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東方悠幽抄 作者:アグサン
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第六話「人里の魔法少女と女教師」

 今回は人間の里が舞台となります。普通の魔法少女・霧雨魔理沙と、寺子屋の女教師・上白沢慧音先生が登場します。ちなみに、ルーミアも元気です。

 それでは、東方悠幽抄、第六話です。どんな些細なことでもかまいませんので、コメント等ありましたら、よろしくお願いします。

 ◇


 ――――魂魄妖夢は人里に向かっていたはずだった。


 しかし、彼女は未だに白玉楼の庭先にいた。

 悠子さんと幽々子様の真実を斬って知る!

 ――そう思い人里に向かっていた矢先に、赤いリボンを身につけた、黒服を着た金髪の少女が、西行妖の下でのびているのを発見したのだ。

 妖夢はその少女におそるおそる声をかけた。


「大丈夫ですか~?」


 体を揺さぶって見ると、その少女が目を覚ました。

 目をゴシゴシと擦りながら、妖夢に問いかけた。


「う~ん…… 誰なの? ここはどこ?」


 どうやら何故ここにいるのかわからないようだ。

 少女の問いに対し、妖夢は素直に答えた。


「私は魂魄妖夢、ここ白玉楼で主に使え、庭師兼剣術指南役をしています。あなたは?」

「うーん…… 私はルーミア! 闇を操る妖怪よ!」


 そのルーミアという妖怪は手を広げたポーズをとり、元気にそう返事した。

 しかし、妖夢は二つほど違和感を覚えた。

 一つは、ルーミアはこの『冥界』に飛ばされてきたにもかかわらず、幽霊ではないということ。


(これは、悠子さんの事例ですでに確認されていることだから、後で悠子さんを斬ってから考えよう)


 妖夢はそう考え、それに関しては保留にした。

 問題はもう一つの違和感だ。


(ルーミアは妖怪であるはずなのに、まったく『妖力』が感じられない――)


 自分の異常に未だ気付かない宵闇の妖怪・ルーミアは、決して花をつけないとても大きな桜の木を物珍しそうに眺めていた――



 ◆



 ――――おい、変な格好した姉ちゃん。


 私、藤見悠子(と幽々子)に二人の男性が話しかけてきた。

 その屈強な二人組を見て、私は身構えた。


「何かしら?」

「あんた、ここらで見ない顔だな。新しい妖怪か?」

「違いますけど……?」


 そう返答しながら、私は心の中で呟いた。


(これが幻想郷の『職質』ってやつなのかしら?)

(? 何それ、悠子?)


 幽々子は不思議そうにそう返してきた。


 ――私は今、人里に足を踏み入れていた。

 昨晩助けた男の子とその姉に案内され、ここ『人間の里』まで来たのだ。

 しかし、案内してくれた姉弟は、寺子屋という学校みたいなものに行かなくてはならないらしく、里の入口ですでに別れた後であった。

 その矢先にこれである。

 黙り込んでいた私に対し、男は言葉を続けた。


「新しい人間は珍しいんだがな」


 そういい、私を値踏みするように見た。

 女の子をジロジロ見るなんて、変態!

 ――と思ったが、黙っていた。


「最近、夜に人食い妖怪が出たっていう噂が流れてきているんでね」

「『最近の妖怪は無力化した』とか博麗の巫女様が言っていたが、すべてがそうではないからな」


 男の言葉に私は思い当たる節があった。

 昨晩、退治したあの人食い妖怪のことだ。


(しかし、ここで『私が退治した』と言っても信じてくれそうな雰囲気ではないし……)


 考え込んで何も言わないでいたら、男の一人が小太刀に注意を向けた。


「そんな刀なんかぶら下げて、妖怪じゃないにしても危険な奴かもしれん」

「とりあえず、その刀をこっちによこしてくれねぇか?」

「ええと……」


 私が小太刀を抱えながら渋っていると、幽々子が呟いた。


(私はイヤよ。悠子以外には触れさせないわ)


 そんな幽々子の言葉を聞き、私はつい声に出して返答してしまった。


「連れが渡したくないって……」

「連れ? あんた以外、誰もいねぇじゃねえか」


 男たちは私の周囲を見渡しながら、そう答えた。

 ――やばい!

