(前回までのあらすじ:1573年、足利義昭が蜂起し信長は京へ軍を進める。意識が異世界転生し、アバターとなった戦国時代の母娘を生かすため兵士になる決意をしたオババとアメリッシュ。鉄砲足軽隊として他の5人の仲間とともに古川久兵衛の配下になり槇島城の戦いに参加、宇治川で仲間のヨシが溺れる)
槇島城の戦い
宇治川を渡りきると、小荷駄隊が船で搬送した鎧や武器を手渡してきた。なかなか手際がいいというか。
小さなハマとカズは屈強な男にかつがれ、先に岸で待っていた。
「ヨシは? 大丈夫か?」
真っ先にオババが聞いた。
「トミ、知っているか」
「先に岸にあがっているはずだが・・・」
宇治川を渡る途中、溺れかけたヨシは小頭の古川久兵衛に背負われ、私たちより、かなり早く岸に到着しているはずだった。
「あそこ、あそこにヨシがいる」と、ハマが言った。
彼女が指差す先にヨシがいた。
半腰になった久兵衛に、少し寄りかかるように、赤い顔をして腰を下ろしている。
「無事か。よかった」
「ともかく、まず身支度だ。とっとと鎧をつけておこう」と、トミが支持した。
宇治川を渡ることで、織田軍にどれほど損害がでたか定かじゃないけど、もともと7万人という兵、数百人が流されたとしても、さして上のほうは気にしないだろう。私たち7人が無事だった。それだけでもよかった。
槇島城は湖沼に囲まれた天然の要塞であって、その要塞の役目をする湖を突破されると防御するに弱い。
木造の城というより、城郭(じょうかく:城の周りを囲む塀)を持つ砦のような城だったんだ。
もともと、真木島昭光という豪族が支配していたけど、そこへ義昭が救いを求める形で入り込んだ。数日前の二条城戦で、足利義昭の配下は織田に降伏した。それで、かなり義昭軍は削られてた。
だから城内に4000人も兵がいたら驚きというレベル。
数千人しかいない敵に信長が揃えた軍勢は総勢7万人。
なにせ、義昭直轄の兵はいないわけだから。もっぱら他の大名頼みの反旗だったわけで。そこに、18倍の、ありえない人数を揃えて取り囲んだ信長。この先の義昭、完全にフルボッコされるって、私、知っているわけ。
将軍家が滅びる、今日は、その日なんだ。
だから、7万人って数字、ちょっと想像してみてほしい。
嵐などのコンサートで東京ドームを満員にした5万人の映像が下記画像。
5万人でこんな雰囲気。まだあと2万人もいるんだ。
その兵が槇島城の南側に集結した。
オババとアメは『One Team』
「オババ」と、声をかけた。
「どうした」
「この戦いは一方的に信長側が勝利する。先に二条城を攻めて個々に軍勢を削り、膨大な数の兵で攻める信長の戦略だから」
「じゃあ、戦いはないのか」
「ある、けど、勝つ。城は燃える」
「火攻めか」
「そう」
「じゃあ。われらは、どうするんだろうか」
どこもかしこも、人、人、人で、
槇島城の南側に布陣した信長勢のなか、私たちは人に埋もれている。
全軍が宇治川を渡りきり、しばし休憩して装備を整えたのち、これから一方的な攻めがはじまるのだ。
「ちょっと抜けたいんですが・・・。槇島城の最後の勇姿を見てみたいです」
オババが驚いた顔で口をあけた。
「歴女だなぁ」
私はニッと笑った。もうね、いてもたってもいられなかった。
この場所、現代では湖があったなんて全く信じられないほど、普通の住宅街になっている。城跡として石碑しか残ってないんだ。
その城が、今、すぐそこにある・・・。私が転生したアバターおマチ、背が低すぎて、人混みに埋まって、城も城壁もまったく見えない。
オババは仕方ないなって顔したので、ニッと微笑んで仲間に声をかけた。
「トミ、少し抜けてもいいか。様子をみてくる」
「危ないところにはいくな」
「わかっている」
私とオババは久兵衛に「用をたしてくる(トイレ)」と言って、隊列から離れた。
「それで」と、オババが聞いた。「これからの戦いは」
「歴史では、城門から撃ってでた50名ほどの足軽を、佐久間信盛や蜂屋頼隆が討ち取り、その後は壁を破って火攻めですけど、この人、人、人には、足利側も負けだって思っているでしょう。城からこっそり逃げ出す者も多いかもしれない」
そんなことを話しながら、岸辺から西側に抜ける・・・
夏の日差しが強く、宇治川の水面がキラキラと輝いている。
伸び放題の背丈ほどもある葦に隠れて城方面に近づいてみた。
城は城郭に囲まれているけど、築かれたのは古く1221年。
1573年から考えても350年以上も前のものだったから、穴もあき古びている。
この壁を破るの、7万の軍なら、それほど時間は必要ないんじゃないかって思ったよ。
葦を抜けると雑木が生え、その先に壁と、少し城が見えた。
「オババ。あれだ」
「あんな石で積んだ壁を見たかったのか」
「いや、その先の城を・・・、今日、燃えてしまう最後の姿なんです。スマホが欲しい。写メしたい。そいでもって拡散したい」
「誰に?」
「え〜〜と、ま、戦国の人々に生中継で」
話をしながらさらに近づくと、いきなりカサっという音が聞こえた。
「オババ!」
「なんだと思う?」
「野犬?」
その声に誘われたのか、あるいは女声だったからか、樹木の間から一人の男、あ、いや、二人? 違う、もっといる。
まずい、5人・・・、だ!
こういうのって、出会い頭の事故?
