アートとテクノロジーの実験区はかくして実装される:千葉市長・熊谷俊人との対話で見えた都市の未来図

思考実験とプロトタイピングを通して、ありうる都市のかたちを探求するリサーチプロジェクト「METACITY」のキックオフカンファレンスが今年幕張メッセで開催された。そこで交わされた千葉市長・熊谷俊人と『WIRED』日本版編集長・松島倫明との対話からは、「WIRED特区」構想も飛び出した。アートやテクノロジーは都市の発展にどう活かせるのか? セッションのダイジェストをお届けする。

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AVA/V2(Particle Physics Scientific Installation)BY Ouchhh

青木竜太(モデレーター/以下、青木):今回のセッションのテーマは「千葉市憂愁(チバ・シティ・ブルース)」で、これはウイリアム・ギブスンのSF『ニューロマンサー』からとったものです。熊谷市長はお読みになられていますか?

熊谷俊人(以下、熊谷):以前から読んでいます。

青木:そうですか。ぼくも千葉に住んでもう10年ですが、海外の友人たちと話すと、「Chiba cityと言ったらニューロマンサーの街じゃないか、いまあそこはどうなっているんだ?」と訊かれるんです。

熊谷:市政をやっていくなかで、『ニューロマンサー』はかなり意識しながらやっていますよ。

青木:そうですか!

熊谷:市議会でも一度、『ニューロマンサー』の話を振られて、熱く頷いた記憶があります。

松島倫明(以下、松島):『ニューロマンサー』はいわゆるサイバーパンクと言われるジャンルで、電脳空間とバイオテクノロジーによってハックされた、かなり退廃的な都市としてChibaが描かれていますよね。市長の目指される千葉市というのは?

熊谷:アンダーコントロールになっていることがいいかどうかは別として、そういう先端的な技術や価値観などがグチャッと混ざりあっていることに関しては、わたしは結構前向きです。幕張新都心は元々そういう新しい技術と新しい感性を街の力に変えることを目的につくられた街ですから。

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METACITYディレクターの青木竜太(左)をモデレーターに、千葉市長の熊谷俊人(中央)と本誌編集長・松島倫明(右)が「千葉市憂愁(チバ・シティ・ブルース)」をテーマにトークセッションを行なった。

青木:この「METACITY」というプロジェクトは、アートやテクノロジーを都市の発展にどう活かせるかというテーマで、まさにそういうところにフォーカスしているのですが、その取り組みについてはどう思われますか?

熊谷:幕張新都心らしいテーマだなと思いました。新しい技術によって、社会はいろいろな面で変わっていく。その社会の将来像が、この幕張メッセを中心とする幕張新都心で、日本のどこよりも先に感じられる、というのがひとつの価値なんですよ。ですから、METACITYのテーマを聞いたときに、一般の人はなかなかわからないかもしれないけれども、幕張メッセ、幕張新都心をもっている千葉市とすれば、意味はよくわかると感じましたね。

青木:なるほど。松島さんはどう感じましたか?

松島:よく出版とかメディアの世界だと、半歩先を行くのがポイントだと言われるんです。一歩先を行くと誰も追いつけないからという意味なんですが、METACITYはもっと先を行っちゃってる。そこに市長がこうして幕張新都心を文脈として重ねて、さらにそこに千葉市憂愁、つまり『ニューロマンサー』をかぶせてくるということで、すごく文脈がつながった感じがしました。

アートを都市にどう接続させるか

青木:METACITYでは社会課題とアートをどう接続させながら循環させていくかを考えていきたいと思っています。千葉市長として、こういうところにつなげられないか、と想起するものは何かありますか?

熊谷:幕張新都心は国家戦略特区にも指定され、ドローンやモビリティの実験もしていて、常に目指すべき理想像というものがあるわけです。例えば人がそれぞれ全員違っていることを前提に、それぞれに合わせて支援、福祉をするとか、移動もその人にとって最適な移動手段で目的地に行けるようにするとか。それがテクノロジーの進化によって可能になってくるわけですよね。だから大切なのは、われわれは何を理想としているのか、行政としての最高の姿は何なのかということを考えていくことで、結果的にテクノロジーでこれをしたいよね、あれをしたいよねというのが出てくるのだと思います。

なんでこんなことを言うのかというと、例えばアートの世界を考えただけでも、行政は本当に三歩遅れるんですよ。千葉市だとこの幕張でロックフェスとかよくやっているわけです。じゃあ行政の文化政策にロックが入っているかというと、入っていない。いまだに吹奏楽とクラシックで、補助金の出し先も全部ハイカルチャーと言われているものなんですね。わたし自身はオールドクラシック、ハイカルチャーも大好きですが、いまやロックですらオールドカルチャーの時代に、それが文化政策ではないことになっている。こういうのを見てしまうと、今回のアートの議論などは、行政からすると6歩先の話をしましょうという印象です。

松島:いま日本ではビジネスの分野でもやっと、アートを取り入れなきゃということで、かなり企業が始めている段階なんです。なので、アートと行政をいきなりつなげるというこのMETACITYは、相当の荒技だなと。

