記者会見する自民党の甘利税調会長(右)と公明党の西田税調会長(12日、国会内)
自民、公明両党は12日、2020年度税制改正大綱を決めた。大企業による異業種ベンチャーへのM&A(合併・買収)や次世代通信規格「5G」の通信網整備を促す税制を創設。デジタル時代の新産業を育てる減税を前面に出し、増税項目を抑えて景気減速に備えた。日本経済の成長底上げに重点を置いた改正だ。
10月の消費税増税や米中貿易摩擦の影響で、国内景気の先行きには不透明感が漂う。デジタル化など世界経済の構造変化も急速に進んでいる。一方、日本企業の内部留保は18年度に7年連続で過去最高となった。20年度税制改正には企業がためたお金を、新たな経済環境に対応する投資に使うよう導く狙いがある。
大企業が設立10年未満の未上場企業に1億円以上を出資すれば、出資額の25%を所得控除する「オープンイノベーション促進税制」を設ける。異業種のスタートアップから革新的技術やビジネスモデルを取り込むなどのイノベーションを促す。
大企業に特例で適用している交際費の減税措置は見直す。資本金100億円超の大企業は接待などの飲食費を損金として扱えなくする。収益が伸びているが設備投資の少ない企業には優遇税制の適用を厳しくする。
5Gの通信網整備を促す減税策は2年間の時限措置となる。安全性の高い事業者を政府が認定し、5G基地局などへの投資額の15%を法人税から税額控除する。国内の携帯通信大手のほか、工場などで独自の5G通信網を築く事業者が対象だ。
NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天の通信4社は24年度までに合計で少なくとも1兆6千億円の5G投資を計画している。減税は投資計画の前倒し分に適用するとしており、5G整備の加速効果を期待する。財務省は減税策の規模を120億円程度と見込む。
ハイテク分野で米中の覇権争いは激しく、米国は安全性への懸念から関係国に中国の華為技術(ファーウェイ)製品の排除を求めている。5G減税は経済安全保障の視点からの税制でもある。
個人の投資も促す。年120万円を上限に、運用益が5年間非課税になる少額投資非課税制度(NISA)を24年から新制度に移行する。年40万円まで運用益を20年間非課税とする積み立て型の「つみたてNISA」は期限を延長する。
10月に消費税率を10%に引き上げたばかりで、20年からは年収850万円超の会社員への所得税増税も控える。それだけに今回は所得税の改革に踏み込まなかった。勤続年数が20年を境に大きな差が出る退職金への課税見直しは見送った。高所得者ほど税負担率が下がる傾向がある金融所得課税の是正も先送りした。
19年度の税収は想定した62.5兆円から2兆円ほど減るもようだ。19年度補正予算案では3年ぶりに赤字国債を追加発行する見通し。財政健全化目標の達成は一層厳しくなる。減税効果の継続的な検証は不可欠だ。