アジマティクス

ここをこうするとおもしろい

x×y進法だとxじゅうy、x+y進法だとyじゅうxと書けるような数はあるか

この記事は、数学デーアドベントカレンダー10日目の記事です。

東京で「数学デー」という数学好きが集まる場を運営しています。

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そこで主に行われているのは「誰かが持ってきた(数学とは限らない)話題に対して好き放題議論する」ということで、その結果として新しい何らかが生まれたりすることも少なくありません。

このブログのカテゴリ「数学デー」ではそんな議論の一端をご覧いただくことができます。よろしければどうぞ。

そして「新しい何かが生まれる」以外にも、誰かが持ってきた話題が「問題」だったりした場合には、「みんなで問題を解く」という営みが発生しがちです。

もちろん、誰か一人が全部解いてしまうことも多いのですが、やはり「みんなが協力したら解けた」というときの感慨はひとしおです。

今回はそんなお話。

記数法の底も変数であるような方程式

その日の数学デーも、いつものように議論を楽しんでいました。

初めて数学デーに来た人が「普段はどんな話してるんですか?」と聞く、というのも、まあよくある光景の一つだったと言えるでしょう。

そのとき私は、以前参加者の方が持ってきた「位取り記数法の底も変数であるような虫食い算」の話題を思い出していました。

それは例えば次のようなものです。

()=()

下付きのカッコが位取り記数法の底を表します。つまりこの虫食い算の式は、

「クラブじゅうハート」と「ハートじゅうクラブ」がイコールとなるようなスペード進法とダイヤ進法の組はあるか?

という問題として読むことができます。

よくわからないので具体例をあげましょう。例えば十進法での「21」は十九進法で書くと「12」となります。式で書くと21(10)=12(19)。そういうことです。

実はこのような例は他にもあって、例えば

53(10)=35(16)(十進法の53は十六進法の35。以下同じ)

91(10)=19(82)

13(10)=31(4)

82(10)=28(37)

62(10)=26(28)

などなど、片方を十進に限ったとしてもいくらでもあります(いくらでもはない)。

こんなにたくさんある理由は底の部分に制限がなさすぎるからなのであって、これをちゃんとした問題にするにはやはり底の部分になんらかの制限を設けたほうがよさそうだ、という考えになるのは自然なわけです。

そこで私は「例えばこういうのが考えられますよね」と言って、以下のような制限を設けてみました。

(×)=(+)

つまり「クラブかけるハート進法」で「クラブじゅうハート」と書ける数で、「クラブたすハート進法」で「ハートじゅうクラブ」と書けるようなものはあるか?という問題になったわけです。

これは「普段どんな話をしているのか」と聞かれてとっさに出た話で、もうほとんど「口から出まかせ」レベルで適当に設けた制限だったわけですが、これが意外と面白い問題になったので今回ご紹介したいと思う次第です。

このような「十の位と一の位の逆転」を許すような、の組はあるのでしょうか?

証明

数式として扱いやすいようにやらをxとyにしておきましょう。

今回解くべき式は以下です。

xy(x×y)=yx(x+y)(ただしここでの「xy」は「エックスじゅうワイ」を表す)

2以下の数について

xとyの条件として、位取り記数法という要請から正の整数のみ、さらにどちらかが0だと左辺に「0進法」が発生してしまうので、xとyは1以上となります。

加えて、xとyのどちらかが1だった場合も、左辺に「n進法なのにnという記号を使っている」が発生してしまうので、どちらについても1ということはありえません。

というわけで、ここからは「x,y2」の範囲で考えていいことになります。

展開する

xy(x×y)=yx(x+y)(ただし「xy」は「エックスじゅうワイ」)」という式を、位取り記数法の定義に従って展開すると以下のようになります。

左辺 = xxy+y(注:ここのxyは「エックスかけるワイ」)

   = y(x2+1)