熊谷:そうなんです。でも結局、日本の特に行政では、デザインがものすごく軽視されているわけです。ここでデザインとは建物とかテーブルのデザインというより、コンセプトワークとか哲学とか都市として何を目指すのかという意味でのデザインで、それがすごく不足している。デザインについてちゃんと人材を入れて、本当の意味で考えていかないとだめだよねっていう話を都市局などとちょうど今日もしてきたところです。ですので、いいタイミングでMETACITYをやってもらえたなと。

青木:それは素晴らしいですね。例えばリープ・フロッグ理論ってありますよね。アフリカとかで、電話網をもっていないからこそ、いきなり携帯電話が普及するという。アートをどうとり入れながら、モノだけでなく制度や未来のヴィジョンを含めたプロダクションにつなげていくかといったところが、いまや世界では大きな課題であり、率先されているところだと思うんです。

例えば、IKEAの実装ラボである「SPACE10」なんか、自分たちのカルチャーがあるフィンランドの本社ではなくて、あえてデンマークに置かれて、建築の人たちを入れて本社から離すことによって違うカルチャーをつくりつつ、新しいことをとり入れている。そういった意味で、Chiba cityもいろいろな挑戦ができるんじゃないかと思うんです。

熊谷:そうですね。いま文化振興についても、デジタルアートも含めて、もっとアートというのをフラットに見て、全部支援していこうということで、何年もかけて議論して、だいぶ大きく方向を変えてきているんです。例えばヴォーカロイドのようなものも含めて全部音楽でしょ、というようなことで支援するようになってきた。

青木:やられてますよね。

熊谷:そういう意味では幕張新都心をもつ意味というのは、常に新しく挑戦をする、新しいものをとり入れることそのものがカルチャーなり、文化なんですよね。ですから、リープ・フロッグ理論には直接関係ないかもしれませんが、われわれはよい意味で蓄積をつくらないっていうのがひとつの考え方だと思うんです。幕張新都心はそういうものなんだということを行政の関係者も理解してくれれば、結果的にみなさんの想いもかなうようなエリアになってくるんじゃないかなと思います。

松島:やっぱりニューロマンサー的な、ちょっと治外法権的なイメージがありますね(笑)

熊谷:(笑)

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熊谷俊人|TOSHIHITO KUMAGAI
千葉市長。1978年生まれ、神戸市出身。2001年早稲田大学政治経済学部卒業、NTTコミュニケーションズ入社。2007年5月から2年間、千葉市議会議員を務め、2009年6月、千葉市長選挙に立候補し当選。当時全国最年少市長(31歳)、政令指定都市では歴代最年少市長となる。現在3期目。娘・息子・妻と4人家族。趣味は登山、詩吟、歴史。

青木:文化の治外法権としてやっていくという(笑)。例えばアーティストの方たちには、もちろん金銭的な部分もあるけれども、いろいろな支援のやり方があります。アートをすぐ取り入れようといっても、アーティストにお金を払ってはい終わりとなると、それは単純なクライアントワークにすぎないと思っています。

ここでひとつの大きな問いになってくるのは、アーティストがどうやったらここに根付くのかということだと思うんです。例えば、アーティストたちが活動しやすい環境があるとか。大きなアート作品をつくっていると置き場がなかったりするわけですよね。幕張新都心であれば、それなりのスペースを確保しつつ、東京にもリーチ可能な距離といったところはすごく強みになると思います。そういう意味では、例えばアート特区みたいな概念や考え方みたいなものは、今後の射程に入っているのでしょうか?

熊谷:さっき控え室で松島さんとも話していたんですが、幕張新都心は都市空間にかなりの余裕があるんですね。一方で現時点では、余裕があるがゆえに無味乾燥で、移動すると辛くて仕方ないといった現状がある。普通の街だとウィンドウショッピングなどしながら歩けば意外と長く感じない距離が、幕張新都心を歩いているとすごく疲れるのが実情です。そこでモビリティでそこを補えないかということを考えているんですが、逆に言えば、その広い空間を使ってアートを何らかのかたちで見せるっていうのは、充分ありうる選択肢だと思います。

あとは、どういうアートの方向性でこの幕張新都心という都市空間を使っていくのかだと思います。横浜や東京との違いという意味では、幕張は文化的な蓄積がないわけですよね。であるならば、やはりいちばん新しいテクノロジーで生まれてくるアートの潮流みたいなものが都市空間に出現できていると、面白いのではないかと。たぶん大変な物議を醸すかもしれないですが。

青木:わかります(笑)

熊谷:そういったこともアーティストの皆さんと話し合って、「じゃ、幕張のここで試しにやってみましょうか」というのは、充分ありうる話だと思うんです。

松島:都市をつくるには時間がかかるわけで、都心のデヴェロッパーさんなんかと話していても、土地を用意して、計画を立て、上モノを建てて、そこに人が根付くまで20年くらいかかるから、20年先のテクノロジーがどうなっているかを考えながらつくらないとまずいんですって言われていて。それって多分無理なんですよ。というのは、例えば10年前って、市長もやられているTwitterやSNSがまだ日本ではブレイクしていなかった時代で、いまやそうした「新しいインフラ」がない時代に戻ることすら難しい。じゃあ10年後にテクノロジーがどう使われているかといえば、おそらくいまは想像していないかたちになっているはずです。

