第九話「数日たって」+α
――ソロモンよ、私は帰ってきた!
いや、そうじゃないだろう私。
私がバカ父に連れられて群れに帰ってきて数日がたった。
まず、帰ったと同時に兄弟たちに抱きつかれた(飛び掛かれたともいう)。
群れの雰囲気は私がいたころよりも、柔らかくなり、私に対しても群れのほとんどが私を認めてくれていた。バカ父の尽力した結果であった。バカ父には私を突き落としたりはしたが、やはり頑張ってくれていた。そんな父に少しながらも評価を改めなければ。私はそう思った。
「こーのはー! お父さんと一緒に狩りに行こう! きっと楽しいぞー!!」
父はそうやって私に抱きついて来ようとする。
前言撤回、やっぱりコイツはただ親ばかのバカ父である。
私はバカ父の飛びつきを躱しながらそう思った。
「うわーん、青葉ー! 木葉が反抗期だよー!!」
そう言って、バカ父は次女の青葉(長女は私で他に女性四匹、男性二匹)に抱きづく。
青葉は兄弟の中で一番大人びており、判断能力が高く、妹たちや私も頼りにしている。
青葉はバカ父をあやしながらこちらを見る。ヤレヤレと言った表情だ。
「まあまあ、お父さんもそのぐらいして……木葉姉さんもお父さんをあまり無下にしないであげて」
「そうはいっても青葉……このバカ父はこのぐらいの扱いが丁度いいのよ。水浴びを見てこようとするし……」
「まぁ、そこは同意するけど……」
「酷い!!」
バカ父が何か喚いているが気にしない。
その時、私はふと頭上に浮かぶ満月が視界に入った。
――そういえば、紅葉とあった時もこんな満月だったかしらね……紅葉やマコトたち元気かなぁ
私はそんなことを思いながら狩りの準備をするのであった。
木葉が東と共にこの稲守神社から去って数日がたった。
適当な理由を付けてマコトを下げた後、今日も私は一人縁側で月見酒をしている。
マコトも私の心中を察してくれているのだろう、何も言わなかった。
ふと、夜空に上る月を見る。
今日の月は満月。とても綺麗である。
――思えば木葉がこの神社に来た最初の夜もこんな満月だったかしら
ここ二か月の日々を思い出してみる。
経った二ヶ月という短い期間であったが私は彼女のことを大切な友人として、過ごした。私自身、この二ヶ月間は退屈しない日々だった。
そして彼女は去った。去る時はさびしい感じはしなかったのだが、この今日昨日は妙な喪失感が私の心の中にあった。
――「失った後で寂しくなる」こういう気持ちは、いくら長生きしようが慣れないものだわ
しかし、私はその気持ちを止めておく。
仕方がない事だった。悲しむことはできなかった。
私はマコトに彼女が回復するまで保護すると約束した上に、あの子の父親が迎えに来たのだ。
あの父親は隠しているつもりなんだろうけど、身体中に傷があったのをみつけた。あの父親は本当にあの子の事を思い行動したのだろう。
だから、彼にあの子を返したほうがいいと思った。
そして、もう一つ……本当の原因。
ふと、私はあの時と同じように、誰もいない本殿前の広場を見る。
「そろそろ、出てきたらどうかしら? 八雲紫」
「あらあら、ばれてしまったようですわね」
そう言ってスキマから妖怪の賢者――八雲紫出てきた。
もう何度目かのことである。
その後、私は八雲を縁側に上げ、いつものように二人でお酒を飲み始めた。
そして、そうしながら私は思考を続ける。
そう彼女があの子を帰す一番の原因であった。
彼女は私を式にすることを諦めていないみたいで、今回のように私のところを訪れている。
しかし、彼女は私のもとを訪れるたびに、私が可愛がっていたあの子にもだんだんと興味を持ち、よく私にあの子のことについて聞くようになった。
妖怪の賢者と呼ばれている彼女が理由もなく普通の狼(白子だが)に興味を持つとは限らない。
「何かある」私は考えを巡らせた。結果、私は二つの答えにたどり着いた。
一つ目は『木葉を利用して、私を自らの式に引き込もうとしている』という仮説。
これはまだ何とかなる仮説である。もし木葉を利用しても、あの子は実は頭は良い(この頃は徐々にアホの子になりかけていたが)し、あの子は八雲紫について私を知っている。何とかなるだろう。
しかし、問題はもう一つの仮定であった。
『八雲紫は木葉の正体――未来からの転生者ということに気づいている、又は気づきかけている』という仮説。
もし、そうであるならば手に入れたいと思うだろう。私も逆の立場なら、手に入れるか、味方に引き込もうとするだろう。
だからこそ、私は八雲紫にそのことを悟らせるわけにはいかなかった。『私があの子をここに置いていたのは気まぐれ』ということを押し通さなければならなかった。
「あら? いつも一緒にいる白い狼さんは?」
ある程度、飲んだところで八雲はそういってきた。
知っているくせに……
私はそう思いながらも、彼女にあたりさわりがないように答える。
