あの富士そばが、肉骨茶(バクテー)そばを発売
いつも通りの駅前の風景。
……ん?
んん!?
「肉骨茶そば」ですと?
口の中がアジアになる──本格的すぎる肉骨茶そばを富士そばで
肉骨茶(バクテー)といえば……
その恐ろし気な字面とは裏腹に、私が世界で最も「うまい!」と感じた料理である。
私が肉骨茶に出会ったのは、3年間のマレーシア滞在中。
肉骨茶とは、マレーシア発祥の豚肉を薬膳スープで煮込んだ料理なのだ。
▲マレーシアの肉骨茶(photo by 古川音)
しかしこちらよく見ると……
がっつりと「シンガポールの肉骨茶」である旨を強調している。
シンガポールの肉骨茶は薬膳というよりも「胡椒!」という印象だ。
▲シンガポールの肉骨茶(photo by 伊能すみ子)
よーし、ここはマレーシアに4年住み、肉骨茶を含めたマレー半島グルメを食べに食べた古川音さんと突撃してみましょう。
どっぷりハマる、この刺激
「肉骨茶って聞いたらすぐ来るよ~」
おおお、あるある。一押しゾーンに「肉骨茶」の文字。日本でラフにこの文字が見られる日が来るとは……感動です。
「吹っ飛ぶ」だの「Wパンチ!」だの強めの押し出し。期待が高まります。
実は音さんも私も、このそばが出るまで、首都圏サラリーマンのオアシスたる富士そばに入店したことなし。
それも含めてドキドキするわ。
なるほどなるほど、こんな雰囲気。ザ・カジュアル。
女性客も見受けました。しかも肉骨茶そば頼んでる!
▲肉骨茶そば(590円)
豚バラ肉たっぷり。湯気から立ちのぼる胡椒の風味が鼻をつきます。
フライドオニオンの香ばしさも食欲をそそります。
さっそく食べてみましょう。
がつーん!
音さん:思っていたより2倍くらい胡椒の刺激がきますね。舌に麺がつく1mm前から胡椒の辛みを感じます。にんにくもばっちり効いて、豚の旨味がそばと合う……シンガポールで食べた、いやそれ以上にスパイシーな刺激。どんどん体がぽっかぽかになってきて、数口で汗が出てきます。冷えてた足先まで温まってきました。これは病みつきになりそうな味ですね。
うどんも選べると聞いて食べ比べ。
▲肉骨茶うどん(590円)
音さん:うどんもいい! スパイシーともちもちが好相性。こっちの方が好きっていう人がいるのもわかります。おいしい。そしてちょっと……わがまま言っていいですか? こういうオーダー、してみても……いい?
禁断の、麺抜き。ご飯付き。
※麺抜きは、できない店舗やできない時間帯もございます※
ご飯にスープをかけて……これは……いいっ!
うますぎます。
キャパシティに自信のある人は、肉骨茶そばにライスを付けることを強くお勧めしたい。
そもそも現地マレー半島で肉骨茶を食べる時はこのスタイルがメジャー。シンガポールでは、麺を入れるのも好評という感じらしいです。
それにしても、漢方の香りはないにしても、胡椒とにんにくの想像以上のハードパンチは現地の肉骨茶に勝るとも劣らぬ本格的なお味。店内にかかるBGMは演歌オンリーの中、口の中はアジアで大騒ぎですわ。
それにしてもいったいなぜ、和風イメージの富士そばでこのメニューが?
これは話を聞きに行くしかないと、富士そばの母体であるダイタンホールディングスさんに突撃してきました。
シンガポールで二日酔いを吹き飛ばした本場の味
▲ダイタンホールディングスの森永さん(左)と工藤さん
──「肉骨茶そば」ができた経緯を教えてください。
工藤さん:シンガポールに富士そばの支店を出した関係で、よくあちらに滞在していたんです。いろいろな方と会ったり、日本からの人を迎えたりと毎日が酒の席で、翌日は二日酔い。でも仕事しなくちゃというわけで、肉骨茶を食べて体を叩き起こしていたんです。あの刺激で汗がド~ッと出て、力も湧いて。
森永さん:そんななか、うちの取締役が「肉骨茶をメニューに取り入れようよ」と言いだして、ぼくらふたりで3~4ヵ月かけて開発しました。
──そんなフランクな感じで……! おふたりが開発って、海外出店をやる方が商品開発もするんですか?