ビジネスの文脈だと、どうしても「ありうる未来」しか考えないことになるわけですが、10年後、20年後ですら考えられないときに、アートという文脈が非常に有効だと思うんですね。現実にビジネスになるかわからないし、本当に暮らしに定着するかはわからないけれども、「こういう可能性がある」というものをいち早く実装できるのがアートだと思うんです。「人類のありうべき都市」というのがMETACITYのテーマですが、それが見えるショーケースとしてこの幕張新都心があったらすごく面白いかもしれません。

青木:それは、めちゃくちゃ面白いですよ。

松島:アートはある種の「炭鉱のカナリア」的なところがあるわけです。誰よりも先にいち早く社会の変化に気づき、ときに警鐘を鳴らし、その可能性を照らし出すことは、アートにしかできないと思っています。なので、ぼくも『WIRED』の編集長になって真っ先にアルス・エレクトロニカ[編註:オーストリアのリンツで開催されるメディアアートの祭典]に行ってきました。「テクノロジーと未来」といったテーマを語るなら、そのためのアングルはアートか、あとは哲学かSFだと思っていて、そこら辺から見ないとちょっと難しいんじゃないかと思っているんです。さらに「都市」がそこに絡むっていうのは楽しみですよね。

ジェイコブズからのリープ・フロッグ

松島:あとは都市論でいうと、よく引き合いに出されるのがジェイン・ジェイコブズで、1960年代にアメリカ大都市の大規模開発に対して、どうやって生き生きとした都市をつくるかというときに、彼女の挙げていることが4つあって、いまの幕張とはことごとく真逆なんですよね。だから、そこを先ほどのリープ・フロッグのようにどう飛び越えるかっていうことだと思うんです。

例えばジェイコブズは、新しい建物と古い建物を必ず混在させなければならない、と言っている。なぜかというと、新しい建物だけだとどうしても家賃が上がり、クリエイティヴだけれどもお金のないアーティストだったり、アイデアはもっているけれどお金がない学生が住めず、エスタブリッシュばかりの高級住宅街になってしまう。つまり、先ほども「混沌」というキーワードが出ましたが、ぐちゃぐちゃっと混ざっていなければならないわけです。

それに彼女は、道はまっすぐじゃないほうがいいし、短いほうがいいって言っていて、これも幕張とは真逆です。先ほど市長も言われたように、長いと結局、道を歩いていて偶然の出会いを生まないわけです。でも、都市というのは一回つくっちゃったら何十年も変わらないものなので、だとしたら、その上に今度はテクノロジーとかアートのレイヤーをかぶせることによって、もしかしたら猥雑さや混沌としたものをつくれるのかもしれない。そこにチャレンジされたら、すごく面白いのかなと思います。

青木:面白いですね。おっしゃる通り、蓄積がないからこそ、ソフトウェア的な要素をもっているというか、いかようにも変えられる要素をもっていると。情報、まさにテクノロジーをアドオンすることによって見えてくる、価値化できるというのはまさに共感します。

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青木竜太|RYUTA AOKI
コンセプトデザイナー・社会彫刻家。ヴォロシティ代表取締役社長、オルタナティヴ・マシン代表取締役。その他「Art Hack Day」、「The TEA-ROOM」、「ALIFE Lab.」、「METACITY」などの共同設立者兼ディレクターも兼ねる。主にアートやサイエンス領域で、コンセプトデザイン、クリエイティブディレクション、プロジェクトのプロデュースや事業開発をおこなう。価値創造活動を支える目に見えない構造の設計を得意とする。Twitterアカウントは@ryuta_aoki

熊谷:松島さんがおっしゃったように、やっぱり都市空間に混沌は大事なんですよね。でもこの幕張新都心っていうのは、もう逆なんです。完全にエリアを分けた、その当時の都市計画でつくったわけで。

松島:当時の最先端のやり方でつくったんですよね。

熊谷:結果、やっぱりつまらないんですよ。物事は見えないもの、わからないもの、違うものがあったほうがいいので、デザインされた混沌をどうつくっていくか、幕張新都心のなかにもそういう要素が絶対に必要なんですよ。それはずっとわたし自身が課題として思っているもので、どういう要素を入れていくかというときに、アートというのはありうべきものですよね。

松島:イースト・ロンドンの例えばショーディッチなんかが好例で、オリンピックもあっていまやヒップな場所の代名詞になっていますが、東京でいえば東東京みたいな、もともと家賃がとても低くて誰も見向きもしないような安いエリアに最初にアーティストが入っていって、学生も入っていく。そうした人たちは何か手弁当で面白いことを始めて、アートギャラリーができ、そうするとカフェもできて、人が集まっていくわけです。

それがこう、だんだん商業化してきて、面白そうなエリアだと言ってお金のある人が入ってくるとジェントリフィケーションが起きて、そうするとまたアーティストは次の、誰も見向きもしていない値段の安い所に移っていく。それが、都市のなかでの入れ替わりだと思うんです。たぶん市長がおっしゃる混沌って、その最初の入り口のところにそういう人たちを招き入れるということで、そこから種をまいて木が育つというサイクルなのかなと。