 私は、自分の失言に慌てふためいた。


(ふふっ、怪しまれているわよ)


 幽々子の言葉なんか気にしている余裕はなかった。

 いくら『非常識が許される幻想郷(紫さん談)』とやらでも、さすがに怪しすぎる。

 私はあたふたしながら、急いで弁明した。


「いやなんというかですね。言葉のあやというかですね、私のイマジナリーフレンドがですね……」

「いまじな……? 怪しいな。とりあえず、詰め所へ連れて――」


「――おっと、待ちな! そいつは多分人間だぜ」


 私の怪しい言動に不信感を抱いた男たちに、私が連れて行かれそうになったところへ、元気な少女の声が響いた。

 私たちが振り向くと、黒い魔法使いのような格好をした少女が立っていた。

 男たちは、またか、という顔をして、少女に向かって言った。


「なんだ、霧雨道具店の不良娘か」

「失礼だな。別に悪いことをしたわけではないぜ」

「どうだかな。で、何の用だ?」

「あー、その人は私の友人みたいなもんだ。見逃してほしいぜ」

「はぁ? 何言ってやがる」


 男たちは露骨に不審そうな顔をした。

 少女はそんなこと全く気にとめず、さらに言葉を続けた。


「博麗神社の関係者、と言えばどうだ?」

「博麗神社の関係者か……。そいつは俺らの預かり知るところではねぇな」

「そういうことだぜ」


 男たちは、しょうがねぇな、と呟きながら去っていった。

 私は安堵の息をついた。


(とりあえず、幽々子の小太刀を取り上げられなくてよかった……)

(取り上げられたら、私が呪ってやったわよ~ うらめしや~)


 相変わらず幽々子は楽しんでいるようだ。

 そんな安心して一息ついている私に向かって、魔法使いのような格好をした少女が話しかけてきた。


「里のヤツらは、去年の夏にあった異変のことでピリピリしてるからな。まあ、許してやってくれ」

「いや、こちらこそ。なんというか、ありがとうございます」

「堅苦しいのは無しだぜ」

「いえ、それにしたって、見ず知らずの私なんかに……」


 私には不思議だった。

 何の前触れもなく、全く面識のない少女から庇われたのだ。

 幽々子も何も言わないところから、知らない人みたいだし。


「私も妖怪を相手にしたことが何度かあってな。アンタが妖怪でないことは、なんとなくわかるぜ」


 その少女は自信有り気にそういうと、さらに言葉を続けた。


「それに、霊夢から聞いたぜ。昨晩、見たことのない刀を持った娘が、妖怪に食われそうになっていた男の子を助けたって。――それってあんたのことだろ?」

「たぶん、そうですけど……」


 少女に質問にあいまいに答えつつ、私は聞きなれない名前を幽々子に確認した。


(霊夢さん……? 誰よ?)

(さあ?)


 幽々子の知り合いではないらしい。

 ただ、心当たりがあるとすれば、あの巫女服の少女もとい博麗の巫女のことか?

 しかし、少女は考え込んでいる私を気にした様子もなく話を続けた。


「妖怪にも、良い奴らもいれば悪い奴らもいる。それくらい、私はわかっているつもりだぜ。アンタのやったことは私としては正しいと思っている」

「……? まぁ、困った人を助けることは人として当たり前ですからね」


 なんだか会話が少し噛み合っていないような……?

 魔理沙は相変わらずそんな私の意も介さず続けた。


「まっ、霊夢は厳しいけど、根はいい奴だから。アンタも今後は気にかけてやってくれ!」


 彼女はそう言い残し、近くの本屋の中に戻っていった。

 ――と、思ったら再び店から顔を出し、私に向かって言った。


「言い忘れた! 私の名前は、霧雨魔理沙だぜ。よろしくな!」

「私は藤見悠子よ! ありがとね、魔理沙!」


 私はこうして、霧雨魔理沙という少女と出会った。



 ◆



 ――――あっ、お姉ちゃ~ん!


