実在の人物たちを基にした『リチャード・ジュエル』
ハリウッドの巨匠として名を馳せるクリント・イーストウッドの最新監督作『リチャード・ジュエル』において、女性レポーターの描き方に問題があるとして弁護士が介入するほどの事態となり、インターネット上ではボイコット運動が発生している。
アメリカでは12月13日に公開される『リチャード・ジュエル』は、1996年にアトランタオリンピックで発生した爆破テロ事件をもとにした作品。そのほとんどの登場人物に、モデルとなった実在の人物がいる。
本作では、爆発物を発見したリチャード・ジュエルが英雄扱いされたのちに、FBIから容疑者として執拗な取り調べを受け、さらにメディアの過熱する報道に追い詰められていく様子を描く。
劇中でオリヴィア・ワイルドが演じた記者キャシー・スクラッグスは、アトランタを拠点とする報道機関Atlanta Journal Constitution(AJC)で手腕を振るった人物であり、FBIがリチャードに疑惑を向けたことを初めにスクープした。
AJCはキャシーの実力を高く評価しており、2001年にキャシーが死去した際には、彼女を称えるためにAJCの建物にキャシーの名をつけたほど。
そんなキャシーだけれど、『リチャード・ジュエル』の中では、FBI調査官を前にセックスと引き換えに情報を引き出そうとしている姿が描かれ、問題となっている。
キャシーの元勤務先AJCや同僚、友人たちは口々にキャシーはまくら営業などしないと、劇中のシーンを否定。キャシーの元同僚であり、劇中ではデビッド・シーによって演じられた記者ロン・マルティスは、AJCにこう語る。
「彼女は、私が今まで一緒に働いたなかでも有能だった記者の1人です。彼女はタフで、気が強かった。彼女は、ニュースを追いかけている時には、法的に、そして倫理的な範囲のなかで、なすべきことをしていました」
また、史実をもとにした映画であるにもかかわらず、『リチャード・ジュエル』の制作陣がロンに連絡を取ることもなかったという。
「彼ら制作陣が、キャシーのことを、情報を得るためには何でもする魔性の女のように印象づけてしまうことが心配です。もし制作陣が私にきちんと連絡を取ってきていれば、私は彼らの中にあった物語のアイディアを壊してしまったことでしょう。制作陣が、実際の人物たちがどのような人々であったかに関心がないということは明らかに思えます」
そしてキャシーが所属していたAJCは、該当のシーンは不愉快であり、キャシーやAJCの名誉を著しく傷つけるものだとコメント。弁護士を代理人にたて、『リチャード・ジュエル』の制作会社であるワーナーブラザース、監督のクリント・イーストウッド、そして脚本家のビリー・レイに対して、「劇中のいくつかの出来事は映画のために創作されたり、設定が変更されたりしたものであり、出来事や登場人物の描かれ方には脚色が施されていると認める公的文書を、早急に発行すること」を要求した。
また、弁護士から制作陣に送られた文書のなかには、このようなコメントも書かれていた。
「あのような描き方は、AJCが、スタッフを性的に搾取し、そういった行為を促し、情報のためには性的な行為をオファーして良いと黙認しているように見られます。それは完全にウソであり、悪意のあるものです」
多くのメディア関係者や映画ファンがボイコット
『リチャード・ジュエル』は、多くのメディアによる報道過熱やフェイクニュースを批判する姿勢を取っているにもかかわらず、その作中で脚色された女性記者の姿が描かれたことに、インターネット上でも多くの著名人や記者たちが『リチャード・ジュエル』に批判の声を上げている。
とくに故人であるキャシーは、作中でその姿がどのように表現されても反論することが出来ない。
メディアアナリストであり批評家のエリック・デガンズは、ツイッターでこうコメントした。
「普通の男性が大手メディアの被害者になる物語を伝える過程で、クリント・イーストウッドによる『リチャード・ジュエル』がこそくな手段をとるのではないかと危惧していましたが、まさか、他界している実在の女性レポーターが誰かと寝たという話をソースもなく作り出すなんて」
また、米Huff Postの記者であるジェフリー・ヤングは、女性は身体を使うという男性によって作り出されたステレオタイプが、現実社会にどう影響しているかを説明し、「脚本家たちによる怠けた、無礼で、クソみたいな方法」と怒りをにじませた。
「もしあなたが、『でもこれはただの映画じゃないか!』と考えているのであれば、僕が答えましょう。このようなステレオタイプは、作家や脚本家などのすべての物書きの頭の中に存在していて、僕の女性の同僚たちの仕事を、日頃から何倍も大変なものにしていますよ。ニュースを作り出すような男性の多くは、そういったステレオタイプを信じて、彼女たちと寝ようとしますから」
SNS上では、BoycottRichardJewell(リチャード・ジュエルをボイコットせよ)というハッシュタグも作られるほど、多くの批判が映画『リチャード・ジュエル』に向けられている。(フロントロウ編集部)
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