いまの幕張というのは本当に整然としていて、30年前に考えられた未来都市として完成されているわけですが、次の30年を考えないといけないとすると、混沌としたエリアをどこにつくれるのかがポイントですね。

青木:言える範囲で結構なのですが、そのカオティックな部分というのは、イメージはあるんでしょうか。例えばこういう状況ができたらいいなという。

熊谷:まずひとつは、幕張新都心で飲食するとなるとビルの中なんですね。人間は、ビルの中のスペックの高いところで食べるのもいいと思うんですが、やはりぐちゃっとした空間が好きなわけです。そうじゃなければガード下があんなに人気になることはないわけですよね。音がうるさいことも含めて魅力なわけなので、幕張新都心にもそういうオープンでぐちゃっとした空間で飲食が楽しめることが必要だと思っています。それから、人々がぐちゃっとした場所で交流できる、隣が見えないというか、先が見えないような、そういう空間をどうつくるかですね。

幕張新都心は県の企業庁がつくった大変素晴らしいプロジェクトで、当時つくったコンセプトは正しいと思っています。それを今度は千葉市にほぼ完全に移管されたなかで、残された空間はそんなに多くないですが、そのなかで一部、幕張新都心のコンセプトを少し変えていく、というタイミングです。つまり、いまのOS を入れて都市をつくっていくということです。そこにアートというのもひとつあるんだなとMETACITYの話を聞いて思いました。

自然という資本をデザインする

松島:アーティストが集まる場所は、経済資本みたいなものの蓄積はないかもしれないけれども、社会資本と言うか、人的資本の蓄積が一気に上がる社会になってくる。それはすごく面白いですよね。あと、青木さんが文化資本とおっしゃっていた公園のようなものも。あとぼくは、自然資本というのもすごく大切だなと思っていて。

青木:鎌倉に住んでらっしゃるんですもんね。

松島:はい、もともと東京生まれで40年都心に住んでいたんですけれども、5年前に鎌倉に引っ越して。やはりそれは自然がそこにしかないからで、人はどこにでも動けるし、物も動かせるけれど、自然だけは動かせない、だからその自然資本をどうやってアートなり都市というものに絡めていくのか……。

熊谷:そこ、すごく重要な点だと思うんですよね。やはり東京ではできないっていうことをするのがわれわれの役割だと思っていて、東京で絶対できないのはまさにそこなんですね。わたしも東京で生活していましたけれど、千葉に来て感じるのは、朝サーフィンをしたあとで仕事をしてる人が普通にいるわけですよ。そういう意味で、決定的に生き方として違うんですね。テクノロジーが進んでいけばいくほど、「リタイアして田舎暮らし」じゃなくて、田舎暮らししながら仕事するっていうのが、どんどん実現できるようになってくると思うんです。千葉も、そういう意味で普通に虫がいたり鳥がいたり、ちょっとワイルドなんですよね。

松島:カウンターカルチャー系の友達はみんな、いすみ市とか鴨川とかあっちのほうに行って、ちょっとコミューンみたいなものをつくっていたりします。いまあの辺りは面白いですね。千葉市は地理的にそういったエリアを後ろに抱えているわけなので、もっと交流が出てくるといいですね。

熊谷:そこはデザインによって、どう価値に置き換えるかだと思うんです。わたしは東京よりこっちのほうが、絶対に人間としては正しいと思うんです。でも実際に千葉の人たちと話していると、「駅を降りて目の前に百貨店が2店舗ないとなんか恥ずかしい」とか、まだ東京の価値観なんですね。

いつも千葉の人に言ってるのは、だって木更津にアウトレットがあるでしょうと。みんなこっちに来てるんですよ。木更津も、酒々井も含めて首都圏でアウトレットと郊外型のモールが最も多いのはわれわれなんです。つまりこっちのほうが便利なのに、まだ駅前の商業施設にこだわっているのはおかしいんじゃないのかなと。みんなが行かないから百貨店はつぶれるし、郊外型アウトレットが増えている。どう考えたってこっちが先駆的な状況なのに、いまだにそれを誇りに思わずに、「駅前に商業施設が」と言っているわけです。

そういう意味では東京に対する価値観を変えないといけない。千葉の人たちが「サーフィンにも行けないのに働いてるなんて、本当よく働くね」というふうに思ってもらうには、ライフスタイルをしっかりデザインして、訴求力のあるかたちにしていかないとダメだということです。

松島:面白いですね。アーティストっていまどうなんでしょう? 都心にいるんですか? 里山みたいなところにポーンと行っちゃうパターンもありますよね。でもやっぱり、ある程度の人の集積がないと、田舎にただ行って田舎暮らしをしても、それは違うとぼくは思っているんです。

熊谷:昔からそうですもんね。アーティストの皆さんも若いころは特に、ぎゅっと集まって、そこの相互刺激で創作が生まれてくるんですもんね。だから、本当の意味での田舎じゃダメだと思っています。ある意味でインスピレーションの湧きやすい空間を、東京とは違うかたちでつくっていくのが大事だと思うんですね。東京にはないものが、千葉側にはありますから。