八雲は扇子で口元を隠しながら、こちらに対してそう聞いてきた。
「あの子の父親が迎えにきたの。あの子ももう一人でも大丈夫と思って、あの子の父親に託したわ」
「あらそう……残念なことですわね」
その言葉とは裏腹にどこか含みがある言い方であった。
そして、八雲は相変わらず扇子で口元を隠しているが、その動作はどこか嬉しそうにも見えた。
もしかしたら、木葉を父親のもとに返したのは失敗だったかもしれない。
八雲に木葉との接触の機会を与えてしまった。八雲はあの子に何かするかもしれない。
そしてなにより、彼女が勘付いている可能性が高くなった。
私は仕掛けてみることにいた。
「……貴女は何故そこまであの子のことをきいてくるのかしら?」
「あら? 別に私があの子について聞いては駄目だとは言われてはいませんけれど?」
八雲はクスクスと笑いながらこちらを見てくる。
その表情は私がどんな答えを返してくるのか、期待して待っているようであった。
やはり、彼女はどこか勘付いている。
私は彼女のその表情や雰囲気からそう推測した。
ならば私はどうすれば良いのか。それは決まっている。
私は杯を持ったままだが目の前にいる八雲を見る。
その表情は最初と変わらず、どこか胡散臭い。
「八雲紫。一つ忠告をしてあげるわ」
「ふふふ、何かしら?」
私は酒がついである杯を置きながら、声を低くして言った。
「もし、あの子に手を出そうものなら……その時、私は全身全霊を持って貴女を退治してあげる」
自然と笑みがこぼれる。しかし、その笑みはいつもと違うだろうと私は自分自身でそう感じた。
それにつられたのだろう、八雲も獰猛な笑みでこちらを見返してきた。
「わたくしに勝てるとお思いですこと?」
「やってやるわ」
「ふふふ、面白い方ですこと」
私と八雲は笑顔のまま睨みあい、沈黙が続いた。
……どれくらい時がたっただろうか、いや実際はそこまでたっていないのだろうが、八雲はいきなり立ち上がった。
「それではわたくしはそろそろ、お暇しましょうかしら」
「もう帰るのかしら」
「ええ、面白いお話も聞けましたし、美味しいお酒もいただけましたから」
確かに、八雲は頬は紅くなり染まっている。どうやら酔いが回ったようだ。
八雲はスキマを作り、そこに入っていく。私はその後ろ姿を縁側に座ったまま見る。
「また来ますわ」
「ええ」
去り際にそういたので、私もそう返した。
こうして八雲は帰って行った。
八雲という乱入者はあったけれど、私はその後も一人月見酒を続ける。
しかし、いつの間にかその酒は自主酒となって、私は眠ってしまっていたのであった。
朝、僕は起きて修行をするために母屋から本殿の方に向かっていく。
木葉さんがこの稲守神社から去ってすでに何日かたってしまった。修行は今は一人でやっているけれど、自分には紅葉様がいらっしゃるので大丈夫だと思う……ってあれ? 紅葉様が縁側にいる?
僕は本殿の縁側に紅葉様がいることに気づき近づく。
「紅葉様ー? どうしたのです……あ」
そこには、大量の空の徳利が転がり、その中で紅葉様が寝てらっしゃた。
多分、自棄酒でもなられたのだろう。頬には涙の跡があった。
紅葉様もやはりさびしいのですね……
僕はその人間らしい光景を見て、自然と笑みがこぼれる。そして、本殿に上がり縁側にいた紅葉様を背負って中に運び入れる。
そして、布団を出して紅葉様を寝かす。
「……ぐすっ…………このはぁ」
「紅葉様……」
紅葉様が寝言であるが弱音おっしゃられた。
僕はその言葉に何を思ってしまったのだろうか、紅葉様の頭を撫でてしまう。
「……えへへっ」
「…………っは!? 僕は何を!!?」
紅葉様の嬉しそうな寝顔を見て、数秒後、僕は自分が何をやってしまったのか思い出す。
顔が赤くなるのを感じながら立ち上がり、そそくさと本殿から出ようとする……別に紅葉様の寝顔に見とれていたわけではない。
僕は本殿の外に出て、修行場に向かう。
が少し行ったところで戻ってき、紅葉様に言い忘れていたことを言った。
「お疲れ様です紅葉様。ゆっくり休まれてください」
多分、聞こえてはいないだろうけど。
僕はそう思ったが、すぐに修行場に向かうために駆け出す。
木葉さんもきっと頑張っている。なら、僕も頑張らなくては!
僕はそう思いながら、まだ暗さが残る小道を走って行った。
……マコト、マジヒロイン。
どうも皆様こんにちは、水城の士官です。
本当に、書きながらそう思いましたww
ここでどうでもいい、本編補足。
木葉の兄弟は一緒に生まれた子供たちのことで生まれた順番に書くと
・木葉 コノハ (長女)
・青葉 アオバ (次女)
・桧 ヒノキ (長男)
・三葉 ミツバ (三女)
・言葉 コトノハ(四女)
・柊 ヒイラギ(次男)
です。
それではこの辺で、またお会いしましょう
※誤字指摘、アドバイス、ご感動待ってます!!