「クラウド導入を試みた当初は、『なぜクラウドを使うのか』『今までのやり方を変える意味が分からない』などと、周囲から猛反発に遭いました」――。京王電鉄の虻川勝彦氏(経営統括本部 デジタル戦略推進部長)は、12月10日に開催されたシステム担当者向けイベント「NetApp INSIGHT 2019 TOKYO」でこう語った。
虻川氏は、グループ会社の京王電鉄バス(以下、京王バス)に出向していた2011年から、システム刷新プロジェクトの責任者としてクラウド導入を推進。グループウェアに「Office 365」、アプリ開発基盤に「kintone」を導入した他、14年からは「Amazon Web Services」を使用するなど、多様な製品をビジネスに採り入れてきた。
17年に京王電鉄に戻った後は、AIを活用した新規事業を手掛ける傍ら、企業向けAWSユーザーグループ「E-JAWS」の代表者も務めている。そんな同氏でも、11年当時は周囲の説得に苦労していたという。
虻川氏が出向していた当時の京王バスでは、ITエンジニアとして長年働いた後、「ちょっと気分を変えたい」と考えてバスの運転手に転職する人が多かった。システム部門の人数が約5人と少なかったこともあり、エンジニア出身の運転手が業務を手伝うこともあったという。
「当時は新人が、複数のExcelファイルに全く同じ(売り上げなどの)情報を手入力する作業を任されるなど、現場は細かな業務に忙殺されていました。それを見かねたエンジニア出身の運転手が『何をやっているんだ、俺に任せろ』と、Excelの関数やマクロを組み、手入力の手間を省略する“オリジナルファイル”を作ってくれたんです」(虻川氏、以下同)
運転手が作成したExcelファイルは、サイズが1つ当たり1GBに上るほど、大規模かつ複雑なものだったという。だが、エンジニア上がりの運転手たちの大半は、京王バスで数年間働くと、かつての業界が恋しくなってIT企業に転職していった。彼らが辞めた後は、新人が誤って関数やマクロを無効にしてしまい、修正方法が分からなくなったまま、大容量のファイルだけが残された。
「このままでは運用が破綻してしまう」。危機感を覚えた虻川氏は、クラウドサービスを活用して業務を効率化することを社内に提案した。だが、同氏を待ち受けていたのは、冒頭のような反発だった。
「部下や経営陣はもちろん、ITベンダーから『クラウドはできません』と拒否された事もありました。経営陣は『クラウドを使うと、障害が起きたらニュースになってしまう。本当に大丈夫なのか』と心配する気持ちもあったようです」
だが虻川氏は、クラウドの重要性を繰り返し説き、経営陣を説得し続けた。
「メリットがあると考えていないサービスの話をいくらしても、経営者の頭には残りません。そこで、できるだけ経営指標に絡めて(クラウド導入による業績への影響などを)説明するなど、興味を持ってもらう工夫をしました。ただ、決算で悪い数字が出た直後や、障害のニュースが出た時などは、状況に合わせて説明の仕方を変えました」
「経営層から『いいよ』との返事があっても、本当にクラウドを使ってもいいという意味だとは限りません。そのことを前提に、『前回了承してもらった話+新しい話』というように、重要なことは繰り返し話すことも大切でした。専門用語を多用して丸め込もうとせず、簡易な言葉を使うことも心掛けました」
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.