松島:大きなインフラとしての都市と、自然資本もあって。

熊谷:20〜30分したら田舎ですから。このバランスですよね。

青木 :新しい文化をつくり始めてる人たちをどう招き入れるのかというときに、それが受け入れられる場所をどうつくっていくのかが大切です。例えばヴァンで生活している人たちって、停める場所がないんですね。

熊谷:ほー。

青木:いまヴァンライフってはやっていて、自由にどんな場所にも行って好きなように過ごし、仕事もしてっていう自由なライフスタイルなんだけれど、でも停められる場所がないと。でも幕張なら場所があります。そこに集積場をつくって、シャワーが外にあったりして、それを取り入れたらいいんじゃないか。彼らって、そういう文化的な感度が高い人たちで、発信力もなかなかあったりするので。

松島:カルチャーを抱えて走ってるようなものですもんね。サーフボードなんかを積んで、冬になると雪山に行って滑ってとか。先ほど控室で市長が少しおっしゃっていましたが、昔はアート作品を街に置いて「アートの先端都市だ」と名乗ることができたかもしれないけれども、やはりいまは人だと思うんです。人がカルチャーとかネットワーク、あるいはイノヴェイションの土壌なんかをもってきてくれるわけで、そうした人たちとどう引っかかりをもてるか。

青木:若い人だと街全体をシェアしていくという感覚をもっている方たちが結構多いんです。それがいいかどうかは別として、例えば「コンビニは自分の冷蔵庫」といった感覚のように、部屋や空間が外に拡がっていて。現状だと、幕張はそういうのが足りないところはあると思うんですけれども、それを許可できれば展開として全然ありえるなって思うんです。

熊谷:そういう意味でわれわれが邪魔しているものがあれば、それをしっかり撤廃して、例えばエリア的にここはそういうふうにしてみましょうか、というのは充分にありだと思うんです。アイデアを言っていただければ、千葉市は議会を見てもらっても比較的柔らかい方々が多いので。

アート・テクノロジー・WIRED特区

松島:まさに今回のテーマになっていますけれども、それをプロトタイピングする場が必要ですね。

青木:おっしゃる通り。いちばん気をつけなければならないのが、おっしゃっていたようにアート作品を単に置くだけでなく、プロセスをどうつくっていくか、そこに巻き込めるかどうか、そこに挑戦できたらいいなと。コーディネートできる人がどれくらいいるかというのが、すごく重要だと思っているんです。

松島:『WIRED』というメディアは雑誌とオンラインがあるんですが、ただの出版ではなくメディアを再定義して、未来に向かって一歩前に進むためのコンテンツを出している。それなら外のビッグプレイヤーと組んで、それをちゃんと日本社会に実装していくところまでやるのが新しいメディアだと考えているんです。

日本のビッグプレーヤーということでは、行政だったり大企業だったりの方たちが今日もたくさん会場にいらっしゃってますけれども、ぼくらは「未来」っていうものを提示するのが仕事だとすれば、アーティストもそうだと思うし、メディアもそうだし、熊谷市長も、それこそヴィジョンを出していくのがお仕事だと思うんです。それを、ちゃんとビッグプレーヤーと組んで実装していくところまで行くのが大切で。

昔だったらそれは、すべてをお上である行政にお任せしますっていう話だったのかもしれないですが、多様な組み方で実装まで一緒にできるっていうのは、アーティストも含めてこれからそういう話になってくるんだろうなと思うんです。

熊谷:もっとそういうことを言ってほしいですね。意外と行政ってできるし、法律も変わってきてるんですよね。でも待っていると文化でもアートでもビジネスでも、既存の団体の方がわれわれにいっぱいアクションを求めてくるわけですよ。それで、気が付いたらそっち方向に倒れちゃうんですよね。

でも、新しいテクノロジーやアートをつくられる方々が、若干の組織立った動きで具体的なことを提案してくるのはものすごく少ないんです。そういう意見は絶対に欲しいので、ぜひ公共空間をもっとやんちゃに使うために、やんちゃな人たちがある程度は組織だってアプローチをかけてきてほしいなと思います。

松島:よく言われることだと思うんですが、特に欧米圏の考え方で言うと、アートってすごくポリティカルだと。常にスタンスがあって、広い意味での政治的な主張が常にそこにあるわけです。それで言えば、テクノロジーというのも、すごくポリティカルなものだとぼくは思うんですよ。テクノロジーひとつ、アーキテクチャーひとつで政治的・社会的生活すべてが変わっちゃうわけです。

いまやシリコンヴァレーに住む20歳そこそこの白人男性がつくるサーヴィスひとつで世界中のアーキテクチャが決められて、それに従った生き方をぼくらはせざるをえない現状とか、日本で生きていてもあまり意識しないじゃないですか。でも、ぼくらは日本じゃなくて海外でつくられているサーヴィスを普通に使っているわけですよね。

