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東方悠幽抄 作者:アグサン
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第二話「庭師兼剣術指南役」

東方悠幽抄、第二話です。幽々子といえば妖夢!ということで、悠子と妖夢の出会いがテーマです。また、この話を境に幻想郷の正史とは違う方向へと物語が進んでいきます。拙い文章ですが、批評、コメント等ありましたら、よろしくお願いします。


 ――――幽々子に憑依されてしまった私、藤見悠子はお屋敷の中を歩いていた。


 先ほどまで寝ていた部屋でごろついているのも飽きたため、このお屋敷を探検することに決めた。

 私は純和風のお屋敷に対し、興味津々であった。


(無駄に広いお屋敷ね。誰か他に住んでいるのかしら?)

(あと一人、半人前が住んでいますわ)


 ビクッ! ――突然頭の中に響いた声に私は驚いてしまった。


(ふと思ったことに反応しないで! 心臓に悪いわよ……)

(だって、あなたが強く思ったことは聞こえてしまうんですもの)

(私にプライベートは……?)


 こんな感じでは妄想とか全くできないわ。

 私だって、青春真っ盛りの女の子、いろいろ考えることはあるっていうのに。

 私はため息をついた。


 ――気を取り直して、あたりを見渡すと、襖の開いた部屋の床の間に、美しい装飾のされた日本刀が飾られていた。

 私は刀を見つめながら思った。


(これ、触ってみてもいいのかしら?)

(ふふ、私はかまいませんわ)

(だから、突然の返事は――まあいいわ。)


 とりあえず、許可が出たので触らせてもらうことにした。

 非常に美しい装飾の施された小太刀だった。

 いやー、やっぱり刀ってのは女の子の憧れだよね。


(修学旅行で買った安っぽい木刀で、生意気な男子を打ちのめしたときを思いだしますわ)

(悠子、暴力はいけないわ)


 私は刀身を確認しようと、鞘に手をかけた。


「おお、かっこい――」

「それは、私の主の持ち物だ」


 突然背後から声がかけられた。

 えっ? ――と驚き振り向いた時にはすでに、剣撃が目の前に迫っていた。

 私はとっさに握っていた刀の鞘部分でその一撃を防いだ。しかし、その勢いで弾き飛ばされ、床にたたきつけられてしまった。


 痛ってて――。いきなり襲いかかってくるなんて!

 怒り心頭で顔をあげると、太刀をもった少女が、構えを解かずにこちらを見据えていた。


「いくら勢いを殺していたといっても、私の剣を防ぐなんてね」

「ちょっと、待って! 私は別に悪意があってここにいるわけでは……」

「ここ『白玉楼』に侵入している時点で、もはや言い訳はできぬことを知れ!」


 そういうと、少女は刀を構えたままにじり寄ってきた。

 私は心の中で幽々子に向かって叫んだ。


(幽々子、どういうことよ!)

(だから言ったでしょ。『私は』構わないって)

(アンタ、わかってやってるでしょ!)


 幽々子を問い詰めている間にも、目の前に刀が迫ってくる。

 はあぁぁぁぁぁぁぁ!! ――と気合の入った薙ぎ払いが繰り出された。


(っ、剣撃で私の髪が切れた!? 幽々子、なんとかいって止めさせて!)

(だって、妖夢には私の声が届いていないようですわよ)


