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【社会】トイレ利用制限「違法」国に賠償命令 性同一性障害の経産省職員勝訴
戸籍上は男性だが、性同一性障害で女性として生活する経済産業省の五十代の職員が、勤務先庁舎で女性用トイレの利用を制限しないよう求めた訴訟の判決で東京地裁は十二日、制限を「違法」とし、国に慰謝料など百三十二万円の支払いを命じた。江原健志裁判長は「自認する性別に即した社会生活を送ることは重要な法的利益で、制約は正当化できない」と判断した。 上司が面談で「もう男に戻ってはどうか」と発言した点も「性自認を正面から否定する」として違法だとした。 原告側によると、性的少数者が職場環境の改善を求めた訴訟で、請求を認めた判決は初めて。東京都内で記者会見した職員は「同じような当事者を勇気づける内容。使用者には人権を重視した対応が求められる」と話した。 判決によると、職員は専門医から性同一性障害と診断され、プライベートでは女性として生活。健康上の理由で性別適合手術は受けていない。二〇一〇年、同僚への説明会を経て女性らしい服装や化粧で勤務を始め、その後、家裁に申し立てて名前も変更した。だが、東京・霞が関の庁舎の勤務フロアと、上下一階ずつの女性用トイレの使用は認められなかった。 判決は、トイレを使う他の女性職員への配慮は必要だが、原告職員が性的な危害を加える可能性は客観的に低い状態で、社会生活でも女性として認識される度合いが高かったと指摘。 民間企業では、心と体の性が一致しないトランスジェンダーの従業員に制限なくトイレ使用を認める例があり「国民の意識や社会の受け止め方は変化している」とした。 被告の国側は、職員が手術を受けていないことを根拠に、他の女性職員とトラブルになる恐れがあるとして、制限の合理性を訴えたが、判決は「意思に反して身体を傷つけられない自由を制約する面がある」と退けた。経産省は「控訴するかどうかは判決を精査し、関係省庁と相談して対応したい」とのコメントを出した。 性同一性障害の経済産業省職員に庁舎内の女性用トイレ使用を認めた十二日の東京地裁判決。記者会見した職員は「民間企業では二十年近く前から自分らしく勤務できている。ようやく判決で認められた」と振り返った。 原告の職員は、同じような境遇で働く人に向けて「何かアクションを起こさないと、何も変わってくれないのが現実だ。変えるための第一歩を踏み出してほしい」と、エールを送った。 ◆戸籍性別を絶対視せず<性同一性障害の問題に詳しい仲岡しゅん弁護士の話> 画期的な判決だ。いわゆる性同一性障害を有する従業員が使用するトイレに関して、戸籍上の性別を絶対的な基準とするのではなく、個々の具体的状況に照らして柔軟に判断したと思われる。とりわけ本件は、他の女性従業員とのトラブルなどが極めて生じにくいと思われる事案で、悪用が懸念されるような事案でもないことから、妥当な判断だと言える。今後、従業員の就業環境を整備する上で参考になるだろう。 PR情報
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