だからアートも本当はポリティクスと近いぶん、たぶんもっと組みやすいあり方があるはずなんです。アートと都市みたいなことっていうのが、ヨーロッパなどでは先進的に進んでいる一方で、日本ではまだそこを切り結ぶ文脈というのがなかったんだと思うんです。

熊谷:わたしもこの世界に来て本当に実感するんです。わたしは元々どちらかと言うとコンピューターやITの世界の人間なんですよね。政治の世界に来るときに、ものすごく真逆の世界に来たなっていう気持ちがあったんです。でも実際、行政をあずかっていて感じるのは、ふたつの世界は極めて親和性が高い。かつ、そこがくっついてないがゆえに、できるはずなのにできていないことが実はたくさんあるんですよね。だからそれをちょっとやるだけで、「全国で初めて」となっちゃうものがたくさん出る。わたしは行政、まちづくり、政治とテクノロジーはものすごく親和性が高いと思います。

松島:それが見えている所から真っ先にやっていくというのが、日本社会を引っ張っていくのだと思います。それこそ、『ニューロマンサー』のウィリアム・ギブスンが言っていることで、『WIRED』でもたびたび引用するのが「The future is already here — it’s just not very evenly distributed」で、未来はすでにどこかに存在しているけれど、それが均等に分配されていないからまだ見えてないだけだ、という言い方があるんです。

もちろんぼくらは『WIRED』としてそれを真っ先に見つけたいけれども、そこってたぶんアートとかそういう人たちが社会の片隅でまず面白いこととか、何かちょこちょこっと始めているんですよね。メインステージにまだいない間にやっている。そことどれだけパイプをもっているか、どれだけ可視化できる環境に自分がいて、それを面白いと思えるポジションにいるかというのがすごく大切で。そこの接点として、このMETACITYがすごいことになると思ってるんですよ。

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New Age Of Renaissance: POETIC AI BY Ouchhh

青木:ぜひ期待したいですよね。先ほど市長がおっしゃっていた通り、アクセスする人が少ない。アクセスしていいものかがわからないっていう人が結構多いってことですよね。

熊谷:もう本当にびっくりしたんですよ。アクセスしていいかどうかわからないと。アクセスは当然していいでしょう。ぼくら、民主主義国家ですから。何でも言える国ですから。アートの人たちはもっとワイルドに、アート的にぶつけてほしいんですよね。

青木:そこをもうちょっとうまくコーディネートできるかどうかですね。あとは、まさに『WIRED』みたいにいろんなカルチャー、テクノロジスト、アーティストが注目しているメディアで発信していくことができたら、多くの人がきっと集まってくれると思うんですよね。例えば『WIRED』が新しく考える、ありうる都市みたいなものを。

松島:市長、「WIRED特区」ってどうですか? いろいろとアイデアが出てきそうな気がします。

熊谷:いいですね、それは正直、面白いと思いますよ。何でかと言うと、わたしが去年から都市局に宿題を出しているのは、やっぱり街に哲学とアートが必要だよね、と。だとすると、それはどういう人にお願いをするべきなんだろうかと。ひとりの人なのか、会社なのか、しかもどの分野の人なのか、都市設計の人なのか、アートの人なのかっていうものです。都市局は「日本に例がないので」って言いながら、とりあえず新年度からちょっとまずはやってみようという状態なんです。でも『WIRED』の方がそれは明らかに集合知がそこに集まっているので、ぜひ『WIRED』さんに、長期にこういう方向でもっていきたいっていうのを言っていただいて。

松島:そうしたら、米国と英国も『WIRED』がありますので。

青木:世界の街の動きを注目しながら、情報を流して交換しつつ。

松島:海外の読者には、「あのCHIBA CITYだから」って言うだけで全員ガッツリと来ると思いますよ。

青木:(笑)あの『ニューロマンサー』のって。

熊谷:みんなでつくろうみたいな。

松島:みんな大喜びだと思います。まさにアートとメディアといったあたりがちゃんと入ってくると、ちょっと違う街づくりができるかもしれないですね。

青木:ぼくは、物理的な作品そのものより、社会を彫刻するっていうこと自体がアートだと思っているんです。そういうスキームをつくっていったりという、そのものが将来は注目される分野だと思っているんですよね。だからいまの話ってアートそのものな気がすると言いますか。

熊谷:ちょっと前向きにやりましょう。

松島:ぜひよろしくお願いします。

青木:本当に素晴らしい。これからいろんな動きがありそうな話がきけて、本当によかったです。ありがとうございました。

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人工知能の思考過程を可視化する、「AI監視ツール」を生み出すスタートアップ企業たち

データ不足や認知バイアスなどAIによる意思決定の問題が指摘されるなか、AIが誤った決断をしていないかを監視し、その“思考過程”を可視化するためのツールを提供する企業が登場し始めた。このツールは、AI開発に携わる技術者たちに安心をもたらすと同時に、AIの活用が進まない領域に導入を促す効果もあるという。

