INTERVIEW

平沢進が語るバトルス、フジロック、そして2020年のライブ〈会然TREK 2K20〉

「どうか皆さん我に返らないで」

  • 2019.12.12
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Photo by 平川啓子

2019年、平沢進+会人(EJIN)の〈フジロック〉でのパフォーマンスは、多くの者に衝撃を与える〈事件〉となった。レーザーハープやテスラコイルといった独特の楽器、マスクをかぶった会人(EJIN)のSSHOとTAZZの出で立ち、そしてなにより、その唯一無二の音楽世界。現場では生々しい驚きが観客たちを襲ったのであろうことは想像に難くないが、リアルタイム配信の視聴者たちが興奮した感想を投稿し、Twitterのタイムラインを埋め尽くしていたことが忘れがたい。

そして〈フジロック〉の余韻が残る11月、平沢進+会人(EJIN)は、新作『Juice B Crypts』を携えたバトルスの来日ツアー3公演に出演。事前に平沢が〈BATTLESのためなら、韋駄天で前座しに行く。〉とツイートしていたことから、〈戦法STS〉と銘打たれたそのパフォーマンスには強い思いが込められていたように感じられた。新たに迎えたドラマーのユージ・レルレ・カワグチとのパワフルな演奏は平沢ファンの期待を大きく上回り、もちろんバトルスのファンをもあっと驚かせるものだった。

そのように今年一年、音楽ファンの話題をかっさらい続けてきた平沢進にメール・インタビューを行った。バトルスと彼らの新作について、〈フジロック〉について、そして2020年の2月から4月にかけて大阪と東京で行うライブ〈会然TREK 2K20〉について。


 

バトルスの新しさとは〈有機栽培された作物を最新テクノロジーによる配送システムでお届けする通販〉

――バトルスの前座を務められて、いかがでしたか? ツアーを共にされたことについてのご感想や印象的なエピソードをお聞かせください。

「東名阪では特にツアーという感覚はなく、日常的にかかる負荷を超えるものではありませんでした。バトルスにはこちらから挨拶に行こうと思っていましたが、モタモタしているうちに先手を打たれてしまいました。それもドアをノックするでもなく、声をかけるでもなく、ただドアのところにヌっと巨体が立っているのを発見し、慌ててこちらから駆け寄った次第です。挨拶バトルではバトルスに一本取られました」

Photo by 横山マサト
バトルス

――バトルスの新作『Juice B Crypts』はいかがでしたか?

「まったく余計なお世話ですが、あの形態でいつネタが尽きるかハラハラしていました。『Juice B Crypts』はそんな心配をする私の粗末な想像力の暗雲を晴らせてくれる作品でした。バトルスは不協和を材料に整合を生むだけでなく、時に整合を適所から外して未知のバランスを生むドリーム・マシンですが、新譜は同じ手法の中から生み出す整合に〈解放〉の任務を背負わせたような性能を備えています」

BATTLES Juice B Crypts Warp/BEAT(2019)

――平沢さんがバトルスの音楽と出会ったきっかけは〈ギターを髙い位置に構えるミュージシャンを探していたから〉だと「平沢進のBack Space Pass」(以下、〈BSP〉)でお話しされていました。そして、バトルスに〈新しいスタイル〉を感じたとのことですが、その〈新しさ〉について具体的に教えてください。

「ある標準的な演奏フォームをカッコ良しとする伝統的な美意識も新鮮さを失います。私自身現状でカッコ良いとされるギタリストの姿勢には飽きており、音楽のスタイルと有機的な関係の深いフォームもそろそろ音楽スタイルごと転換期を迎えてもいいのではないかと感じていました。そこで、ニューウェイヴの興隆と共に長髪から短髪に変わったように、高い位置にギターを構えて新しい音楽スタイルを完成させている人は居ないかと検索をしたところ、ピンポーンと鳴ってバトルスが出てきました。

バトルスの新しさは〈オーガニック・デジタル〉とでも呼べそうなその質感です。非常に乱暴な言い方をすると、多くの電子的なニュアンスを持つ音楽は、扱う音源単位の整合化を経て得られるトータルな同期感覚が特徴なのに対して、バトルスは音源単位の整理度は低く、あるいは未整理のまま、時間軸に正確に打たれたタグにそれらを配置したという感覚です。それは意図したニュアンスに加え、時に偶発的なバランスを発生させます。総論的には同期しており、各論的には誤差や揺れが渦巻いている。この奇妙な半機械感を横軸に、縦軸に生ドラムが加わるという肉体性。これがバトルスの新しさです。言うならば、有機栽培された作物を最新テクノロジーによる配送システムでお届けする通販です」

Photo by 横山マサト
イアン・ウィリアムズ(バトルス)

バトルスの2019年作『Juice B Crypts』収録曲“Fort Greene Park”

――平沢さんがバトルスの音楽に感じるのは共感でしょうか? それとも未知の音楽と出会った驚きのほうが大きいのでしょうか?