 人里を散策していた私に、女の子が声をかけてきた。

 顔を向けると、声の主は昨晩助けた男の子の姉であった。

 女の子は私に駆け寄り、抱きついてきた。


「あら、ちゃんと寺子屋で勉強してる?」

「うん! あのね、先生にね、今、昨日の話をしていたの」


 そう言った女の子の後ろに、不思議な帽子を被った女性が立っていた。

 その女性は頭を深々と下げ、微笑みながら私に話しかけてきた。


「あなたが悠子さんですね。この子から話を聞きました。夜、攫われたこの子の弟を助けてくれたそうで。この子らの先生としてお礼を言わせてください」

「いえ、当然のことをしたまででして……」


 恐縮する私を見て、彼女は微笑んでいた。

 そして、改まった顔をし、私に自己紹介をしてくれた。


「申し遅れました。私は上白沢慧音、寺子屋でこの子らの先生をしています」

「藤見悠子です。こちらこそ、よろしくお願いします」


 私も深く頭を下げた。

 慧音先生は先ほどの少女の頭を撫でながら私に寺子屋見学を勧めてきた。


「これから授業を始めるのですが、幻想郷の歴史について聞いていかれます?」

「ぜひ、聞かせてください」


 特に用がなかった私は、慧音先生に促され、寺子屋の中へと入っていった。

 道すがら、慧音先生が私に話しかけてきた。


「妖怪は自分たちの能力の強さをもっと自覚すべきだと私は思うんです」

「……そうですね」


 私はその言葉から、昨日戦った妖怪のことを思い出していた。

 確かに私に向けられた弾幕は、当たり所が悪ければ死に至る可能性があるものだった。

 そんな力が子供たちに向けられたら、そう考えるとぞっとする。

 慧音先生は続けた。


「妖怪は人間よりも強い力を持っている。『スペルカードルール』が制定されて被害は小さくなりました。しかし、人間に危害を加える妖怪が減ったわけではありませんからね」

「そうなんですか……」


 そう答えながら、私は『スペルカードルール』という聞きなれない言葉に引っ掛かった。

 私には思い当たる節がなかったので、すぐさま幽々子に確認した。


(スペルカードルール、って何? 幽々子、知ってる?)

(……ふふっ、何でしょうね。――そんなことよりも気をつけなさい、悠子)

(何をよ?)

(あの先生、半獣よ)

(なっ!?)


 私は幽々子の言葉に驚き、先生を凝視してしまった。

 そんな私に対し、慧音先生は不思議そうな顔をした。


「どうしましたか、私の顔に何か?」

「……いや、何でもないです」


 しかし、私にはこの先生が昨日であった人食い妖怪と同じ、妖怪の仲間であるとは到底思えなかった。


(紫さんもいい加減だけど、良い妖怪っぽいし…… 慧音先生もいい妖怪なのかな?)

(悠子、それはあなたが決めることだわ)


 幽々子はそういって、微笑んでいるようだった。

 私はまだ、この幻想郷での妖怪という存在がどういうものなのか判断できずにいた。


 ――そんな私たちとは離れた場所で、元気に遊ぶ子供たちの声が聞こえてきた。


「次は私が鬼ね! い~ち、に~、さ~ん……」

「わ~」

「逃げろ~」


 どうやら子供たちは、かくれんぼをしているようだ。


「懐かしいわね、子供のころを思い出すわ」


 かくれんぼの様子を見て、懐かしさからそう呟いた私に対して、幽々子が囁いた。


( 『昔せし隠れ遊びになりなばや 片隅もとに寄り伏せりつつ』 )

(幽々子、何それ?)

(ある法師が子供のころを懐かしんで詠った和歌よ。なんだか少し懐かしく見えてね――私に前世の記憶なんてないけど、ね)


