モモンガ達一行は予定通りエランテルの検問の前に姿を現した。
フェンリルを目撃した馬が恐怖に耐えられず、暴れまわりモモンガ達は待たずして検問に到着した。
「モモンガさん。」
「何も言うな。ニニャ」
モモンガはニニャ達とは友人になりはしたが、最低限の礼儀として敬語だけは譲らなかった。
そんなニニャはフェンリルが引き起こした惨状を見てため息すらついていた。
「お、お前達は何者だアンデッド」
恐怖で震えてる声が兵士の気持ちを代弁しているのだか、華麗にスルーをしてやるのであった。
「僕たちは漆黒の剣です。こちらの方はモモンガさんというアンデットです」
「アンデッドをエランテルに入れるわけないだろ」
「大丈夫ですよね。モモンガさん」
「私はアンデッドだか人間を憎む事は無い。本当に憎むなら、この人間達を生かしてはおかないだろうしな」
モモンガ達を怪しいものを見る目で見ている兵士達は、次にフェンリルを見つめて問いかけた。
「あの狼は人を襲わないのか」
「攻撃さえしなければな」
「では少し待て魔法詠唱者をよんでくる」
消えた兵士の代わりに初老の魔法詠唱者がやってきた。初老の男はモモンガ達を一瞥すると、勝手に許可を出し通してしまった。
戻ってきた兵士達は魔法詠唱者に掴みかかり、怒号をかけてゆく。
「貴方はあんなアンデッドを通して何かあったらどうするつもりですか」
「だったらどうするつもりなんだ。儂が知る限りあの狼の難易度は200を超える化け物よ。」
「難易度200。そんな訳ないだろ」
「お前、儂のタレントを知っている筈では無いのか、」
確かに、この男が保有するタレントは【相手の難易度を把握する】というものの筈。
つまり、そんな化け物を支配するのは確実にそれ以上の化け物の証明でもある。
魔法詠唱者の反論は続く。
「仮に止めたとして、あのアンデッドが怒り狂ったとしたらこの都市ごと、いやもしかしたら王国も崩壊するかもしれないな」
「だったら、目的を聞くべきじゃないのか」
「あのアンデッドが邪悪なる事を考えているなら、空を飛んで検問すら通り抜けると思うのは私だけか」
「た、確かに」
納得したのか魔法詠唱者は、元住居に帰っていった。
〇〇〇〇
フェンリルはレベル30前後の人間を見つけたので、ご主人様に報告をしたのだった。
「何、レベル30だと」
決して敵ではないものの、この異世界に於いては最強の部類に入る人間ではないのか。
「フェンリルよ。その人間を捕まえろ、殺しても構わないが綺麗に処理して、ナザリックに送れ」
その日、法国の狂人は人知れずこの世から消えて無くなってしまった。
〇〇〇〇
王国
ラナーが使用している私室には蒼の薔薇とその部屋の主が現状を話し合いするべく集まっていた。
「モモンガと名乗るアンデッドが推定難易度200以上の狼を連れてエランテルに向かったそうですよ」
ラナーが発した言葉の意味がわからず蒼の薔薇のメンバーは固まってしまった。
「200何て嘘でしょ」
ラキュースは否定して欲しい気持ちでラナーを見ていると、期待していない答えを出した。
「信頼できる情報筋からのものです」
「それでも200何て冗談の域だな。で、そのアンデッドはこの世界を破壊しに来たのか」
「冒険者になりたいらしいのです」
答えを聞いた蒼の薔薇が突然笑い出した。
アンデットは生者を憎む者なのに、人間を守る側につくなんてな、と。
「エンリの件といい、最近はどうなっているんだよ」
ガガーランはエンリが兵士を惨殺した事件について語りだす。
「影の悪魔だったか、エンリが使役していた怪物はよぉ」
「その通りだ。難易度にして90前後であり、人間が使役出来る様な怪物では無い」
「わかったぜぇ。そいつはモモンガという奴の手下だな。そいつからぶっ殺して、モモンガを殺せば万事解決だな」
ウンウンと頷くイビルアイは、エランテルの味方について語り出した。
「エランテルのンフィーと言う男がポーションを量産しているらしい」
疑問に思ったガガーランは少し考えてみると、イビルアイが言わんとする事が伝わってしまった。
「そいつは、モモンガを殺そうとしているのか」
「その通りだ。現在協力体制を確立していて、いつでも連絡を取れる状況にしてある」
「だったら早く実行しようぜ。アンデッド何て何を考えているかわからないしな」
「その通りだ。私の様な吸血鬼ならともかく、スケルトンなどは知性の欠片もない愚者だな」
「そうだぜ。その狼も人質をとられていたり、洗脳されているに違いない」
「その通りだと思う。逆にこちらに恩を感じるかもしれないな」
「だったら善は急げだ。早くエランテルに行こうぜ」
「よし。早く移動しようじゃないか。愚かなる骸骨を倒して狼を救ってやろうじゃないか」
「じゃあな。ラナー」
「さようなら。」
蒼の薔薇の面々は骸骨を殺すべくエランテルに向かっていく。
〇〇〇〇
とあるカエル顔と黄金の密談
蒼の薔薇が去ってから、ラナーは一人本当に愚かな人達の事を記憶の中から抹消していた。何故ならもう会う事は無いだから。
窓の外を眺めていると、カエル顔を持つ悪魔が窓を通り抜けて部屋に入ってきた。
「あの愚か者たちは、本当に冒険者のトップなのですか」
「はい。残念ながら」
「私の主人も、そんな人物が看板に置かれている組織に所属するなど、気分が悪くなる一方ですね」
「大丈夫だと思いますよ。モモンガ様なら直ぐにでもトップになり得ると思いますよ」
「その通りですね。あんな愚か者がこの世界より消える事を願うばかりですよ」
「簡単には殺さずに、女とし屈辱を与え続けるのはどうでしょうか」
「そうですね。フィリップの妻にしてしまった方が良さそうですね」
「ところで、クライムの事は大丈夫ですか」
「もちろん考えていますよ。邪悪な悪者を退治するのは勇者の役目ですからね」
「全く嬉しい限りですが、モモンガ様に譲らなくてもいいんですか」
「いいんですよ。モモンガ様にはもっと相応しい力を持つ悪魔と対決するので、強欲な貴族では役不足なんですよ」
「では、名も知れない悪魔さん」