「共感であると同時に〈お隣さんは同じ肥料であんな花を咲かせている〉といった驚きです」

――〈BSP〉ではバトルスの魅力について、〈デジタル音源を使いながらギタリストとしてアプローチしている〉とお話しされていました。ギタリストの音楽とキーボーディストの音楽、その本質的なちがいはなんだと思われますか?

「質問を、ギタリストの打ち込み音楽とキーボーディストの打ち込み音楽の本質的なちがいは?というふうに置き換えてよいなら、どちらも本質的なちがいはそれほどなく、むしろそれぞれの楽器奏者がそれぞれの楽器奏者であることの執着をどれほど捨てられるかによって質感は変わる。ということでしょうか」

Photo by 平川啓子

――〈戦法STS〉について教えてください。〈BSP〉ではバトルスの前座を務めるにあたり、形態を合わせるためにドラマーが不可欠だったとおっしゃっていました。そのことにも表れているとおり、バトルスの音楽においてはジョン・ステニアーのドラム・プレイが非常に重要な役割を担っています。バトルスのドラムやリズム、ビートについて、平沢さんはどんなことを感じますか?

「〈戦法STS〉でドラマーを加えたのはバトルスと質感を合わせるためです。ジョン・ステニアー氏はバトルスの要としてあの釈然としない揺らぎをものともせず垂直に交わる秩序の怪物です」

Photo by 横山マサト
ジョン・ステニアー(バトルス)

バトルスの2019年のスタジオ・ライブ映像。演奏しているのは『Juice B Crypts』収録曲“Titanium 2 Step”“Fort Greene Park”

――地下鉄の中でドラムを叩いているユージ・レルレ・カワグチさんの動画をYouTubeで観たことが、今回カワグチさんが参加されたことのきっかけだということでした。バトルスもカワグチさんについても、そういったアティテュードやスタイルに平沢さんは注目されているように思います。それはなぜなのでしょう?

「昔から私はただ音楽が好きという理由で音楽をやっている人に関心がありません。音楽に至る動機によって音楽の質は変わるものです。どんな要求でも正確にこなしてくれるプレイヤーと、背景に音楽以外の何かを感じるがあまり上手ではないミュージシャンのどちらを選ぶかといわれれば、後者です。常にそうしてきました。その点ユージ・レルレ・カワグチは良いバランスです」

ユージ・レルレ・カワグチのパフォーマンス映像。ロンドン地下鉄車内でドラムを演奏している

――またバトルスの前座を務めるにあたって、“死のない男”を1曲目とし、ステージを彼らに渡せるような曲順を考えたとおっしゃっていました。その他、音楽的な面で〈戦法STS〉ではどのようなアプローチをされましたか?

「〈熱せず冷まさず〉です」

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Photo by 平川啓

どうか皆さん我に返らないで

――〈フジロック〉での平沢進+会人(EJIN)でのパフォーマンス〈会然TREK(夏)〉は、現場とストリーミング配信で大変話題になりました。出演前は不安を覚え、直前に確信を得て、結果受け入れられた、と〈BSP〉で語られています。現場での反応やその後のレスポンスについて、どんなことを感じられていますか?

「恐らく〈前評判が広がり〉〈実物が現れた〉という事件性が私の評価を押し上げたと思います。なぜなら私のスタイルはフェスティバル向けではないからです。現場のバックステージで感じた事もまさにこれです。〈前評判〉という前提があり〈実物が現れた〉という視線がありました。この時〈いただき!〉と思うと同時に実はもう一つの感情がありました。〈どうか皆さんそのまま我に返らないで〉という」

平沢進+会人(EJIN)の(FUJI ROCK FESTIVAL '19)でのパフォーマンス。演奏しているのは平沢進の90年作『サイエンスの幽霊』収録曲“夢みる機械”。2019年12月現在、62万回以上再生されている

――〈フジロック〉では、79年か80年にP-MODELとしてXTCと京都大学西部講堂で演奏したときのことを思い出した、とおっしゃっていました。そのときのことをもう少し詳しくお教えいただけますか?

「まさに上の答の通りのことが起きました。直前に音楽雑誌で大きく取り上げられ、人々はまだP-MODELのデビュー作も聴いていないのに期待に胸を膨らませていました。XTCが主役であるにも関わらず、部数のある雑誌のタイムリーな記事効果でP-MODELへの期待も盛り上がっていました。そこに〈実物登場〉の事件です」

――〈フジロック〉やバトルスの前座でも披露された“ジャングルベッド1.5”についてお教えください。この曲はP-MODELの“ジャングルベッドI”(81年)に歌詞がつけられたものです。歌詞をつけてこの曲をよみがえらせた理由や、いま演奏する意義などはなんでしょうか?

