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ただいま表示中:2019年8月28日(水)知られざる天才 “ギフテッド”の素顔
2019年8月28日(水)
知られざる天才 “ギフテッド”の素顔

知られざる天才 “ギフテッド”の素顔

小中学生の不登校が4年連続13万人を超え、画一的ではない教育を模索する動きが本格化し始めている。そのなかで注目を集めているのが、生まれつき高い知能(IQ130以上が目安)や才能を持つ「ギフテッド」と呼ばれる若者たち。マーク・ザッカーバーグ、ビル・ゲイツなども“ギフテッド”とされ、米国などでは国家の教育支援を受けている。今回番組では、日本国内のギフテッドにアンケートを実施。すると、才能を秘めた若者が「生きづらさ」を抱えている現状が明らかになった。才能を十分に発揮できる社会には何が必要なのか、数々のギフテッドの例とともに考える。

ギフテッドの方々へのアンケート結果はこちら

出演者

  • 石井光太さん (作家)
  • 宮田裕章さん (慶應義塾大学 教授)
  • 川崎由起子さん (ギフテッド教育専門家)
  • 武田真一 (キャスター) 、 高山哲哉 (アナウンサー)

知られざる天才 “ギフテッド”の素顔

飛び抜けた能力を持つ「ギフテッド」と呼ばれる天才たち。「天から才能を授かった人」という意味で、海外では広く知られています。アインシュタイン、ビル・ゲイツ、フェイスブックを創設したマーク・ザッカーバーグ。彼らも皆、ギフテッドといわれ、数々のイノベーションを起こしてきました。このギフテッド、実は日本にも250万人以上いると言われています。今回私たちは、その素顔に迫るためアンケートを実施。すると、意外な事実が明らかになりました。

“人間関係のストレスから体調を崩した。”

“「はみ出し者」的なレッテルを貼られてしまう。”

“ほぼ9年間不登校。”

ギフテッドの9割近くが、何らかの生きづらさを感じていたのです。

武田:知られざる才能を秘めた、ギフテッド。彼らは一体、どんな環境の中で生きているのでしょうか。

まずやってきたのは、沖縄県。大学1年生の太田三砂貴さん。

得意な分野は、数学と物理。小学生の時には、アインシュタインの相対性理論を理解していました。

太田さん
「3の階乗分のXの3乗+…という無限和で表される。こういうの書いてる時が一番人生の中でわりと幸せな瞬間で。」

取材班
「えー、幸せ?本当ですか?」

太田さん
「幸せですよ。この何か美しいというか。」

取材班
「美しいんですか?」

周囲の自然を見る目も独特です。一見複雑に見える現象を、シンプルな数式で表すことに喜びを感じると言います。

太田さん
「この木の、イボイボの角度なんですけど、このイボイボって間違いなく不規則には並んでおらず、すべて規則的に並んでいるはず。」

この日、気になったのは、木についたコブ。スマホのアプリで角度を測り始めました。

太田さん
「この傾き度合いが36度がそれの倍数か何か、黄金比やフィボナッチ数列に準ずる何かに関係あるのかなと思ったんですけど、面白い、これは本当に面白いな。」

高校生の時、軽い気持ちで知能検査を受けた太田さん。結果はIQ188。5億人に1人という飛び抜けた数値でした。

IQ=知能指数とは、言語能力や記憶力などの知的能力を数値化したもの。100を平均に、数字が大きいほど知能が高いとされます。中でも、IQが130を超える人たちが、生まれつき知的能力が高いギフテッド。割合は人口の2パーセントほど。日本には250万人程度いるとされます。太田さんのIQ188はギフテッドの中でも抜群に高い数値。

1歳の後半でローマ字、3歳の時には漢字を書き始めたといいます。しかし、ずば抜けた能力は当初、両親からも理解されず、一時は大学進学も諦めざるをえませんでした。

父 浩さん
「自分から天才、頭のきれる子なんか生まれるとは思っていませんでしたし、だから、ちゃんと専門学校に行って、特殊な技術を身につければ、食べていけるんじゃないか。」

