オーバーロード 骨の親子の旅路   作:エクレア・エクレール・エイクレアー

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46 閉幕

 

 ツアーは神殿をぶっ壊しながら囚われていたエルフたちを助けることはできたが、壊さないで潜入するということはできなかった。その巨体が通れるような構造をしていないからだ。今回はいつもの鎧を持ってきていない。

 で、最後の神殿である闇の神殿はぶっ壊さないで潰したいという悟の考えで外での待機を言い渡されていた。それにぶーたれるツアー。

 

「それはないんじゃない?モモン。君たちの言う通りにするとは言ったけどさ?最後に何もできないとは思わなかったよ」

「ならあっちに混ざってくるか?楽しい戦いになるんじゃないか?」

「二対一は酷いだろう?それに、パンドラ君ももうすぐ勝ちそうだ」

「負ける要素がないからな。で、俺がここを潰したらもうやることはないぞ?法国を更地にするつもりはないんだから」

「くぅ~……。仕方がないか。大人しく待っていよう。それにこれでボクの国の民が守れるなら願ったり叶ったりだ」

 

 悟は頷いて闇の神殿内部へ入っていく。ナザリックのものとは比べ物にならない陳腐なトラップが襲ってきたが、それら全部パッシブスキルだけで無効化できた。

 

「幼稚すぎる……。だが、これは紛れもなくギルドトラップだ。スルシャーナはギルド長だったのか?……スルシャーナが死んで法国は狂い始めたと言うが、真偽はどこにあるんだろうな」

 

 悟は奥まで行くと、レベル六十台の男がいた。その者は神官服を着ていて、いかにもこの神殿のトップのようだった。

 

「スルシャーナ様……では、ありませんね」

「漆黒聖典の連中とは違うようだ。それともスルシャーナの死の真実を知っているのかな?どっちでもいいが、そろそろ結論は出たか?今後について」

「今後?……あなた方に恭順はできないのでしょう?」

「六大神のように上に立つ気はない。お前たちの救済なんて考えてすらいない。俺たちが考えていることは、ちょっとした平穏だ。力だけなら人類圏でも一番持っているのに、使い方を違えたな?異形種の排除だなんて、とんだ矛盾じゃないか。強者に抗うために?そのために異形種の血を取り込み?弱者たる人類種の耳を削ぎ、奴隷として売り飛ばして?これのどこが人類の守護者だ」

 

 悟の睨みに怯えたのか、闇の神官長は後ずさりをする。絶望のオーラを当てられたわけではない。ただ悟の凄味に、人間としての在り方から引け目を感じただけだった。

 

「大を守るために小を捨てる。そんなもの、どこの国でもやっていることだろう。だが貴様らは過分に手を出したな?王国を滅ぼそうとしたのは何回だ?あの国もたしかに愚かだが、愚かなりに立ち直ろうとしていた。一人の少女と少年が必死にあがいて、憂いて、大人に手を借りて変えようとしていた。そのただ中でこの一件だ。

 自分たちの幸せを捨ててでも国を良くしようとしている小さな光を、貴様らは身勝手に潰そうとした。あの尊い、眩しい光を貴様らは捨てようとしたんだ。そこにどんな理がある?王国全てを捨てることに、そこに暮らす民を消し去る権利が貴様らにはあるのか?それが人類の守護者だと?異形種の排除を目論むだと?そんなこと、何万という時が経とうが、いくらプレイヤーが手を貸そうが、不可能だ。貴様らは何もかもが捩れ曲がっている。あの少女が産まれたのも道理だろう。国そのものが病巣なんだ。あんなトチ狂った思想の人間が何人も産まれてくる、その連鎖はもう断ち切れない所まで来ているんだよ」

 

 六百年で染みついてしまった悪しき風習。そしてそれを教えとして蔓延させてきた宗教国家という体制。壊れてしまう土台がたくさんあった。それを止める力が他にはなかったために、ここまでつけ上がってしまった。

 この根本的解決は、悟にはできない。悟はカンストプレイヤーとしての力は持っているが、それでは六百年前の揺り戻しだ。ただの社会人だった悟に国をどうこうする力はない。なにせ41人という集団すら崩壊させてしまった、情けない人間なのだから。

 

「今回、大分力を失ったな。これでもまだ以前と同じように人類の守護者を掲げられるのか、少しの間は見守ってやる。それと。この世界に神なんていないぞ?プレイヤーを神と敬うのをやめろ。まともな国家にならなければ、またツアーと一緒に滅ぼしに来るぞ」

「……まともな国家ですか。それはあなた様の考える理想の国家ということでしょうか?」

「人が人として生きられる国家だ。もちろんエルフもな。ここには、スルシャーナの原初の想いも残っているんだろう?」

 

 悟は神殿の床を指さす。正確には床ではなく、地下にある物。

 

「宝物殿。そこにはお前たちが従属神と呼ぶ存在が残っているだろう。金貨の差配を行っているはずだ。そうじゃないとこの場所のトラップは引き起こせないはず。もう一度、最初に戻れ。何故お前たちにプレイヤーが力を与えたのか。その真意を思い出せ」

 

 そう言って悟は踵を返す。やることはやった。これで変わらなければ今度は確実に潰すだけだ。最高戦力はいなくなり、都市機能もだいぶ崩れた。外国を気にせず内側を治さないといけない。

 そのことにも気付けなければ、そこまでだったということだ。

 神殿から出ると、ツアーのお出迎えもそうだが、パンドラもそこにいた。パンドラがいた方角を見て、その爆心地を見たことで何をしたのか察した。今も呪詛のようなものが大地から沸き上がり、圧倒的な破壊力がそこに顕現していた。

 