TEXT BY TOM SIMONITE
TRANSLATION BY KAREN YOSHIHARA/TRANNET

WIRED(US)

eyes

IMAGE BY ELENA LACEY

人工知能AI)を専門とするスタートアップのClarifaiで働いていたリズ・オサリヴァンは2019年1月、上司に宛てた嘆願書を書いていた。その目的とは、同社が米国防総省と結んだ契約に、倫理上の制約を設けることを要求すること。当時『WIRED』US版は、ドローンが撮影した画像を機械学習で解析するという物議を醸す国防総省のプロジェクトに、Clarifaiが携わっていることをすでに報じていた。

そこでオサリヴァンは、攻撃や殺傷の対象を自律的に判断する兵器の開発に同社が貢献することはないと約束するよう、最高経営責任者(CEO)のマシュー・ズィーラーに強く要求したのだ。

ところがオサリヴァンによると、ズィーラーはその数日後の社内会議で嘆願をはねつけ、自律型兵器の開発に貢献することに問題があるとは考えていないとスタッフに告げたのだという。この件についてClarifaiにコメントを求めたが、回答は得られなかった。

オサリヴァンは自らの態度を明確にする決断をした。「辞職したんです。その週末はずっと泣いて過ごしました」と、彼女は言う。それでも週が明けた月曜には、事前の計画通りテクノロジーにおける公平性と透明性に関する学会へと旅立った。

そこで出会ったのが、米金融大手のキャピタル・ワンでAIプロジェクトを率いた経験をもつ、アダム・ウェンチェルだった。やがてふたりは、企業に対して導入後のAI制御をサポートするというビジネスにチャンスがあるかどうか、話し合いを始めた。

AIの思考過程をさかのぼることができるのか

オサリヴァンとウェンチェルは現在、スタートアップであるArthurAIの共同創業者に名を連ねている。

ArthurAIは、機械学習システムのパフォーマンスを監視するエンジニアへの支援ツールを提供している。このツールを使用すると、金融向けシステムがバイアスのかかった貸付や投資の判断をしているなどの問題を検知しやすくなる。ArthurAIは、AI時代におけるデジタルの安全性向上のためのツール開発によって利益を目指す、数ある企業の1社なのだ。

研究者やテック企業は、AIが間違いを犯すことに警戒を強めている。黒人の顔を対象とすると精度が低くなる顔認識アルゴリズムもそのひとつだ。マイクロソフトとグーグルは現在、自社のAIシステムによって倫理的あるいは法的な問題が生じる可能性を投資家に注意喚起している[日本語版記事]。

金融、ヘルスケア、政府といったあらゆる分野にAI技術が普及しつつあるなか、新たなセーフガードも同様に広めていく必要があるとオサリヴァンは言う。現在、ArthurAIの商業オペレーション部門のヴァイスプレジデントを務める彼女は、「AIシステムがいかに強力なものなのか、そしてその利点を活かすには責任ある方法が必要だという認識が広がりつつあります」と語っている。

ArthurAIや同様のスタートアップ企業は、最近のAIブームの原動力となっている機械学習の問題点に挑んでいる。機械学習モデルは人間が書く通常のコードとは異なり、融資判断を行うなどの特定の問題に対して、過去のデータからパターンを抽出することで自ら適応している。その適応や学習の過程で行われる多くの変更を、人間はそう簡単に理解することはできない。

「機械自身にコードを書かせているようなものなので、人間が論証するように設計されているわけではないのです」と、スタートアップのWeights & Biasesの創業者でCEOを務めるルーカス・ビーワルドは言う。同社は機械学習ソフトウェアのデバッグ作業を行うエンジニアをサポートするためのツールを提供している。

関連記事:進化し続けるAIのこと、あなたはどこまで知っている?:WIRED GUIDE 人工知能編

ブラックボックスを脱するために

研究者たちは一部の機械学習システムを、「ブラックボックス」と呼んでいる[日本語版記事]。開発者でさえ、システムがどのように作動しているのか、あるいは特定の決定がなぜなされたのかを、必ずしも正確に説明できるわけではないからだ。

とはいえArthurAIなどの企業は、このブラックボックス化の問題を完全に解決できると謳っているわけではない。機械学習ソフトウェアの行動を観察・可視化することで、精査しやすくするツールを提供しているのだ。

機械に巨額の投資を行ってきた大手テクノロジー企業も、自社での使用目的で同様のツールを開発している。フェイスブックのエンジニアは、求人広告表示のアルゴリズムがさまざまなバックグラウンドをもつ人々に対して正しく働くことを確認するために、「Fairness Flow」というツールを用いている。

しかし、大型のAIチームをもたない多くの企業は、こういったツールを自社開発することに消極的だ。そのため、Weights & Biasesのような企業に頼ることになるだろうとビーワルドは話す。同社の顧客であるトヨタ自動車の自動運転技術の研究所では、新しいデータを使って機械学習システムのトレーニングを行う際にWeights & Biasesのソフトウェアを用いて監視と記録を行っている。

これにより、エンジニアはシステムをより信頼性の高いものに調整しやすくなり、のちに何らかの不具合が発生した際も調査を迅速にできるようになると、ビーワルドは言う。2,000万ドル(約21.6億円)の資金を調達した同社は、独立系のAI研究機関「OpenAI」も顧客のひとつだ。OpenAIは、ロボティクスのプログラムにツールを使用しており、10月末にはルービックキューブを(ときどき)解くことできるロボットハンドを披露した[日本語版記事]。