太田さん
「絶対悪気があって言うわけない、父親なので。『一回社会経験を積んで世の中を知ってほしい』と父親は思ったと思うんですね。どうしても解決のできない難しい問題が自分と両親の間ですらあって、『誰かわかってくれる人はいないのかな』っていう強い孤独感はありましたね。」

実は、こうした生きづらさを感じているのは、太田さんだけではありません。今回番組では、日本全国のギフテッドにアンケートを実施。すると、全体の9割の人が、何らかの生きづらさを感じていたのです。

やってきたのは、札幌市の自転車店。宮田太郎くん、小学6年生と母親の邦子さんです。

医学系の本が大好きな太郎くん。小学校に入る前から、かけ算や分数を理解していました。

母 邦子さん
「興味を持つことが世間一般のお子さんたちとちょっと違っていたので、やっぱり変な話、普通じゃないというか、育てにくいっていうか。」

不思議に思った邦子さん。小学3年生の時、知能テストに申し込むと、IQは141。予想外の高い数値に驚いたといいます。そんな中、太郎くんは小学校生活で思いがけない苦労に遭遇します。教室で、大好きな生物や人体に関する専門書を読んでいた時のこと。

太郎くん
「男子の友達関係が、ちょっとうまくいかなくて、本読んでる途中にパタンって閉められたりとか。」

高山:太郎くんが本読んでるとき?

太郎くん
「はい。」

さらに、学校で習わない範囲のことを先生に質問すると…。

母 邦子さん
「先生の第一声が『太郎くんは宇宙人で理解できないんです』。(私は)『すいません、うちの子変わってるんで』って言うしかなくて、『扱いに困る』と言われたので『どうすればいいんですか』って聞かれて。」

高山:先生が?

母 邦子さん
「そう。私の方が、どうすればいいのですかと思って。」

次第に太郎くんは、精神面で不調をきたすようになります。

母 邦子さん
「イライラというか髪の毛を抜いて、宿題やりながら、いつも髪を抜いて、もうこの子は壊れてしまうんじゃないかって。」

学校の授業がもの足りなかったり、周りから浮いてしまう。こうした問題は、落ちこぼれならぬ、「浮きこぼれ」と呼ばれ、アンケートでも多くの声が寄せられました。

(アンケートに寄せられた声)

“ひらがなの勉強をしている時、すぐ終わって提出にいくと、先生が不機嫌になりとても怖かった。”

“習っていない漢字を書いたら「他の児童に悪影響」と言われ、書き直させられた。”

“かけっこが得意な人は「速く走っちゃだめ」と言われないのに、勉強はなぜ横並びにしないといけないのか。”

アンケートには、周囲から浮いてしまい、不登校になったという声も目立ちました。

小学6年生の檜垣大峯くんも浮きこぼれた一人。学校になじめず、小1で不登校になりました。

大峯くん
「僕は(算数の問題を)パパっと終わって、先生に次の(問題を)下さいと言っても、みんなが終わるのを待ってから、次の段階に入っていくっていう点で、ちょっと合わなかったと思います。」

窮屈な学校の代わりに通い始めたのが、水族館。海洋生物と出会いのめり込んでいきます。そんな時、アメリカやカナダには飛び級など、ギフテッドに向いた教育があると知った檜垣くん。両親を説得し、小5でカナダ留学を決めました。今は、現地の公立小学校に通いながら、生物学などの分野は大学の授業に出て学んでいます。

大峯くん
「こんなにいい環境があるんだ。どんどんチャレンジが出てくるような教育システムがあるんだっていうことを思いながら、とても充実した毎日を過ごせていると実感します。」

ゲスト 川崎由起子さん(ギフテッド教育専門家)
ゲスト 石井光太さん(作家)
ゲスト 宮田裕章さん(慶應義塾大学 教授)