 確かに、幽々子が声を発してもまったく反応していない。紫さんには幽々子の声は聞こえていたはずなのに……。


 それにしても、避けるので精一杯。この子、こんな大きな太刀を使いこなしている。

 私なんてこんな小さな小太刀ですら、重くてまともに振り上げることすらできないのに。

 剣道を子供のころから続けていた私は、心の中で真剣を扱える少女への『羨ましさ』と共に、『悔しさ』も感じていた。

しかし、そんな感情はすぐ消し飛んだ。

 ――回避の際に足を滑らせてしまったのだ。

 小太刀が重すぎ、防御体勢もとれていない私に向かって、少女は大きく振りかぶった。

 人間は納得のいく死に目にはあえないものとは聞いていたけれど、こんな最期だなんて。

 私の頭部めがけて、太刀が振り下ろされて――


「待ちなさい。妖夢」


 凛とし、それでいて怪しげな声が天井から聞こえてきた。

 その声が響いた瞬間、少女の一閃は中断された。


「はっ、紫様!?」


 頭上を見ると、紫さんの頭が浮いていた。

 しかし、よく見ると、スキマから頭を出しているようであった。

 頭だけ天井から出ている光景は、なかなかシュールだ。

 紫さんは、妖夢さん(?)に向かい叱責した。


「あなたは自分の主を傷つけるというの?」

「何を唐突に、どういうことですか」

「ざっくりいうと、その子は幽々子よ」

「ざっくりすぎよ!?」


 説明不足過ぎて、私は思わずツッコミを入れてしまった。

 しかし、妖夢さんは真剣な顔つきで紫さんに問いかけた。


「幽々子様は、紫様と一緒にお茶会に行ったのだと思っていましたが?」

「あなたはまだまだ甘いわね。 ……って幽々子が言ってますわ」

(私は何も言ってないわよー)


 紫さんは、幽々子の声が聞えないのをいいことに、妖夢さんをからかっている。

 妖夢さんは、紫さんと私の顔を見比べ――ため息をついた。


「はぁ……。紫様がそういうのでしたら剣を下ろしましょう。ただし、何がどうなっているのか詳しく説明をお願いします。その理由次第では――」


 そう言って、妖夢さんは私に剣先を向けた。


(こっちをすごい顔で睨んでる! 理由次第では、絶対殺るきだわ!)

(妖夢はいつも気張りすぎなのよ。もう少し柔軟な対応を見に付けてくれないかしらね)


 今度は、幽々子のため息が聞こえた気がした。

 紫さんは私たちの心の声を知ってか知らずか、ゆっくりと刀をもった少女と向かい合い説明を始めた。


 ―― 少女説明中 ――


 ――数分間、紫さんは私が目覚めた直後のやり取りを事細かに説明した。

 妖夢さんは、初めて説明を受けた時の私と同じような顔をしていた。

 そして、紫さんの話が終わったとわかると、すぐさま私の方を向き、話しかけてきた。


「とりあえず、あなたの中に幽々子様がいると」

「まあ、そういうことになるわね」

「幽々子様と私は、会話はできないのですか?」

「少なくとも私と紫さん以外とはできないみたいね」


 妖夢さんは、続いて紫さんの方を向き、説明を求めた。

 紫さんはこともなげに言った。


「私は境界をいじって、あなた方を引き離そうとした際に、何故か幽々子の声が聞こえるようになったのですわ」


 理由は分かりませんけど――と最後に付け加えた。

 妖夢さんは、納得いかない顔をし、再び大きくため息をついた。

 そして、再び刀の柄を握り、紫さんに問いかけた。


「この方を楼観剣で斬って、取り出すのはダメなのですか? 幽々子様は白桜剣でなければたぶん大丈夫だと思うのですが」

「斬っては駄目ですわ。私の能力でも引きはがせないのよ」


 それを聞いた妖夢さんは不満げな顔をした。

 紫さんは全く気にかけず、小さく笑みを浮かべ、妖夢さんに言い放った。


「それじゃあ、妖夢。幽々子が元に戻る方法が分かるまで、彼女を面倒見て頂戴」

「私が――って、本気ですか?」

「妖夢、この子は幽々子でもあるのよ」


 妖夢さんは、紫さんの止めの言葉を聞き、完全に諦めた顔でしぶしぶ頷いた。

 そして、私に再び向き直り、少し不満げな顔をした。

 しかし、すぐに真剣な顔に戻り、丁寧に頭を下げてきた。


「私の名前は、魂魄妖夢です。よろしくお願いします」

「――私は、藤見悠子よ。よろしく」


 今度はしっかりと頭を下げ、あいさつを交わした。



 ◆



 ――――私は妖夢さんに連れられ、ここ白玉楼の奥へと進んでいた。


 あの後、紫さんは自分の役目はもう終わったとばかりにすぐその場からいなくなった。

 私はそのことについて、幽々子に愚痴っていた。


(紫さんって、いい加減だなぁ)

(そんなことないわよ。って友人として弁護しておくわ)

(あんな友人がいるなんて大変ね)

(あら、楽しい友人よ?)


