なぜIMFに「消費税を15%に」なんて言われないといけないのか 「一見中立」な組織の実態
税金・お金
IMFは11月25日、「対日4条協議終了にあたっての声明」を発表しました。その内容は多岐にわたりますが、その中で特に注目されたのが、医療や介護などで増える社会保障費を賄うため、「2030年までに消費税率を15%に上げる必要がある」という部分です。
10月に消費税を10%に上げたばかりなのに、その翌月に「15%に上げる必要がある」というのは、あまりに性急な提言であり、それと同時に、IMFという外部の機関から何でそんなこと言われなければならないのかと、反発の声も上がっています。
いったいIMFとはどのような機関で、日本に対してこのような声明を公表する意図はどこにあるのか、その背景について考察していきたいと思います。(ライター・メタルスライム)
●IMFの議決権、日本はアメリカに次いで2番目の割合
IMFとは、「International Monetary Fund」の頭文字を取ったもので、日本では「国際通貨基金」と訳されています。学校で必ず習うので、聞いたことはあると思いますが、何をやっているかについてはよくわからないという人が多いのではないでしょうか。
(1)設立の経緯
IMFは、1944年7月に米国ニュー・ハンプシャー州のブレトン・ウッズにおいて開催された連合国国際通貨金融会議において調印された「IMF協定」に基づき、設立された機関です。2019年9月末現在のIMF加盟国は189か国で、世界のほぼ全ての国が加盟する国際機関となっています。
(2)目的
IMFの主な目的は、①国際通貨制度の安定、②国際貿易の促進、③加盟国の発展などに寄与することです。この目的を達成するために、IMFは各加盟国についてサーベイランス(政策監視)や国際収支が著しく悪化した加盟国に対して融資を実施しています。
(3)出資額と議決権
IMFの運営は加盟国からの出資金により賄われています。2019年現在の出資金は次の通りで、日本はアメリカに次ぐ2番目に出資額の多い加盟国になっています。
【出資額上位3国】(単位:100万SDR)
アメリカ 82,994.2
日本 30,820.5
中国 30,482.9
そして、出資額に比例して議決権が与えられており、その数も当然日本はアメリカに次いで2番目に多くなっています 。全体に対する議決権の割合は6%と一見大きくないようにも思えますが、189か国あることを考えると、頭割りの場合、1カ国の議決権は0.5%程度になるので、いかに大きい割合かがわかります。
【議決権上位3国】(票数)
アメリカ 831,407
日本 309,670
中国 306,294
●副専務理事は財務省の天下りポスト
(4)人事構成
人事の面で見てみると、IMFは「総務会」を組織の頂点に置いています 。総務会の構成員は、各国の財務大臣や中央銀行総裁で、日本の場合、麻生財務大臣と黒田日銀総裁が現在務めています。
日常の業務については、24人で構成される理事会の下で行われます。日本は単独のポストを持っており、日本の理事は、財務省から出向している田中琢治氏が就任しています 。そして、理事会の監督の下、専務理事以下のIMF職員が業務執行に当たっています。
実務的なところのトップは、「専務理事」で、それを補佐するナンバー2である「副専務理事」が4名います。専務理事は、長年勤めたラガルド氏が今年9月に退任し、10月からブルガリアのクリスタリナ・ゲオルギエヴァ氏が就任しています。副専務理事のポストは、日本が1つ持っていて、財務省の天下りポストになっています。現在は、元財務省財務官である古澤満宏氏が務めています。
また、財務省や日銀から多くの職員がIMFに出向しています。日本の経済を分析するためには、日本の実状を理解し、日本語が読めなければならないからです。外国人エコノミストが日本経済について発表する場合であっても、その裏では日本人の職員が情報提供や分析の手伝いをしているわけです。
●今回の声明の背景にある「4条協議」とは
IMFは、目的を達成する手段として、サーベイランス(政策監視)を行っています。サーベイランスを行うためには、加盟国の協力が必要になりますが、加盟国は協定書4条に基づきサーベイランスを受ける義務があります。具体的には、年に1回、IMFのエコノミストが加盟国を訪問して政府や中央銀行と協議をしています。4条に基づき協議を行うので「4条協議」と呼ばれています。