武田:もう大人みたいなものの言い方ですよね。こんな子がいるんだなというふうに驚きましたけれども。

高山:なかなか理解が得られないということで悩んでいるのは当事者本人だけじゃなくて家族もなんです。札幌で取材した宮田さん親子なんですけれど、太郎くんのお母さんは「ちょっと育てづらいな」というふうにおっしゃっていましたが、公的な機関に相談をして、IQテストを受けてみたらIQが高かった。「よかったですね」と言われて、何の支援も受けられず、もやもやが続くと。幸いにも太郎くんは、学年が上がって、いい先生に巡り合えて、学校が楽しいというモードに入ったんですけれど、日本には制度としての受け皿がないという現状。これをまず皆さんに知ってほしい。

武田:その辺りのことを、ギフテッドの教育に詳しい、川崎由起子さんに伺っていきたいと思います。
川崎さんはアメリカ・シリコンバレーのギフテッドの子どもたちだけが通う学校の先生をなさっていたと。アメリカにはそういうところがあるんですね。

川崎さん:あります。私が通っていた学校は、シリコンバレーのまさに真ん中にあるヌエーバスクールという学校なんですが、IQ135以上の子どもたちだけを集めて。

武田:どんな子たちがいるんでしょうか?

川崎さん:とにかく、入ってくる子どもたち、お母様たちがまず気が付くのは、1つのことに集中したら、ごはんも忘れて本を読んでいたり、それも図鑑をずっと見ていたり、1つの分野のものをずっと長くやっているので。

武田:石井さん、どうですか?

石井さん:僕自身が取材の中で、ある子に出会ったんですけれど、それは家庭環境が非常に悪くて、小学校の時から学校に行っていなくて、15歳で覚醒剤の売買をしていたんですね。最終的には少年院に行ってしまうんですけれども、その女の子がそういった覚醒剤の売買をする中で、外国人に会ってしゃべりますよね。それだけで外国語を覚えてしまうという子がいたんですね。「何か国語しゃべれるの?」って言ったら、「7か国語だ」と。例えば、中国語ができて、スペイン語ができて、ポルトガル語ができてっていうことですよね。

武田:その子も、もしかしたらギフテッドだったかもしれませんけれども。

石井さん:可能性はあります。

宮田さん:先ほどのVTRの問いかけにもありましたけれども、すごく勉強ができる子と、今日番組で取り上げるギフテッドっていうのは、やはり違うんですよね。

高山:ギフテッドと認定する上でIQというのは1つの物差しにすぎないんですが、ある専門家によると、何かずば抜けた才能を持つ人もギフテッドとしているそうなんです。
例えば、こちらの方。

皆さんご存じ、「ひふみん」の愛称で親しまれている、棋士の加藤一二三さん。

14歳、中学生でプロ入りします。その後も次々と史上最年少記録を塗り替えて、「神武以来の天才」と呼ばれ続けてきました。ギフテッドと呼ばれるゆえんが抜群の記憶力。なんと、プロ生活63年間の全ての対局を鮮明に思い出すことができるというんですね。
では、一体どれだけすごいのか。かつて、最強といわれた大山康晴名人との1局を特別に再現していただきました。勝負が行われたのは、今から59年前のことです。

武田:えー!そんな昔?

高山:本当に覚えていらっしゃるのか…。

棋士 加藤一二三さん
「これはですね、古い話で4四銀と大山名人は上がってきたんですね。これはですね、ユニークな手でして、私に揺さぶりをかけたんだと思うんですね。それに対して私は冷静に4六歩と対抗しまして、実を言うと、この将棋は私の快勝に終わったんですけども。95%は自分と相手の考え方は全部思い出すことができます。」

そんな記憶力を誇る加藤さんなんですが、実は、何でも覚えることができたというわけではなかったんだそうです。

加藤さん
「すべての物事には根拠があって、根拠があるから覚えられる。でも私は今でも思っていますが、私は文系の人間で、理系の人間ではない。理科などは苦手だった。どちらかというと数字も苦手。理数は苦手だったんですね。」

武田:ギフテッドといっても何でもできるスーパーマンというわけじゃなくて、やはり能力にも凸凹があるということなんですね。

川崎さん:もちろん、そうですね。ギフテッドだからこそ凸凹がある。1つのことに非常にたけているから、ほかのことができなかったり、またそのレベルがすごく高いから自分がそのギャップに苦しんだりということもあるので、全てがAプラスの子どもというわけではないです。

