが減った。国籍の違いがもたらすギャップ、それが解消に向かうのも遠い将来のことではないかもしれない。