技術開発を進める企業たち

ArthurAIのツールは、金融取引であれオンラインマーケティングであれ、導入後のAIの監視と保守において企業をサポートすることに重きを置いている。同社のツールを使えば、機械学習システムのパフォーマンスが時間の経過とともにどのように変化しているかを追跡することが可能になるのだ。

例えば、システムのトレーニングに用いたデータと市場の状況に差が生じることで、融資の提案を行う金融向けシステムが特定の顧客を対象から除外し始めたときなどに警告を発する。性別や人種によって差別的な影響のある与信判断を下せば、違法行為となる可能性もあるからだ。

また、2018年にサーヴィスの一環として、AIの透明化ツール「OpenScale」をローンチしたIBMや、1,000万ドル(約10.8億円)の資金を調達したスタートアップのFiddlerも、同様にAIの検査ツールを提供している。

IBM基礎研究所の主席科学者ルチール・プリによると、KPMGは「OpenScale」を用いて顧客のAIシステム監視をサポートしている。またテニスの全米オープンでも同ツールを使って、自動的に選択されたプレイヤーのハイライト映像が、性別やランキングの面でバランスがとれているかが確認された。一方のフィドラーは、金融情報企業のS&Pグローバルや、消費者金融のAffirmとの提携を結んでいる。

AI導入の後押しになる?

ArthurAIのCEOであるウェンチェルは、AIをモニタリング・監査する技術が、ヘルスケアなどのテクノロジー以外の分野にAIを深く浸透させるうえで役立つと語っている。彼は、AIシステムの信頼性に対する合理的な警戒心が、金融業界におけるAI導入の足枷になっていることを目の当たりにしたのだ。

「多くの組織が、意思決定のために機械学習を導入したがっています。しかしそのためには、正しい決定が行われているのか、そしてバイアスのかかった決定がなされていないかということを把握する手段が必要なのです」とウェンチェルは言う。ArthurAIの共同創業者には、同じくキャピタル・ワン出身のプリシラ・アレクサンダーと、メリーランド大学でAIを研究するジョン・ディッカーソン教授も名を連ねている。

また、同社はAIが考古学の分野で足場を築くうえでもひと役買っている。ハーヴァード大学の研究機関「ダンバートン・オークス」では、戦争で接近不能となり、危険に晒されているシリア古代建築の写真をカタログ化するプロセスを、コンピューターのアルゴリズムでどれだけ速められるかを調べるプロジェクトが進められている。

そして、このプロジェクトにおいても、ArthurAIの技術が用いられているのだ。ArthurAIのソフトウェアは、機械学習ソフトウェアが特定のラベル付けをした写真の、どの部分がその決定に影響したのかを注釈をつけて示すようになっている。

ダンバートンでエグゼクティヴ・ディレクターを務めるヨタ・バツァキは、これが機械学習ソフトウェアの長所と限界を明らかにすると同時に、自動化があまり進んでいない領域においてAIが受け入れられるうえで役立つだろうと話す。「機械学習モデルがどのように解釈したのか、いかにして“考えて”いるのかを評価することは、図書館員やその他の学者からの信頼を得るうえで欠かせないのです」

Arthur's software

ハーヴァード大学の研究機関「ダンバートン・オークス」では、ArthurAIのソフトウェアを使用して、シリア建築の写真のカタログを作成する機械学習ソフトウェアの開発を進めている。PHOTOGRAPH BY ARTHURAI/DUMBARTON OAKS

適切な“規制”が技術者たちを安心させる

オサリヴァンは、いまもAIの規制を求める活動を続けている。非営利組織「Surveillance Technology Oversight Project(監視テクノロジーに対する監視プロジェクト)」の技術責任者を務めているほか、自律型兵器の国際的な禁止を求める「Campaign to Stop Killer Robots(キラーロボット反対運動)」の活動メンバーのひとりでもある。

とはいえ、オサリヴァンやほかのArthurAIの共同創業者は、政府あるいは国防を担う省庁であっても、AIの使用を全面的に禁止すべきだとは考えていない。同社は創業当初、米空軍を顧客に抱えていたこともある。

それはオクラホマ州ティンカー空軍基地で、B-52爆撃機用エンジンに影響を及ぼすサプライチェーン上の問題を予測するソフトウェアのプロトタイピングを6カ月間行うという契約内容で、サプライチェーン上の不要な支出や遅延を減らすことを目的としたものだった。

この種の取り組みは、機械に人間の生命や自由を奪う力を委ねることとはまったく異なるものだと、オサリヴァンは言う。ArthurAIは受託するすべてのプロジェクトについて、潜在的な影響を検討したうえで、正式な社内倫理規定に従って取り組んでいる。

「極端な使用事例については、やはり規制するか、決して日の目を見ることがないようにすることが必要です。それでも米国政府には、AIで改善できる領域が山ほどあります」と、オサリヴァンは語る。「制約が設けられていれば、わたしだけでなく、ほかの多くのテクノロジー関係者が、この分野でより安心して仕事ができるようになるはずです」

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