高山:今回番組では、日本のギフテッドの皆さんにアンケートを行いました。こちらのQRコードで番組のホームページにアクセスして見ることもできるんですが、ちょっといくつかご紹介します。

まずはこちら、「自分でも空気が読めない自覚はある。筋が通っていると感じると『不謹慎』なことでも言ってしまう」。
これは、みんなが求めているものと違うかもしれないけれど、ちょっと心が許さないから言うしかないというふうに思ってしまうと。
一方で、こんなに理解されないんだったら周りに合わせてしまえというふうに考えたことがあるというエピソードもご紹介します。
こちら、「幼稚園時点で、すでに世間に迎合していた。他者を観察して、決して1番の成績は取らないよう調整してきた」。

武田:やはりギフテッドの子どもたちが自分の力っていうものを抑制してしまう。外に見せないとか、あえて低くしてしまうってこともあるんですか?

川崎さん:ギフテッドスクールに行かなければ、子どもたちはこういうことを多分すると思います。やっぱりみんなと同じであることがとても重要だってお母さんたちからも言われているし、わざわざ分かっていても、手を挙げなかったりっていうことはよくあります。

武田:そのことによって、もともと持っていた高い能力が伸ばしきれないっていうことも起こり得るわけですね。

川崎さん:もちろん、そうですね。

武田:そうすると、本人にとっては非常に残念な…。

川崎さん:とても残念ですね。

武田:日本ではこういった声がたくさん寄せられているわけですけれども、アメリカでは?

川崎さん:私の勤めていた学校は私立で、シリコンバレーという非常に潤沢な資金の場所にあった学校ですけれど、ギフテッド教育自体は公立でも行われているし、それは公立に行って、クラスの中でギフテッドの子がいたら、それを抽出して、ある時間だけはギフテッドの子はまとめてやるというやり方もあるし。

武田:そういう教え子のお一人をご紹介していただける…。

川崎さん:紹介させていただきたいと思います。
彼は、アマン・クマールという子で、今はシリコンバレーのフェイスブックという、皆さんがよくご存じのシステム部門の幹部をしています。

更に彼は、エストニアという国のIT分野の国家アドバイザーもしているという。

武田:立派になられたんですね。

川崎さん:中学のときの写真ですね。私が中学の時に教えた時の写真で、彼はすごく頭の回転がすごく速いんですけれど、きつ音の症状があって、なかなか人と話すのが苦手でした。

アマン・クマールさん
「頭がいいなら、楽に生きていけるんじゃないかって思われがちなんだけど、そんなに単純じゃなくって、社会的ふるまいや感情の発達に影響が出てくるんだ。川崎先生の学校では、自分だけのスーパーパワーを見つけようと言われてきた。バランスが悪いことにも寛容で『これができなくても、これが得意ならOK』というふうにね。」

日本のギフテッドにメッセージを—

アマン・クマールさん
「まず言いたいのは『君はひとりじゃない』ってことさ。どの社会にも、すべての国にギフテッドはいるよ。社会とのつながりを持つことが大事。接点なんて何だっていい。自分のことを受け入れてもらえる居場所を見つければいいんだよ。」

武田:アマンさんをどういうふうに教育していったのか。一番力を入れたことってどういうことだったんですか?

川崎さん:やっぱり彼が彼らしく自信を持って生きていってくれることというのがすごく大事だなと思って。彼は、きつ音があったけれども、もちろん、それはトレーニングをやるけれども、そういうことを伸ばせるように、みんなといろんな話をして、心のサポートもしていきました。

武田:能力ではなくて?

川崎さん:能力ではなくて。

武田:心なんですか?

川崎さん:心のサポートを。例えば、これは私がヌエーバスクールから借りてきたんですが、こういうもので表現をすると。

武田:それは、なんですか?

川崎さん:これは針金なんですね。こういう針金なんですけれど、こういうものを使って、まず自分の1日を、今日の気持ちの変化を自分で振り返る。やってみますか?