右辺 = y(x+y)+x

左辺はyの倍数、右辺についても、y(x+y)の部分まではyの倍数ということがわかります。

左辺全体がyの倍数ということは、イコールで結ばれている右辺全体もyの倍数なはずで、そうなると右辺の残った部分である「x」も、yの倍数でなくてはならないということがわかりますね。

f:id:motcho:20191210060457p:plain

さらに今はx,yとも正の範囲で考えているので、xがyの倍数ということは、「xy」であることもわかります。

左辺から右辺を引く

ここで、(左辺)(右辺)を考えてみます。これが0になるような整数解があれば、左辺と右辺が一致しているということなので、それがすなわち答えです。

(左辺)(右辺)=xxy+yy(x+y)x

この式にちょっと変わったことをします。ここがこの証明のうまいポイントなのですが、ここで左辺のxyx+yに置き換える、ということをするのです。

そうするとx,y2より、xyx+yなので

x(x+y)+yy(x+y)x

となります(等号が不等号になってます)。等号成立条件は、x=y=2

これを式変形していきます。

x(x+y)+yy(x+y)x

  (x+y)でくくって、

=(xy)(x+y)+yx

  後半部をカッコに入れて、

=(xy)(x+y)(xy)

  (xy)でくくって、

=(xy)(x+y1)

となります。

xyx+yに置き換えたことにより、あれよあれよと式が簡単になっていくさまがなんとも爽快です。

さて、ここまでをまとめると、(左辺)(右辺)(xy)(x+y1)ということです。

そして、「xy」より、xyは0以上、「x,y2」より、x+y1は3以上です。

ということは、先ほど最終的に得られた式である「(xy)(x+y1)」は、その2つの式を掛けたものなので、全体としても0以上だということがわかります。

それってつまり(左辺)(右辺)0、ということです。繰り返しですが、等号成立条件はx=y=2

逆に言えば、x=y=2のときのことを除いて考えれば

(左辺)(右辺)>0

ということなので、それはつまり「(左辺)(右辺)=0であるような解はない」ことを意味します。

一方、x=y=2のときは等号が成立し、(左辺)(右辺)=0、すなわち(左辺)=(右辺)となります。

つまりありうる解はx=y=2のみだったというわけです。

はい。というわけで答えがわかりました。

(×)=(+)を満たすようなは、=2=2のみである。

人と数学をやる、ということ

代入すればわかるんですけど、=2=2であるような例ってつまり「22(4)=22(4)」ってことなんで、それ以外に解はないというのは答えとしてはそんなに面白くはないと思うわけです。「四進法の22は四進法の22と同じです」って。ねえ。

それでもこの話が私の中で印象に残っているのは、「何人かで問題を解く」ことの醍醐味が感じられたと思うからです。

実はこの流れ、「問題を思いついた人」「xyであることに気づいた人」「xyx+yに置き換える、というアイデアを思いついた人」「証明をわかりやすくまとめた人」がそれぞれ別なんですよね。

まさに「協力して答えにたどり着いた」という感じがしてそのときは感慨深い気分になったものです。

数学は一人でもできます。というか、一人で黙々と数学に相対する、というのは数学という行いの大事な一つの姿です。そうしなくてはたどり着けない理解もあるでしょう。

だからといって、そこから「みんなで数学をやるのは邪道」などという結論は導かれません。

他人は自分とはまったく違う人生を歩んできた人だからこそ、自分とはまったく違うアイデアをもっている可能性が高いわけです。

また他人に向かって自分の理解を話すと、むしろ自分の理解がさらに深まる、ということもあります。

何人かで、みんなで数学をやる、というのも、それはそれで大事な一つの数学の姿であることには疑いないでしょう。

結局何が言いたかったかっていうとたぶん「数学デーに来て」ってことなんだろうな。毎週水・金の17:00から22:00までやってます。神田と御茶ノ水です。よろしくお願いします。なんだそれ。

 

 

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