某日、某ギルド拠点にて二人の男が話しあっていた。
ユグドラシルは二人にとって"
二人はその拠点内の"泉エリア"で会話していた。ギルド拠点内でこそあるも室外に位置するこの施設の中には巨大な泉があってその周囲には整えられた芝生が広がっていた。二人はそこに置かれたテーブル----NPCに魔法で作成させた----を間に立ち話しあっていた。テーブルの上に置かれた紙を見て二人は溜息を同時に吐いた。
「それで……最近はどうだ?
「駄目だな……どこもかしこも"異形種狩り"ばっかりだ。つーか、ゲーム内で本名は止めてくれ。
もうお手上げだと言わんばかりに真は両手を挙げる。
「はぁ……分かってはいたがな。まさかここまで"異形種"が嫌われてるとはな……」
「異形種にもいい所あるんだがなぁ……。種族レベルを上げたらステータスはかなり上昇するし、強いんだがな。どいつもこいつもゲームの中でくらい"人間じゃない自分"になればいいのに…」
「確かにな……。異形種はステータスが強い。人間種はスキルが使い勝手がいい。だが…」
そう蓮司は一度溜めると口を開いた。
「実際の所、そのスキルを使いこなせる奴はどれくらいいんだろうな?」
そこには皮肉がたっぷりと籠っていた。
ユグドラシルというゲームにおいて、スキルを完璧に使いこなせる人物はそこまで多くない。何故ならレベルが上がれば上がる程スキルも増えていく傾向にあるからだ。これは魔法職のリングコマンドと同様、レベルが上がれば上がる程その傾向が強い。職業レベルのみで構成される人間種は取得する職業の数に応じてスキルの数も増えるのだ。特に上級職を取得しているものはスキルの質も高性能で数も豊富という恵まれている傾向がある。ゆえに魔法職のリングコマンド同様、"記憶力"が求められることになる。だがユグドラシルを楽しむ者の大半は貧民層だ。それは教育を受けてきていないものが多くを占めることを意味する。ゆえに"記憶力"もそれに応じて低くなる傾向がある。これは単語の意味などが分からず脳内で単語同士が結び付けにくくなるからだろう。
「あまりいねーだと。そんな奴」
「それもそうか。いたとしてもワールドチャンピオンとかか?」
「ワールドチャンピオンね。あの大会、お前はどう思った?」
「?…あぁ。最初にワールドチャンピオンになった『ジークフリート』、アレはヤバいな。アレは"天才"だ。まぁ…リアルじゃあ総合格闘技のチャンピオンだし、当たり前かもしれないがな」
「成程な。お前は『ジークフリート』がヤバいと感じたのか?」
「……真はどう思ったんだ?やっぱり『たっち・みー』か?」
「あぁ。アレは凄い。何が凄いか分かるか?」
「あぁ。正義降臨のエフェクトはヤバいな」
「そこじゃない。アレの凄さはワールドチャンピオンになった今でも成長を続けている所だ。まるで無限に成長しているようだ」
「そんなに凄いのか?確かに異形種に有利でないアルフヘイムでワールドチャンピオンになった男ではあるが…」
「アレは凄い。恐らく三位とは実力は互角だろう。だが勝つのは間違いなく『たっち・みー』だ。断言してもいい」
「へー。お前の見立て通りなら三位はギルド武器でも出さないと勝てそうにないな」
二人がそんな話をしていると泉の底から何かが現れる。
「相変わらず凝ったギミックだな。この女神像は…」
泉の水が滑らかに流れていく。
そこから現れたのは"女神像"だ。泉エリアに位置するギミックであり、俺たちのギルドからすればかなり重要な施設の一つだ。
「あっ、またか。これの再配置、大変なんだよな。今度はどのアイテムだ?」
女神像の手には一つのアイテムが握られていた。
「今回は指輪だな」
「指輪?じゃあアレだな。さて…じゃあホーリーグレイルを取ってくる」
「了解。じゃあ俺は使用した奴らにメッセージを返しておくよ。蓮司」
ホーリーグレイル
"回復"に特化した世界級アイテム。
かなりの壊れ性能を誇る。
その性能は"あるもの"を"回復"させることが出来るといったもの。
真--まこと--
少し抜けている男。
蓮司とは仲が良い。
蓮司--れんじ--
冷静で皮肉屋の男。
真とは仲が良い。