高山:おや?こんなところに針金が2つあります。じゃあ、ちょっとお2人どうぞ。

川崎さん:まず今日の1日を。あるいは最近起こった心に残る出来事を思い出してください。私たちは「ソーシャル・エモーショナル・ラーニング」というのをたくさんやって、自分の気持ちをきちっと、いいことも、悪いことも自分で把握するということをやっていました。

武田:石井さん、もうできましたね。じゃあ、ちょっと石井さん見せていただいて。それはなんですか?

石井さん:風邪をひいて、副鼻腔炎で酒を1週間飲めなかったので、飲んだ時にめちゃくちゃ気持ちよかったっていう。そのときの口を…。

川崎さん:気持ちよかったというのが、その形になったということですよね。
それはなんですか?

武田:これは、母がちょっと入院しまして。無事、手術も済んだんですけれども、ちょっと心配したなっていう。まあ、不安ですね。

高山:僕は高校野球。甲子園で応援したんですよ。行ってきたんですよ、夏休みに。高校生から元気をもらったので、この気持ちを思い出しながら…。

武田:いや、だからどういう気持ち…。

高山:ボールですよ、ボール。

武田:でも、こういうふうにギフテッドの子どもたちというのは、自分の気持ちを今、皆さんで活発に表現なさいましたけれども、これが難しいわけですね。

川崎さん:それがすごく難しいです。ギフテッドは自分を非常にスーパーパワーだと思っているけれど、実は、人に頼ることも大事だよって。人に頼ったら、ここ最後まで歩けたよねっていうようなことを毎日、実践していく。

武田:宮田さんは、いかがですか。

宮田さん:欧米では、こういったギフテッドの子を社会で育てて、その恩恵をみんなで享受していこうと。こういう考え方のもとにギフテッド教育っていうのが進められてきたと。一方で、日本はどちらかというと、凸凹のいわゆる、へこんでいるところを埋めて、きれいな歯車を作っていこう。そういうような考え方も結構あった部分がありますね。どちらが正しいっていうことはなくて、特に高度経済成長期というのは、皆が同じ方向に向かって進んでいくということもあって、そういった教育が功を奏した部分もあったかと思います。ただ、これから経済成長というのが、いわゆる、今までのような1つの同じ方向性にいくものではなくなってきていると。やはりきれいな歯車として教育していくだけではなくて、凸凹でもいい。こういった個性を伸ばしていくということが、まさに日本でも大事になってきている時期かなというふうに思います。

高山:日本でも3年ほど前になるんですが、この方がギフテッドの居場所になればということで財団を立ち上げました。ソフトバンクの孫正義会長。「異能」という、なかなか聞かない言葉ですが、異なる能力を持つ若者を支援する財団を立ち上げたんですね。すば抜けた才能を持っていることが認定されれば、進学や留学の費用を支援。研究施設も自由に利用ができる。起業も応援するというものなんです。

ソフトバンクグループ 孫正義社長
「トップ、異能をさらに大きく伸ばしていこうと、こういう部分については、日本はあまり力点を置いていないし、得意としていない。産業や学術の世界でリーダーになりうる芽をさらに伸ばしていきたい、応援していきたい。」

ギフテッド 個性を認める社会へ

武田:日本でも、ようやくこういった場ができつつあるということなんですが。石井さん、まずこういった動きどういうふうに見ていらっしゃいますか?

石井さん:今、孫さんがおっしゃっていたことは非常に理解できます。ただし、孫さんの言っていることだけが社会の1つの定義というか、目標になってしまうのもちょっと怖いのかなというふうに思いました。どういうことかといいますと、例えばギフテッドを持っている人だって、じゃあ、それを必ずしも伸ばさなきゃいけないってことはないと思うんですね。例えばIQは非常にいいですと。でも、やっぱり子どもをたくさん作って、5人作って幸せに暮らしたいっていう人もいるかもしれない。あるいは、経済的にはうまくいかないかもしれないけれど、詩を読んで暮らしていきたい。あるいは海のそばで暮らしていきたい。そういったことも1つの価値観だと思うんですよね。

武田:川崎さんはこのギフテッドの人たちの教育の在り方をどういうふうに考えていらっしゃいますか?