「ウルベルトさんの力を使ったのか?大災厄を?」

「はい。彼女は骨も残らず消滅しました。法国という籠が変わってしまえば、彼女はおそらくもっと狂ってしまったでしょうから。自分の力を持て余し、その矛先を変えたでしょう。あまりにも彼女の精神は幼く、破綻していた」

「そうか。ツアー、ここに召喚したシモベを監視として置いていく。怪しい動きがあればすぐに駆け付ける。それが妥当な落としどころじゃないか?」

「君はそれでいいのかい?」

「エ・ランテルの住民は失ったが。エンリもネムも、ブレインもラナーも生きている。これ以降の抑止になればいいさ」

 

 悟はモモンガとしての姿をやめるために、一つの指輪を外してそこに一つの指輪を付ける。その指輪は基本エンリたちと食事をするために付けていたが、今後これを外すことはないだろう。

 

「おや。幻術を知覚させなくする指輪……というわけではなさそうだね。それが君の本当の姿なのかな?」

「まあな。スルシャーナもその姿で苦労したんだろ?人間社会で生きていくのなら人間の姿が一番だ。俺たちは冒険に出る以外でカルネ村から離れるつもりはないからな」

「おとなしくしていてくれるのが一番だけど。正直君たちほどの力を持って隠居というのは珍しいね」

「元々は人間なんだから。第二の生を楽しむだけさ。なあ、パンドラ」

「そうですね。この世界で知りたいことがまだまだあります」

 

 隠居とはまた違うだろう。やることはやるが、六大神や他のプレイヤーのように名を残すようなことを控えるというだけだ。

 

「ああ、それと。ツアーにお願いがあるんだが」

「まだあるのかい?ボクもあまり干渉しすぎると怒られるんだけど」

「エルフのことは任せたい。エルフの国に還すでも何でもいいが、王国はちょっと無理だぞ?なんせエ・ランテルが落ちたばかりだ。復興にも時間がかかるだろう」

「そういうことか。それなら任せてくれ」

 

 そうして悟たちは帰還する。この後王国でちょっとした騒動があったり、帝国に法国が吸収されたり、竜王国がとある冒険者チームに救われたりと、少しの騒動があったがこの百年の揺り戻しは比較的に穏やかに済んだと言えるだろう。

 少し人類のことを語るとするならば。とある剣聖が誕生し、その者が建てた道場が今でも名が残っていて、それが王国剣術の基礎になったために後年でも語り継がれている伝説の人物ブレイン・アングラウスと。その剣聖が一度も勝てなかったと噂される謎の剣士がいたという噂話。

 そのブレイン・アングラウスが所属した冒険者チームが世界初の偉業として、わずか十年足らずで「世界地図」を完成させたこと。その正確さから、その「世界地図」の名前は「黒銀地図」という異名もあるほどだ。その偉業を讃え、世界で唯一の、初めて見つかった最高硬度を持つ鉱石の称号「ナナイロコウ」を与えられた。

 その「ナナイロコウ」の階級になった冒険者は百年の間で他にはいない。「世界地図」以上の偉業を達成した者が現れなかったためだ。だから子どもたちは英雄になりたいではなく、「ナナイロコウ」の冒険者になりたいと言う。それだけ羨望の対象になったのだ。

 

 王国は唯一の「ナナイロコウ」冒険者を輩出したことから国として安定していき、永世中立国宣言を行う。その結果観光都市として発展をしていった。これは数々の悲しい事件を覆い隠すことのできる程、大きな隠れ蓑になった。

 中立国といえども、国交は開いている。特に異形種の国とも国交を開き、様々な国の港になることになった。特に仲が良かったのは評議国と竜王国だっただろう。この完璧な立ち振る舞いに帝国も世界平定を諦めたほどだ。

 評議国はいいとして。何故竜王国と交流を増やすことになったか。それは亡き第三王女の願いだったからだ。彼女は自決した父のことに耐えられず病弱になっていき、最終的には病に伏した。そのことが切れる前に、「ナナイロコウ」になる前の冒険者チームへお願いをしていた。

 

「竜王国には王国以上に苦しんでいる民がいると聞きます……。王国の民はお兄様に任せました。ですから、あなた方は竜王国の民を救っていただけませんか……?」

「御意」

 

 病で倒れる美しき姫と、即座に応え、信頼され、実行に移して全てを丸く収めた剣聖。この一場面は特に語り継がれ、王国の劇場で演じられない日はないというほど有名な劇となっていた。

 これについて剣聖は何も答えず、吟遊詩人がどこから情報を得たのか瞬く間に広がっていった。これについて当時の王と剣聖の密会で聞こえた秘密の会話を記そう。

 

「いいように利用しやがって……」

「何で俺なんですかねえ?いや、俺も剣が学べるなら何でもいいって安請け合いしましたけど」

「そういうところだぞ、ブレインくん」

 

 その二人は竹馬の友のようによく飲み明かすことがあったとか。さすがにこれは書物にも詩にも残っていない。ただ、これは本当にあった会話であると証言しておく。

 とにもかくにも。最初の数年は大きな騒動も多かったが、それ以降の百年は大きな戦争もなく穏やかに時は流れていった。

 その背後にはとある親子がいたとかいないとか。その真偽は定かではない。

 だが、その親が聞いたらきっと謙遜するだろう。やりたいことをやって、頼まれごとをしていただけだと。

 

「で?結局これって本当の話なの?パンドラ叔父さん」

「ンンッ!本当ですとも!今見た劇はかなり脚色されていましたし、一部父上の活躍がブレインにすり替わっていましたが、紛れもなく本当の話ですとも!」

「いや、叔父さんの解説の情報が多すぎて劇をまともに見れなかったんだけど……」

 

 

 


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