工藤さん:当社は割と自由な社風で、何か思いついたら社内のキッチンで試作したりできるんですよ。とくに開発部はないし、店舗ごとのオリジナル商品もOK。だれが新しいメニューを考えてもいいんです。
音さん:風通しのよさそうな会社ですね。それにしても肉骨茶、思った以上に胡椒とにんにくの刺激が本格的でびっくりしました。
森永さん:日本で食べる肉骨茶に、本場のパンチのある味を再現したかったんです。本来は薬膳を入れるのですが、クセが強いので極限まで引き算をし、肉骨の旨味と胡椒、にんにくを強くしました。
しょうゆを入れてしまうと一気に和になってしまうので、それを使うことなくそばに合う風味にすることには苦戦しました。とにかくかなり刺激が強いので、数店で先行販売した時にはこんなポスターを作って貼り出しました。
▲左は現在貼られている、デザイナーが手がけたポスター。右は工藤さんたちが急きょ作ったポスター。注意喚起がすごい
音さん:手作り感がありますね……至急作った感が。
森永さん:この刺激を知らずに食べたら怒られると思いまして。
音さん:こわごわやった、ということですね(笑)。
話題となって全店(首都圏)展開へ。レギュラー化なるか!?
▲肉骨茶愛がほとばしる工藤さん
──先行販売の結果がよかったから、全店展開に踏み切ったんですね。
工藤さん:10月、11月の先行販売でツイートが5万を超えて、売り切れる店も出まして。「これを食べるために途中下車した」とか、「毎回2杯ずつ食べる」なんていう声も聞こえてきて、おかげさまで予想を超える売れ行きとなりました。
音さん:私、先月マレーシア人の友だちと上野広小路店に食べに行こうとしたら売り切れてたことがあったんですよ。全店展開してくれてよかったです。でも、12月限定なんですか?
森永さん:10万食をご用意しているので、だいたい1店舗1日20~30食でそのペースかなと。12月でいったん全店展開は終了して、1月は限定店舗で残りを売ります。好調であればレギュラー化も視野に入れています。
音さん:やった! これは絶対にレギュラー化してほしいです。定期的に食べたいし、冬はぽかぽかして本当に助かる。
森永さん:本当は常夏の国の食べ物なので夏に出したかったんですけど、間に合わなかったんですよね。そう言っていただけるとよかったなあ。
音さん:あ、夏に汗かきながら食べるのも美味しそう! ……それでですね……。
「マレーシアの肉骨茶」も
音さん:我々の愛する「マレーシアの肉骨茶」も……新メニューで出してもらえませんか?
▲「ああ~……」
工藤さん:実はこれを出して一番怖かったのは、「マレーシアの肉骨茶派」の方々だったんですよ~。「こんなんじゃない」と言われそうで。でも我々の経験したものがシンガポールだったもので。
音さん:是非にマレーシアの肉骨茶も! このクオリティで出してもらえたら感涙です。そして怖がらないで大丈夫です。
工藤さん:肉骨茶を日本に広げていきたいという気持ちはあります。商品は人と人とのつながりで作りたいし、提供していきたい。音さんの主宰する「マレーシアごはんの会」にも呼んでくださいよ。交流しながら生まれるアイデアもあると思うんです。
音さん:嬉しいです! 是非来てください!
肉骨茶愛が高じてこのようなミニタオルまで制作してしまったおふたり。お土産にいただきました。う、うれしい……。
こんなおふたりが魂を込めてつくりあげた「肉骨茶そば」。
まだの人は是非一度ご賞味あれ!
店舗情報
富士そば 代々木店
住所:東京都渋谷区代々木1-32-12 HOUWAビル 1F
電話番号:03-6276-3527
営業時間:24時間(3:00~3:45を除く)
定休日: なし
古川音さんトークイベント
古川音さんの著書『地元で愛される名物食堂 マレーシア』にちなんでトークイベント、「マレーシア文化講座 名物食堂本の出版記念トーク&マレー凧WAU作り体験」を開催します。マレーシアバクテーの話もたっぷりお届けします。1月17日(金)19時~、詳細はマレーシアごはんの会 Webサイトへ。
書いた人:矢島史
食うこと飲むことでメンタルをやりくりしているライター。収納やライフスタイルなど暮らし系の書籍の執筆協力、広告・クリエイティブ系の方々のインタビューなど。4コママンガも描くんだけど、今はPTAの仕事が大変でお休み中。脳みそがあっちこっちに飛んで落ち着きのない四十路。
- ホームページ:矢島史
- Twitter:@jijiricco