コラム

連載! 鷹野の出版ニュース&ブック解説2016

Kindle Unlimitedは限界なのか?

これからしばらくシミルボンで、出版に関するニュースを毎週1本ピックアップして解説、理解に役立つ本を紹介するコラムを連載させていただく。タイトル欄に収まらないが、副題は「鷹野の出版ニュース&ブック解説」だ。

筆者は毎週月曜日にブログで、出版関連のニュースまとめ記事を発信している。先週の記事はこちら。
http://www.wildhawkfield.com/2016/10/interesting-publishing-news-20160926-20161002.html

今回はこの中から「Kindle Unlimitedサービス開始から2カ月経ったので、ラインアップをジャンル別・出版社別に当初と比較してみた」をピックアップする。筆者が書いた記事である。自分で自分の記事を取り上げるのは面映ゆいが、この記事が大きな話題になったことは間違いない。
http://www.wildhawkfield.com/2016/10/compared-with-2-month-ago-of-Kindle-Unlimited.html

Kindle Unlimited

何が起きたのか? これまでの経緯

まず、これまで何が起きたのか、経緯をまとめておこう。Amazon の読み放題サービス「Kindle Unlimited」は、8月3日に日本でサービス開始された。告知文には「月額980円で、12万冊以上の本、コミック、雑誌および120万冊以上の洋書を読み放題でお楽しみいただけます」とあり、競合他社を大きく上回るラインアップが特徴になっていた。

筆者の手元にある8月3日時点のデータでは、読み放題対象検索結果は14万143点。スタート時点での出版社別配信数を、個別販売と読み放題で比較調査した。講談社、小学館、集英社、KADOKAWA、ハーレクイン、秋田書店、新潮社、文藝春秋、幻冬舎、スクエニ、早川書房などが10%未満に該当し、大手はあまり積極的ではない様子がうかがえる。
http://www.wildhawkfield.com/2016/08/Kindle-Unlimited-started.html

ところが開始から1週間ほど経ったころに、小学館、東洋経済新報社、リットーミュージック、翔泳社、インプレスR&Dが変動率10ポイント以上の減少。逆に、双葉社、プランタン出版、徳間書店、三笠書房は大きく点数を増やすという変動が見られた。筆者はこの時はまだ、恐らく開始直後のゴタゴタであろうと考えていた。利用者からはとくに、IT系の本が多い翔泳社の読み放題対象が激減したことに対する不満の声を目にした。
http://www.wildhawkfield.com/2016/08/Kindle-Unlimited-fluctuations-in-line-up.html

事態が大きく動いたのは8月24日。徳間書店のコミックリュウが、Amazonから「条件面での変更通達」があったため「Kindle Unlimited」のラインアップを見直すというお知らせを出したのだ。8月31日で一旦すべて引き上げ、9月1日以降は原則通巻作品の各1巻のみに配信に切り替えるという対応が告知された。このお知らせは既に消えているが、Internet Archive で見ることができる。
https://web.archive.org/web/20160824092942/http://www.comic-ryu.jp/blog/2016/08/kindle-unlimited%E3%81%A7%E3%81%AE%E3%83%AA%E3%83%A5%E3%82%A6%E6%9C%AC%E8%AA%8C%E3%80%81%E3%83%AA%E3%83%A5%E3%82%A6%E3%82%B3%E3%83%9F%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9%E3%81%AE%E9%85%8D%E4%BF%A1%E3%81%AB/

この「条件面での変更通達」とは何か? 筆者に寄せられた複数のタレコミによると、6月に文化通信で報道された「出版社の参加を促すため、サービス開始初年は単品を販売したのと同額を出版社に支払う特別条件」を、前倒しで終了にするという通達があったらしい。
https://www.bunkanews.jp/news/news.php?id=16901

その後、タレコミを裏付けるように、朝日新聞、日経新聞などがニュースとして取り上げ、大きな騒ぎとなる。朝日新聞によると Amazon は出版社に対し「想定以上のダウンロードがあり、出版社に支払う予算が不足した」「このままではビジネスの継続が困難」という説明をしたらしい。
http://www.asahi.com/articles/ASJ8Y41XSJ8YUCVL00C.html
http://www.nikkei.com/article/DGKKZO06729850R30C16A8TI5000/

筆者は9月1日に、具体的にどのような変動が起きたのかを調査した。その時点での読み放題対象検索結果は13万3170点と、当初に比べ6973点減少していた。ジャンル別では、「タレント写真集」「文学・評論」などが増加、「コミック」「アダルト」「アート・建築・デザイン」などが減少。出版社別では、双葉社、徳間書店、プランタン出版などが増加。竹書房、日本文芸社、一迅社、小学館、リットーミュージック、芳文社、松文館、翔泳社、海王社、久保書店が、3桁減少していた。
http://www.wildhawkfield.com/2016/09/compared-with-a-month-ago-of-Kindle-Unlimited.html

これは恐らく毎月変動があるだろうと思い、10月1日にも調査を行った。それが冒頭でも挙げたこちらの記事だ。
http://www.wildhawkfield.com/2016/10/compared-with-2-month-ago-of-Kindle-Unlimited.html