「先ほども申し上げた通り、私はフェスティバル向けのアーティストではありません。それをよく知る古くからのファンにしてみれば〈フジロック〉への参加に驚かれたと思います。そのようなファンが、もしも遥々苗場まで、不慣れなフェスへと私を応援に来てくださるなら、行ってよかったと思える手土産をという意味で“ジャングルベッド1.5”を作りました」

 

2020年のライブ〈会然TREK 2K20〉に向けて

――2020年のライブ〈会然TREK 2K20▼02〉〈会然TREK 2K20▲03〉〈会然TREK 2K20▼04について教えてください。どのようなライブになるのでしょう?

「▼と▲は会場の席事情を表しています。つまり▼には椅子が有り、▲には椅子が無い。それは観客の態勢を規制するものではありません。▼では周囲の状況を見極め、マナーの範囲内で自由に振る舞うことが可能なはずです。会場の状況に合わせた選曲がされるでしょう」

――大阪公演は〈ソロ曲の乱舞〉、東京公演は〈ソロ+P-MODEL曲のハイブリッド仕様〉とされています。ちがいを設けた理由や音楽的なアプローチの相違について、また、それぞれの公演への思いをお聞かせください。

「単純に会場の形態から生じたちがいです。着席会場ではソロのゆったりした曲や強くテンポのある曲に加え、視覚的な演出を交えた展開になるでしょう。起立会場ではそれに加えて核P-MODELの強い選曲も加わり、よりライヴ感のあるものになるでしょう。動員が懸念された大阪公演も一瞬でソールドアウトです。〈フジロック〉やバトルスによる〈前評判〉と〈実物登場〉の事件が起こるのでしょうか? どうか皆さんまだ〈我に返らないで〉ください」

Photo by 平川啓子

――会人が覆面を被っていることについて、〈BSP〉では〈観客の感情や思いが投影されやすくなり、そうすることで音楽が成り立つからだ〉といったことをおっしゃっていました。平沢さんの音楽のサウンドや歌詞は多様な解釈を許容するものだと思います。それは、やはりそういった意図があるからでしょうか?

「私は〈音楽は投影を受ける〉という事実を言っているだけです。勿論それに付随して様々な解釈を許容する姿勢も必要です。ですが、それは矮小化や個人的に都合の良い解釈を歓迎するという意味ではありません。あくまで作品に対峙し、時に自分の境界から出て作品の置かれている場所まで出向いた結果生じた解釈を許容し、時には期待する、ということです」

――会人のマスクがただのマスクではなく、鳥のくちばしのようなデザインになっていることにはなにか意味があるのでしょうか?

「突起があることにより運動半径が大きくなることの効果を期待しています」

Photo by 平川啓子

 


LIVE INFORMATION

会然TREK 2K20▼02
2020年2月22日(土)、23日(日)グランキューブ大阪 ※SOLD OUT

会然TREK 2K20▲03
2020年3月13日(金)、14日(土)Zepp Tokyo
開場/開演:18:00/19:00 
前売り:7,150円(全自由席/整理番号付/税込/ドリンク代別)
※未就学児入場不可

2020年3月14日(土)Zepp Tokyo
開場/開演:17:00/18:00
前売り:7,150円(全自由席/整理番号付/税込/ドリンク代別)
お問い合わせ(SMASH):03-3444-6751

■主催者先行受付
12月10日(火)10:00 ~12月16日(月)23:59
https://w.pia.jp/t/susumuhirasawa-ejin/

■一般販売
12月21日(土)~
ぴあ(P: 171-580)*For Enlish sperkers
e+(プレオーダー:12月17日12:00~12月18日23:59)
ローソン(L: 75441)

会然TREK 2K20▼04
2020年4月19日(日)東京・渋谷 NHKホール
開場/開演:17:30/18:30
前売り:7,150円(全席指定/税込)
※未就学児入場不可
お問い合わせ:
03-3444-6751(SMASH)
03-5720-9999(HOT STUFF PROMOTION)
※チケット販売情報は追ってお知らせいたします
※グリーンナーブ会員様先行予約受付は2020年1月上旬実施予定

40周年 プレイリスト
ジャンル:すべて
ジャンル:すべて
JAPAN
R&B / HIP HOP
DANCE / ELECTRONICA
POP / ROCK
JAZZ
CLASSICAL
WORLD
OTHER
          
  • 5
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