あれ?僕、死んだ?
まだ日常編。
ゆっくりしていってくださいね!
スーパーすらないレベルでド田舎な僕の街にある唯一の駅へと数十分ほどひび割れた道路を初夏の太陽にジリジリ焼かれながら自転車をこいで汗だくで到着する。
駅員が立っただけの窓口と言った方が正しそうな改札を通り、夏の力で元気になった苔やら雑草やらに侵食されてヒビだらけになったホームへ電車に乗りに行く。
「あ、来た。」
前の電車の時間から間隔がかなり空いて来たボロい電車に乗り、僕の通う高校のあるK街へと向かう。
「よっこら・・・しょっと。」
ガラガラな座席へ座り、サビが目立つ開かない車窓から流れる風景を眺める。
都市部へと進むにつれ全体的に緑が少なくなり、スーパーやアパートなどの灰色が多くなっていく。
昔は自然が豊富に有ったであろう場所を見て、自然が好きな自分にはそれがとても物悲しく思える。
「はぁ・・・。
もし幻想郷に行けたならこんな気持ちもしないですむのかなぁ。」
――幻想郷……それは明治の文明開化以前の自然と人が調和し人が自然を恐れ敬う時代のまま外から結界で切り離され、実在するのであれば汚れなき自然の存在しうる場所。
忘れ去られたモノのみが立ち入ることの許された秘境。
弾幕シューティングゲームの『東方』シリーズの舞台となっている場所だ。
そんな場所に行くだなんてどう願った所で叶うはずもない
自嘲したことで少々気分が落ち込んだところで、見覚えのある高校の最寄り駅が車窓の景色の彼方に見える。
「そろそろ、か。」
学校に行く為に気合を入れ直し終わり荷物をまとめるとちょうどk駅に着き、 ヒビどころか緑色の場所を見つける方が難しい手入れの行き届いたホームへ降りる。
人の流れの通過点である自動改札たちの列の横にポツリと存在する定期券用通路を通り、いつもどおりに高校へと歩いていく。
再開発で道路やら歩道やらだけが不自然なほど整った町並みの中、まるで竹の子か何かのようにどんどん延びてゆくビルの工事現場の群れを見ながら日差しの比較的マシな日陰を選んで組み合わされたレンガの道を歩く。
伸びていくビルの先端に付くクレーンで鉄骨のまとまりが上げ下げされるのを流すように見ながら登校する。
歩いている間友達と話すでもなく、石蹴りの他にやる事が無いので毎日気まぐれに色々観察するのは癖みたいな物になっていてその時もたまたまそれをしていただけだった。
「ふへっ?」
ちょうど単純な工事作業光景にも飽きて観察するのを止めようとした頃、
持ち上げられていた鉄骨がワイヤーをバツンと切断した不吉な音が真上から聞こえる。
その音に反射的に見上げた僕は、その圧倒的な重量で下にあった木と金属の複合された足場を破砕しながら歩道へと降り注いでくる鉄骨が目に入る。
空へと放られた鉄骨達は上にすでに積み上げられていた鉄骨も道連れにして落下してくる。
これは死んだかも。
その瞬間まるで時が遅くなったように感じた。
視界には楽しかった思い出がよぎる。小学校の修学旅行に中学校のバカやった学園祭に……って、あれ。楽しい思い出少なくない?
自分の思い出のあまりの薄っぺらさを少し絶望しつつ、これが走馬灯なのかなぁ?なんてことを奇跡でも起きなければ死ぬことが確定したこの状況にも関わらず頭は冷静に考えていた。
――ヒーローみたいな奴が助けてくれないかなぁ……?
そんな甘い考えが頭の中を過ぎる。
……だが、結局現実は血も涙もなく非情だった。
先に落ちてきた作業用足場の木の破片達はお互いにぶつかりあって致命的なものは工事用の掛布に絡めとられ、落ちてこないようだ。けど、肝心の連鎖して落ちてきた数十本の鉄骨は落ちる範囲が広すぎて避けるのも絶望的。当たらないなんてそれこそ爪楊枝みたいな人間がミッションをインポッシブルでもしない限り無理な状態だ。
――こりゃ神に祈るしかない……ね。
避けるのを諦めて傍観しているうちに、神頼みなんて意味は無いとでも言うように落ちてきた鉄骨が僕の胸部を貫き下半身を押し潰す音が耳へ届く。
痛いという感覚が脳に届く前に他の鉄骨が僕へ着弾する。肉も骨も関係なく直線的に貫通され、押しつぶされ、僕というモノを
下半身は完全に鉄骨の群れに下敷きに。
上半身は胸に斜めに刺さった鉄骨とその他の鉄骨で組まれた貼り付け台にはりつけられた。
綺麗に刺さったのか血は何故かあまり出なかった。
「かはっ。」
全ての酸素が体から捻り出され意識が混濁しめまいがする。痛みは許容量を一気に超えたのか振り切れてしまって感じない。
体の中に通っていた何かが全て押し出されたようでただただ自分の変わり果てた姿を見る事、何でこうなっているのか考える事以外すべての行動が出来なくなる。
息が出来ない。
空気が入ってこない。
全身が燃やされているかのように熱くて痛い。
潰れているのだろう足の方に至っては感覚は無いのに燃やされてるような熱さと痛みがせり上がってくる。
振り切れた痛みで無事だった頭すらも割られるような感覚にに塗りつぶされる。
気絶してもおかしくない痛みと言う奴だろう。なのに身体はなぜ気絶させてくれないのだろう……。
「死にたく……な……い……」
こうして僕は地獄にでも落されたような激痛と苦しみの中、犠牲者たちの塊の1つとして共に死神の鎌を首にかけられる羽目になるのだった 。