 そんなことを心の中でやりとりしている間に、ある部屋の前まで案内された。

 妖夢さんは襖をあけて、私に言った。


「今日はお疲れでしょう。この部屋でお休みください」


 部屋の中を確認するとどうやら客間のようである。

 不満な顔をしながらも、丁寧に案内してくれた妖夢さんに対し、お礼を言った。


「ありがとうございます」

「朝になったら、一応起こしに来ますので。では」


 そういって、妖夢さんは奥の方へ歩いていってしまった。

 私は布団を押し入れから取り出し、敷きながら考えた。


(今後どうしようか……)

(好きに過ごせばいいんじゃない? すぐ解決するとは思えないですし)


 幽々子の呑気な声を聞きながら、思案してみたが、何も思いつかなかった。

 布団に横になりながら、いろいろ考えているうちに、疲労ですぐ寝入ってしまった――



 ◇



 ――――どうしてこんな面倒なことに……


 妖夢は夜、刀の手入れをしながら、ため息をついた。

 このため息は、いつも振り回されている主人に対してではなく、突如現れた珍客に向けられたものである。

 幽々子様がいなくなっただけでも大事だったのに、よりにもよって生きた人間がここに入り込むとは。

 それに加えて、幽々子がその人間に取り憑いていて、元に戻れなくなったなんて――。

 閻魔様にどう報告するつもりなのか――


 ――スッ


 などと考えていると、妖夢の部屋の襖が開く音がした。

 妖夢は顔をあげて、部屋を訪ねてきた客人へと声をかけた。


「こんな夜中に何か用事ですか、悠子さん」


 彼女はこちらを見つめ、黙ったままであった。

 今朝の彼女とは雰囲気が違う。なんというか、隙がない。

 もしや、あれですか。仕返しですか。

 妖夢は手入れしている刀の柄に手をかけ、睨みつけた。


「何か言ったらどうですか?」

「――ふふっ。私よ、妖夢」

「!?」


 妖夢は狼狽した。

 この雰囲気、もしや幽々子様? ――のような気がする。

 なんだかんだで、半人前の妖夢にはそれを感じ取ることはできなかった。

 とりあえず、確認しなければ――妖夢は声をかけた。


「あなたは、――幽々子様ですか?」

「そうよ。主人の顔も忘れたのかしら?」

「顔も、声も悠子さんなのですが……?」


 妖夢はこのやり取りから、彼女は今、幽々子であると確信した。

 妖夢は気を取り直して、幽々子に理由を尋ねた。


「どうやって表に出てきたのですか?」

「彼女、よっぽど疲れていたみたいよ。彼女が深く眠っている間は出て来られるみたいね」


 やけにあっさりと理由が分かった。

 ということは、幽々子様に用があるときは悠子さんを気絶させればいいってことか?

 妖夢は、単純にそんなことを考えた。


「妖夢、あなた物騒なことを考えてそうね」

「――いえいえ、めっそうもない」


 うん、いつもの幽々子様だ。

 妖夢は安心した。

 そして、幽々子が失踪する前に確認し忘れていたことを問うてみることにした。


「せっかく自由に動けるようになったばかりで申し訳ないですが」

「何かしら?」

「あの『計画』はどういたします? そろそろ花の咲く季節ですが……」


 幽々子は目を閉じて考える素振りをした。

 少し間をおいて、ゆっくりと目を開き、妖夢に対して命令した。


「――いえ、その『遊び』は中止よ」

「中止ですか……。しかし――」

「見ての通り、体は夜であれば動かせるわ」

「それなら――」


 妖夢は、今まで一生懸命に準備してきた計画の中止の理由が知りたかった。

 幽々子はその心情を知ってか知らずか、そう判断した理由を述べた。


「だって、それよりももっと面白そうなことになっているんですもの」


 幽々子はそういって自分の胸に――正確には悠子の胸に手を当て、微笑んだ。


 読んでくださってありがとうございます。妖夢との出会いを経て、幽々子が憑依してしまった悠子はどうなってしまうのでしょうか。第三話へと続きます。

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