川崎さん:多様性を培うことが大事だっていうことをおっしゃっていたんですけれど、まさにそうですけれど、やっぱり多様性を培うためには、まずギフテッドを認識していただいて、あと保護者。私もギフテッドの保護者として子どもを育てたので分かりますが、やはり、非常に保護者自身が、自分の子どもに自信を持って、子どもたちができないとかじゃなくて、この子はちょっと変わっているけれども、変わっているのは当たり前っていうふうに思っていただいて、子どものために、例えば先生に「変わっているね」と言われても「宇宙人だね」と言われても、「本当に宇宙人なんです」って言って、子どもの味方で保護者があってほしいなと思っています。

高山:今回、皆さんからお寄せいただいたギフテッドの皆さんのアンケートなんですけれど、よく見つめてみると、共感できるところも多いんですよ。ちょっとしたことっていうのは、学校で認められなかったっていうのは、結構多くの人が経験していることなんですよね。それがスーパーパワーだから目立っちゃっただけで。ギフテッドが輝くっていうものを見つめれば、僕らの生きやすさにもつながるのかなというふうに改めて感じました。

武田:多くの人たちの個性が重んじられるような社会にしていく。それがギフテッドの人たちのためだけじゃない、この社会全体のためっていうことになるんですね。

高山:ギフテッドからの贈り物なんじゃないかなと、僕は思いました。

川崎さん:ギフテッドからのギフトですね。

2019年8月27日(火)
どうなる“最悪”の日韓関係~解決の糸口はあるのか~

どうなる“最悪”の日韓関係~解決の糸口はあるのか~

国交正常化以降、「最悪」といわれる日韓関係はどうなるのか…。先週、韓国は日本との軍事情報包括保護協定“GSOMIA(ジーソミア)”の破棄を決定。対立は、安全保障や経済に波及し、これほどの関係悪化のきっかけとなった「徴用」をめぐる問題でも、両国の主張は平行線のままだ。日韓両国の思惑はどこにあるのか?そして、北東アジアの安全保障に影響が出かねないと懸念するアメリカの出方は?取材とインタビューで掘り下げて考えるとともに、今後の見通しを解説しながら、解決の糸口が見つかるのか、その行方を徹底分析する。

出演者

  • NHK記者
  • 武田真一 (キャスター)

ビジネスの最前線で…強まる不安の声

韓国と取り引きのある、日本の商社です。

韓国のニュース動画
「きょう、外務省がGSOMIA破棄を通達します。」

ソウル支店 担当者
「“強い不満”…。」

今、取引先の韓国企業から、問い合わせが相次いでいます。

担当者
「対立で両国間の物資の輸出入に影響が発生するのではないか、現場が心配をしておりまして。電話が1日何件かありまして。」

工場で使われる電気機器を韓国に輸出している、こちらの商社。韓国との取り引きは海外での売り上げの4分の1近くを占めています。日韓の対立が激しくなるにつれ、韓国の取引先が日本の製品を敬遠。

担当者
「6月、7月、共にダウン。非常に厳しい状態にある。」

先月(7月)の韓国での売り上げは、去年(2018年)に比べて4割近く落ち込んでいるといいます。

八州産業 田島一義常務
「(政治対立が)ここまで経済に波及した状態は、私自身は知りません。日本製品を使わなくなるというのは非常に危機感。」

影響は韓国企業でも。電気自動車のバッテリーを製造する、この企業。中核となる部品に日本の製品が使われています。日韓関係がさらに悪化すれば調達に支障が出かねないとして、ほかの国の製品に切り替えようとしています。

電話の相手は、中国・杭州に派遣した社員です。

中国・杭州に派遣した社員
“現地の有名なバッテリー会社と充電ステーション会社の3社で協議を行っています。”

代わりの部品は見つかったものの、品質には課題があるという報告でした。

SJTech ユ・チャングン社長
「他の国の製品を使うとなれば、検証する時間が必要になるし、余計な費用もかかります。計画の進行に支障をきたすのではないかと懸念しています。」