この時点での読み放題検索結果は12万8456点と、当初に比べ1万1687点の減少、9月1日からでも4714点の減少だった。ジャンル別では、「雑誌」と「タレント写真集」が2カ月連続増加。「コミック」が2カ月連続の大幅減少。「アダルト」は9月は減っていたのが、10月は大幅増加。「文学・評論」「趣味・実用」「ライトノベル」「ボーイズラブ」は、9月は増えていたのが、10月は大幅減少。

出版社別では、フランス書院、白泉社、光文社、プランタン出版、イースト・プレスがゼロに。ぶんか社、講談社が4桁減。逆に、エイ出版社が大幅に増加しており、「雑誌」ジャンルの大幅増に寄与している。講談社は数日後確認したところゼロになっており、ぶんか社は逆に1200点超えまで復旧する、という動きも見られた。

こうした状況に対し、講談社、光文社、小学館、「電書バト」を手がけるマンガ家の佐藤秀峰氏などが、Amazon に対し抗議を行っている、というのが本稿執筆時点までの動きだ。講談社のプレスリリースには「弊社が抗議を行っている最中に、アマゾン社は、9月30日夜以降、弊社が提供する1,000を超える作品すべてを、一方的に同サービスから削除しました。」とあり、「大変困惑し、憤っております」とも記されている。

講談社のプレスリリースに対する反響などを見ていると、多くの人が「出版社側の都合で読み放題から外した」のだと勘違いしていたようだ。恐らく講談社は、Amazon に対する抗議の意味というよりも、ユーザーや著者に対する説明の意味で、このリリースを出したのではないかと筆者は想像する。

契約上どうなのか?

実際のところ、このような一方的な削除というのは、契約上許されるものなのだろうか? 実は、筆者が入手した出版社向けの説明資料には、但し書きに「Kindle Unlimited のプロモーションにおける露出可否は Amazon で判断させていただきます」と記されている。つまり、出版社側が読み放題の対象とすることを希望しても、Amazon 側の判断で却下されることもあるのが前提になっているよう。ただ、これがすべての出版社に対し提示された条件なのかどうかは不明だ。

同様にユーザー側のサービス利用規約にも、当初から「当サイトでは、随時本プログラムにタイトルを追加し又はプログラムからタイトルを削除することがあり、また当サイトは特定のタイトルの利用や利用できる最小限のタイトル数を保証するものではありません」と記載されており、タイトルの変動があることは前提になっている(下記リンク先は8月2日時点の Internet Archive)。
https://web.archive.org/web/20160802193227/https://www.amazon.co.jp/gp/help/customer/display.html?ie=UTF8&nodeId=201556940

つまり、一方的に対象から外す行為は、恐らく契約上の問題はない。

ただ、道義上はどうなのだろう? 筆者は、「Kindle Unlimited」というサービスへの信頼や、Amazon という企業そのものへの信頼が、大きく毀損されたように感じている。Amazon の企業理念は「地球上で最もお客様を大切にする企業であること」だ。出版社やメーカーに対する締め付けは厳しいものの、ユーザーを大切にするスタンスはこれまで一貫していたイメージがある。ところが今回の「Kindle Unlimited」の対応では、ユーザーの信頼さえも損ねているのではないだろうか。

「Kindle Unlimited」は継続できるのか?

このような状況下でさまざまな憶測が飛び交っており、中には「Kindle Unlimited」のサービス継続を危ぶむ声もある。

筆者は、今後は問題なくサービスを継続できるだろうと考えている。というのは、先に挙げた文化通信での報道では「Kindle Unlimited」の出版社向け通常契約は「収益の半額を電子書籍の利用量に応じて出版社に支払う」とされているからだ。つまり、特別条件さえなくなれば、Amazon が出版社への支払い原資に困る事態は発生しないサービス設計なのだ。

また、Amazon のサイト上でも大きな変化が起きている。「Kindle Unlimited」未契約ユーザーにはボタンが表示されなくなるなど、読み放題に対応している本なのかどうかがわかりづらくなった。また、Amazon ランキングも、これまでの2カ月間は読み放題に対応した本ばかりが上位を埋め尽くしていたのが、10月に入ってからは、読み放題に対応した本は上位からほとんど姿を消した。恐らくランキングのロジックを変更したのだろう。

この2カ月間、読み放題ボタンと購入ボタンの誤クリックや、ランキング上位が読み放題で埋め尽くされている状況などに対するユーザーの不満の声を目にすることも多かった。そういった面では、利便性向上のため迅速な対応を行っていると言えよう。

ラインアップも、「雑誌」や「アダルト」ジャンルは大幅に増加している。定期刊行物である雑誌と、毎月支払いが発生する読み放題サービスは、非常に相性がいい。雑誌専門の読み放題サービスである「dマガジン」や「楽天マガジン」は好調であると伝えられており、「Kindle Unlimited」だけで読み放題になっている雑誌も多い。また、「アダルト」がサービス普及への鍵を握るのは、さまざまな過去の事例からも明らかだ。

だから「Kindle Unlimited」は、出だしはつまづいたが、今後は堅調に伸びていくだろうと筆者は予測する。

オススメの本は?

この問題を考える上でオススメの本は、『ジェフ・ベゾス 果てなき野望』だ。ベテラン記者が Amazon 創業者であるジェフ・ベゾスの許可を得て記した本であり、だからといって Amazon を過度に持ち上げているわけでもない。むしろ、冷徹で、論理的で、システマチックな Amazon の社風や企業体質が具体的に描かれている本だ。


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