 幽々子の言葉に偽りはないようだった。

 しかし、私はその言葉の端から、悲しみのようなものが感じられた。

 慧音先生は数をかぞえる鬼役の子に近づき、肩をたたいた。


「遊んでいるところ悪いが、もうそろそろ授業の時間よ」

「え~」

「もうなの~」


 子供たちは口々に不満をあげたが、慧音先生はすぐさま授業の準備に取り掛かっていた。

 すると、一人の男の子が慧音先生に声をかけた。


「せんせ~い」

「どうしたの?」

「かくれんぼを一緒にしてた、五郎ちゃんがどこにもいないんだけど……」


 慧音先生は困った顔をして、男の子の頭を撫でながら言った。


「どこ行っちゃったのかしら。あの子はやんちゃだから……。まぁ、授業が始まるころには戻ってくるでしょう」


 そう言って、慧音先生が教卓に腰掛けようとしたところ、血相を変えた女の子が寺子屋へ飛び込んできた。

 そして、大声で叫んだ。


「先生、大変よ!」

「遅い! 授業はもう始まるぞ」


 慧音先生は毅然とした態度で、その女の子に一喝した。

 しかし、私はすぐに様子がおかしいことに気付き、その女の子に優しく声をかけた。


「そんなにあわてて、どうしたの?」

「授業どころじゃないのよ! 五郎ちゃんが大変なの!」


 そういうと、女の子は私の手を引っ張って外に連れ出した。

 その先、寺子屋の裏手の方で少年がうずくまっていた。

 右腕が白く凍結していて、うめき声をあげていた。


「僕の腕が、僕の……」


 私は声を失ってしまった。

 寺子屋の中から駆け寄ってきた慧音先生が男の子に声をかけた。


「あなた、その右腕どうしたの?!」


 その問いかけに対し、その男の子を連れてきた女の子が顔を青くしながら言った。


「湖の近くで遊んでたら、急に氷の妖精が現れて……それで言い争いになって……」

「とりあえず、早く治療に連れて行かなければ! 悠子さん、この子を運ぶのを手伝ってください!」

「わかりました!」


 私は男の子を抱え、慧音先生と共に駆けだした。

 すると、幽々子が一言呟いた。


(また、見ちゃったわね。幻想郷の姿を)


 私は幽々子の言葉を聞き、背筋が凍った。



 ◆



 ――――人里の相談役である運松翁は、厳しい顔をしていった。


「紫色になり、水泡もできとる。すでに感覚がないようじゃな」

「運松翁、この子の腕は――治るのでしょうか?」

「温めて応急処置は施したが、元のように字を書いたりすることはできなくなるかもしれんの……」


 その言葉を聞き、慧音先生は運松翁に詰め寄った。


「本当に、もうどうにもならないんですか!?」

「……わしとてただの職漁師じゃ、医者ではない。わしに医療の知識があればよかったが……」


 その言葉を聞き、慧音先生は悔しさを滲ませた。


「くっ、あの氷の妖精め……私の生徒を……!」

「氷の妖精?」

「ああ、湖に住んでいるチルノというイタズラ妖精だ」


 私はそれを聞き、目を閉じた。

 幽々子は私に尋ねてきた。


(悠子、どうするの?)

(幽々子…… 私はどうすればいいと思う?)

(さっきも言ったでしょ。悠子、それはあなたが決めることだわ)

(――私は『博麗の巫女様公認』なんでしょ? なら、選択肢は一つだわ)


 私は目を開け、慧音先生と向き合った。


「慧音先生、私がその妖精を懲らしめてきます」


 そんな私の言葉に、慧音先生は少しばかり驚いた顔をした。

 しかし、すぐ顔を伏せ、うなだれたまま、私に言った。


「妖精は自然がある限り、退治しても生き返る。それに、奴らを懲らしめたところで、この子の腕はもう戻らないんだ……」

「それでも、人間に対して『許されないことをした』という認識のないままなんて私には許せない……」


 感情的になっている私を諭そうとしたのか、慧音先生は教師然とした落ち着いた口調で話しかけてきた。


「まあ待て。あの湖の氷の妖精は力をもっている。博霊の巫女のような力のないあなたでは、この子の二の舞だ」


 その言葉を聞き、私は少しおかしくなってしまった。


「博麗の巫女でなければ――ね。そのセリフ、聞きあきたわ。これ以上、里の人間は傷つけさせない!」


 私は慧音先生にそう言い、家を飛び出した。



 ◇



 ――――これ以上、里の人間は傷つけさせない!


 魔理沙は運松翁の家の前で、先ほどであった少女、悠子の言葉を耳にした。

 魔理沙がその声のした方向に顔を向けると、家の裏手から帯刀した少女が飛び出して行く姿が見えた。

 そんな悠子の姿を見て、魔理沙は呟いた。


「これは面白そうだぜ」

「何がよ、魔理沙?」


 魔理沙の隣を歩いていた、博麗霊夢は問いかけた。

 二人とも買い物中だったようで、両手に荷物をもっていた。

 魔理沙は霊夢の方を向き、完全に忘れてたわー、という顔をして言った。


「いや~、悪いな霊夢。ちょっと用事を思い出した」

「あんた、急に何を言って……」

「それじゃ、この荷物は任せたぜ!」


 魔理沙は有無を言わさず霊夢に荷物を預け、すぐさま箒に跨り飛んで行ってしまった。


「あっ、待ちなさい魔理沙! ……もう」


 飛び去っていった友人に対し、霊夢はため息をついた――

 悠子(と幽々子)の魔理沙と慧音先生との出会い、そして始まる新たな事件。幻想郷に次第に飲み込まれていく悠子は自分の信念を貫くことができるのでしょうか? 次回は湖上の氷精・チルノと大妖精が登場します。楽しみにしていてください。

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