“GSOMIA破棄” 緊迫の舞台裏

なぜ、ムン・ジェイン政権はGSOMIAの破棄を決めたのか。実は、直前まで政権内でも意見が鋭く対立。その詳細が明らかになりました。

破棄を発表する3時間前。国防相や外務次官など8人が集まり、NSC=国家安全保障会議が開かれました。このとき、延長を主張したのが4人。破棄を主張したのが3人。意見はきっ抗し、2時間にわたって激しい議論が交わされました。

延長を主張したのは、外交や国防などに関わる閣僚ら。その理由はどのようなものだったのか。
対日政策で政府に助言をしてきたクンミン大学のイ・ウォンドク教授は、閣僚らが延長を主張した背景には、アメリカとの関係があったといいます。

クンミン大学 イ・ウォンドク(李元徳)教授
「GSOMIAは日本との安全保障上においても重要ですが、日米韓の枠組みなので、日本への対抗措置として考えるよりは、アメリカとの関係への悪影響を考慮し、米韓同盟の強化のために不可欠であるというのが延長を主張する側の立場だったと思います。」

韓国は、アメリカから再三にわたってGSOMIAの延長を強く求められていました。NHKの独自取材で、ポンペイオ国務長官と河野外務大臣の2人だけでのやり取りが明らかになりました。

(取材に基づき再現)
河野外相
「GSOMIAの継続について、韓国に念押ししてほしい。」

ポンペイオ国務長官
「すでに韓国には継続するように言っているが、改めて伝えよう。」

アメリカ国務省は、北朝鮮や中国などに対する日米韓の連携を揺るがす深刻な事態となりかねないと、危機感を強めていたといいます。トランプ政権の内情に詳しい、国務省元顧問のクリスチャン・ウィトン氏です。

米国務省 クリスチャン・ウィトン元顧問
「(GSOMIAの破棄は)日本の輸出管理の強化への対抗ということなのでしょうが、それが日米韓にとっての安全保障を脅かす可能性があります。結果的に得をするのは、韓国でも日本でもなく中国なのです。」

実は破棄決定の前日に行われた日韓外相会談でも、GSOMIAの継続を呼びかけた河野外務大臣に対し、韓国のカン・ギョンファ(康京和)外相は、韓国も安全保障上重要な枠組みだと認識していると応じていたことも明らかになりました。
アメリカとの関係悪化を恐れた外交や国防に関わる閣僚ら。これに対し、大統領の側近らは真っ向から反対しました。イ・ウォンドク氏は、側近たちはアメリカとの関係よりも国内世論を優先したのではないかとみています。

クンミン大学 イ・ウォンドク教授
「GSOMIAを『破棄すべきだ』と主張した人たちは、国民の世論調査を行ってきたと言われています。その世論調査の結果、『破棄』を支持するほうが多かったのでしょう。」

今、韓国ではムン・ジェイン政権に反発する世論が高まっています。先週も、大規模な反大統領デモが行われました。

「ムン・ジェイン!売国奴!弾劾が答えだ!」

ムン・ジェイン政権下で若者の失業率が悪化し経済が停滞。さらに今月(8月)、側近の不正疑惑も持ち上がっています。就任当初80%を超えていた支持率は、半分近くまで低下。最新の調査では不支持が上回っています。

クンミン大学 イ・ウォンドク教授
「政府与党は強く否定していますが、大統領側近のスキャンダルがかなり大きな問題となっていますし、非常に困った状況であるため、『局面打開のため、外交・安全保障政策を決定した』、そのような見方があります。」

延長か、破棄か。NSC開始から2時間後、最終的な決断を下すためにムン大統領とその側近4人が加わり、議論が続けられました。最後は大統領みずから破棄を決断したといいます。

ムン大統領の本音はどのようなものなのか。スタジオで徹底分析します。

“GSOMIA破棄”で安全保障は?

武田:GSOMIAの破棄を決断したムン大統領。その理由として、ソウル支局の高野支局長はこんなキーワードを挙げています。「国家的自尊心・積弊清算・政権の求心力」。どういうことでしょう?