日本についても年に1回、IMFの代表団が訪問し、政府や日銀等からヒアリングを行っています。調査期間は2週間程度で、協議終了後「声明」という形で政策提言が公表さます。それが、今回の声明です。その後、本部に戻り報告書を作成し、理事会における審査・承認を経て「4条協議報告書」が公表されます。
●一見中立的そうな機関の提言で、国民のマインドを変えようとしている
IMFが声明や報告書を発表するのは、サーベイランスの結果を明らかにすることで、加盟国の今後の発展などに寄与するためというのが表向きの理由です。では、なぜ今回の声明においてIMFが「2030年までに消費税15%に上げる」よう求めているのかと言えば、それは、日本政府および財務省がそのように考えているからです。
これまで説明してきたとおり、IMFは出資によって運営されており、日本はアメリカに次いで2番目に多く出資をしている国です。そのため、議決権も多く持っており、人事についても日本人が幹部ポストを保有しています。つまり、IMFに対して日本は、発言力も影響力もあるわけです。さらに、IMFには多くの財務省と日銀の職員が出向しており、実務的にも財務省と日銀の意向が反映されるようになっています。
4条協議では、財務省や日銀に対してヒアリングが行われ、財務省からは、当然のことながら「財政赤字解消のためさらなる消費税の増税が必要」というような説明がなされているでしょうし、日銀からは「引き続き量的緩和が必要」ということが主張されているはずです。それを基に声明がまとめられるわけですから、財務省や日銀の意向が反映されるのは当然のことと言えます。もっとはっきり言えば、財務省と日銀とIMFが擦り合わせた上で声明は作られているわけです。
会社にたとえるなら、日本は大株主であり、大株主の意向に反することを会社(IMF)が行うわけがありません。では、なぜわざわざ、外部の機関(IMF)を使って声明という形で財務省の意向を表明しているかというと、財務省としては「IMFから消費税15%に引き上げるべきであると言われているので、検討せざるを得ない」という形にもって行きたいからです。
おそらく、来年も4条協議の声明で、「消費税を15%に上げるべき」という提言がなされるはずです。IMFから繰り返し、声明や報告を発表することで、国民に「消費税は15%にしなければならないのか」というようにマインドを変えていくことが目的だからです。
IMFという一見中立的そうな機関に繰り返し消費税増税を提言させることで、何年か後には「社会保障費も増えているし、消費税15%もしかたがないか」という気に国民をさせることができれば、財務省としては作戦成功ということです。
●政府・財務省・日銀が考えていることを示した貴重な資料
IMFを代表する専務理事は、歴代欧州出身者が就任しており、現職はブルガリアの出身です。日本やアメリカは、出資額が多いのに、あえて「副専務理事」のポストに就任しているのは、その方が都合がよいからだと言えます。
もし、財務省から天下りした人がIMFの代表になったら、財務省のOBが日本に対して「消費税を15%に上げるべき」と提言することになります。そうしたら、反発はすごいことになるでしょう。やっていることは同じなのですが、代表を欧州出身者にしておくことで、いかにも中立的な機関から言われているように見えるところが怖いところです。
4条協議の声明の中には、「財政施策によって保育サービスを利用しやすくするとともに、企業の保育や介護への資金手当を更に増やし、非正規雇用労働者の生産性を高め、研究開発投資を増額するようなインセンティブを強化すべきである」というような内容もあります 。外国人エコノミストが2週間程度でこのようなことまで把握することは不可能であり、この部分は、日本政府が課題として考えているところと言えるでしょう。
このように考えると、4条協議の声明は、政府・財務省・日銀が考えていることを示した貴重な資料として位置づけることができます。今後、IMFから報告書等が公表された際には、是非、視点を変えて見てみて下さい。きっと腑に落ちると思います。