5人のむさい男ばかりだし、汚れた鎧を着用しているが、あきらかに織田軍の装備ではない。
やだやだやだ・・・、一番、会いたくない奴らに出くわしちまった。
「オババ。たぶん、逃亡兵だ」と早口で伝えた。
「逃亡兵?」
「織田の軍勢をみて、逃げ出してきたんだ」
身をやつした男たちも訝しんでいる。
そのうちの一人が、刀を抜いた。
「ここは、ハカだ!」とオババがささやいた。
「ハカ?」
「ほら、あのラクビーのハカで威嚇して逃げる!」
この転生物語から、ブログをお読みになった方はご存知ないと思う。
実は夏に従姉妹の結婚式があって、ちょうど『One Team』。ラクビーの試合で盛り上がっていた頃で、結婚式の余興でニュージーランド選手が行う伝統のハカを披露したんだ。オババとその愉快な老人たちと一緒にね。
いやね、結婚式でお婆ちゃんたちとハカダンスなんて、全くしたくなかった。けど、成り行きで練習するはめになって、なかなか上手いって、いや、今、そこじゃない。
戦国時代に、落ち武者に向かって威嚇って、
それもハカでって、違うっしょ。
オババ、相変わらず狂ってるというか、なんで、ハカよ。
「オババ、それ、今じゃないでしょ」
「いや、今でしょ」
いや、絶対、ない!
それに、結婚式でも最初はハカダンスじゃないんだ。
オババはディズニーオタクで、映画『ライオンキング」のラフィキの雄叫びを最初に披露した。
で、信じられん。
オババ、おたけんだ!
嘘だろ、嘘だと言って。
ここで、ライオンキングの子を祝福してどうするよ。
♫ンナァ〜〜〜!
ツゴンンニャ〜〜 ♫
義昭軍から逃げてきた5人の男たち、その高らかな声にアワワってなった。
え? こんな奇襲がきいたの?
そりゃ、、この時代の人、『ライオンキング』みてないもんね。
びっくりを通りこして、不気味だよね。
ほんとは、こっそり逃げようとしてたんだよね。気持ち、わかるよ。
だって、オババ、声量があるから。
「おっし、ひるんどるぞ。次、いく!」
で、腰を落として、腕を組んで、やっちまったんだよ。
ここでも、お約束のハカダンス。たった二人で渾身のハカダンス!
戦国の足軽5人を前に・・・
New Zealand's first Haka at Rugby World Cup 2019
♫ Ka mate, ka mate! 私は死ぬ! 私は死ぬ!
♫ ka ora! ka ora! 私は生きる! 私は生きる!
♫ Ka mate, ka mate! 私は死ぬ! 私は死ぬ!
♫ ka ora! ka ora! 私は生きる! 私は生きる!
♫ Tēnei te tangata pūhuruhuru 見よ、この勇気ある者を。
♫ Nāna nei I tiki この毛深い男が
♫ mai whakawhiti te rā 太陽を呼び輝かせる!
♫ Ā, upane! ka upane! 一歩上へ! さらに一歩上へ!
♫ Ā, upane, ka upane, 一歩上へ! さらに一歩上へ!
♫ whiti te ra! 太陽は輝く!
そして、最後にガッツポーズで、気合いの
「ウッ!」
逃亡足軽たちも・・・
「ウッ」ってなってた。
そっちは、たぶん未知との遭遇のウッだったと思う。
「おっし、全速で逃げる!」という言葉の前にオババ走ってた。
・・・つづく
登場人物
オババ:私の姑。カネという1573年農民の40代のアバターとして戦国時代に転生
私:アメリッシュ。マチという1573年農民の20代のアバターとして戦国時代に転生
トミ:1573年に生きる農民生まれ。明智光秀に仕える鉄砲足軽ホ隊の頭
ハマ:13歳の子ども鉄砲足軽ホ隊
カズ:心優しく大人しい鉄砲足軽ホ隊。19歳
ヨシ:貧しい元士族の織田に滅ぼされた家の娘。鉄砲足軽ホ隊
テン:ナイフ剣技に優れた美しい謎の女。鉄砲足軽ホ隊
古川久兵衛:足軽小頭(鉄砲足軽隊小頭)。鉄砲足軽ホ隊を配下にした明智光秀の家来
*内容は歴史的事実を元にしたフィクションです。
*歴史上の登場人物の年齢については不詳なことが多く、一般的に流通している年齢などで書いています。
*歴史的内容については、一応、持っている資料などで確認していますが、間違っていましたらごめんなさい。
参考資料:#『信長公記』太田牛一著#『日本史』ルイス・フロイス著#『惟任退治記』大村由己著#『軍事の日本史』本郷和人著#『黄金の日本史』加藤廣著#『日本史のツボ』本郷和人著#『歴史の見かた』和歌森太郎著#『村上海賊の娘』和田竜著#『信長』坂口安吾著#『日本の歴史』杉山博著#『雑兵足軽たちの戦い』東郷隆著#『骨が語る日本史』鈴木尚著(馬場悠男解説)#『夜這いの民俗学』赤松啓介著ほか多数
ディズニー映画『ライオンキング』
2019年、ディズニーから超実写版として公開された『ライオンキング』。アニメなのに実写のような映像と動き。
これ、アニメ?って。
そんな不可解な感想も必要ない息をのむ映像に驚きました。
ちなみに、12月4日から来年の1月9日まで。
ディズニーシアター公式WEBで最新作「ライオン・キング」を、500円(税抜)で、レンタル購入できるそうです。その上、500ポイント還元キャンペーンしていますから、お得です。
オババの雄叫び『サークル・オブ・ライフ』を聞くことができます。
ラフィキが王の息子シンバの誕生を祝って捧げる歌です。
ところで、子猫を抱き上げて頭上にかざすことが流行しているらしいですが・・・???