娘は自殺 妻はうつ病 元事務次官 44歳息子を殺害
2019年6月、東京・練馬区の自宅で、農林水産省の元事務次官・熊沢英昭被告(76)が、長男の英一郎さん(44)の首などを包丁で刺し、殺害した事件。
裁判で明らかになってきたのは、家族を巻き込んだ壮絶な歩みだった。
その1つが、英一郎さんによる母親への家庭内暴力。
熊沢被告の妻「肋骨(ろっこつ)にヒビが入ったり、顔に青あざ、鉛筆の芯を思い切り手に突き刺したりもありました」
さらに...
熊沢被告の妻:「兄(英一郎さん)の関係(原因)で、縁談があっても全部消えた。(娘は)それで絶望して自殺しました」
娘の自殺や妻への暴力、追い詰められた元エリート官僚の熊沢被告はその時、何を思ったのか。
裁判2日目に熊沢被告の口から語られたのは、父親としての苦悩だった。
12月12日午後1時すぎから行われた、熊沢被告への被告人質問。
大学のころから1人暮らしをしていた英一郎さんとのやり取りを聞かれると...
熊沢英昭被告「月に1回はアパートに薬や生活費を届けたり、ごみの片付けをしました。一緒にファミレスで食事をするなどして、コミュニケーションを図りました」
熊沢被告は、英一郎さんが大学を中退すると、就職先探しに奔走したという。
熊沢英昭被告「時期が就職氷河期で。本人はアニメ系がいいといくつか受けましたが、ダメでした」
最終的に、義理の兄が勤める病院に就職させたというが...
熊沢英昭被告「残念ながら勤務状況が悪いと感じました。ブログで上司の悪口を書いていました。迷惑をかけると心を痛めていました。お礼を言って引き取りますと言わざるを得なかったんです」
しかし、英一郎さんは退職に納得がいかず、ある行動に出たという。
熊沢英昭被告「医師から連絡がありました。英一郎さんが『明日、社会的事件を起こす。上司を包丁で刺す』と言っていると。おさめなきゃと思ってアパートまで駆けつけました。時間をかけて説得しました」、「(英一郎さんが納得してからはどうでしたか?)カバンから包丁を取り出して、台所に置きました。事件を起こさなくて良かったと思いました」
一度は1人暮らしをしていた英一郎さんだが、その生活はゲーム中心。
2019年5月からは再び実家で暮らし始めたが、同居を始めた2日目...
熊沢英昭被告「『ごみを捨てろと言いやがって』と言って襲われました。髪をつかまれてサイドテーブルのところまで引きずられました。必死に逃げました。でも玄関まで追いかけられて、ドアやコンクリートにたたきつけられました」、「(その間、何か英一郎さんが言っていましたか?)『殺してやる』と叫び続けていました」
それから6日後、英一郎さんは隣の小学校で行われていた運動会の音に腹を立てていたという。
熊沢英昭被告「目が合うと、形相が暴行の日を思い出す形相でした。『殺すぞ』と強い声で言われました。わたしは本当に殺されると思いました」
そして...
熊沢英昭被告「無意識に包丁を取りに行きました。そのまま小走りで息子に向かいました。そのまま息子の胸あたりを刺しました」
熊沢被告は、殺されるという恐怖心から、抵抗する英一郎さんの胸や首を何度も刺し続けたと説明した。
12日の裁判には、発達障害だった英一郎さんの主治医も出廷した。
英一郎さんの主治医「熊沢被告は息子の面倒を大変よく見ていました。主治医のわたしに連絡をくれれば良かったと思います。そこで可能性を検討して、しかるべく対処法をお知らせできたと思います」