高野洋支局長(ソウル支局):まず「国家的自尊心」ですが、民族主義的な色彩の濃い政権を率いるムン大統領ですけれども、今月15日の演説で対話と協力を呼びかけたものの、日本側からなんら反応がなかったとして強い不満を示したというんです。国としてのプライドを傷つけられたという意識を強くした結果、信用しないなら敏感な軍事情報は共有できないとの結論に至ったわけです。
次に「積弊の清算」。ムン政権は、保守派=親日派というくくりで保革の対立をあおってきた面があります。前のパク・クネ政権が日本と結んだGSOMIA。ムン大統領はおととし(2017年)の大統領選挙の公約で、再検討に含みを持たせていたんです。
そして、「政権の求心力」。政権浮揚の切り札である北朝鮮との関係改善は足踏み状態です。韓国経済の減速感も強まっている。さらに、新しい法相に起用した側近をめぐるスキャンダルが相次いで浮上しているんです。来年(2020年)4月の総選挙を控えて、日本への対抗姿勢を鮮明にすることで求心力を高めたい思惑もうかがえます。

武田:一方、日本政府の受け止めですが、政治部の岩田さんによりますと政府は「想定外の対応」。そして、「一線を越えた行為」だと受け止めているわけですか。

岩田明子記者(政治部):そうですね。破棄決定の前日に行われた日韓外相会談ではカン外相が河野外相に対して安全保障上、重要な枠組みだと認識していると応じまして、これまでより柔軟さがかいま見えたということなんです。それだけに、日本政府内には想定外の対応だと衝撃が走りました。
さらに、今回の決定は、米韓合同軍事演習に反発する形で北朝鮮による弾道ミサイルなどの発射が繰り返されて、安全保障面での日米韓3か国の連係の重要性が増しているさなかで行われました。北朝鮮などを利することにもなりかねず、一線を越えた行為だとこういう受け止めが政府内では出ています。

武田:その北朝鮮ですが、GSOMIA破棄の翌日も、2発の弾道ミサイルを発射しましたよね。韓国は東アジアの安全保障、そして日米韓の連携をどうとらえているんでしょうか?

高野支局長:そもそもムン大統領と側近たちは、日米韓3か国が連携して、中国、ロシア、北朝鮮の脅威に対抗するというのは、冷戦時代の遺物ともいえる古い考え方だとみなしているんです。今後は多国間の安全保障を目指すとするムン政権にとって、ある意味GSOMIAの破棄というのは理にかなっているわけです。そこには、北朝鮮の脅威に対する認識のずれがあると思うんです。ムン政権は北朝鮮を対抗するんじゃなくて融和を進めるべきパートナーだと位置づけています。そのムン政権が掲げるのが「自主国防」という考えです。これを進めるうえで欠かせないのが、朝鮮半島有事の際の指揮権をアメリカ軍から韓国軍に移管することです。北朝鮮の反発を承知で米韓合同軍事演習を続けていますのも、韓国軍の能力をアメリカ軍が納得するレベルまで引き上げるためといえると思うんですね。

武田:一方の日本政府ですが、日米韓の連携に今回の事態がどう影響すると考えているでしょうか。

岩田記者:政府高官は、このGSOMIAの破棄について影響は限定的だと述べていました。実際、今回の弾道ミサイルを発射した際には、日本のレーダーが発射段階から着弾まですべて探知していて、その情報を韓国側にも提供していたことが今回の取材で明らかになりました。
ただ、気になるのは、今回の韓国側の決定に強い懸念と失望を表明したアメリカの動きなんです。日米の外交筋によりますと、おととい(25日)行われた日米首脳会談でトランプ大統領は「韓国の行動は賢くない。北朝鮮に完全になめられる」と安倍総理大臣に不満を述べたということなんです。アメリカの反対を押し切ってまで韓国が協定破棄を決定したことが、今後の日米韓3か国の連携にどのように影響するのか。政府は、引き続き安全保障面での3か国の連携の重要性を呼びかけていく考えです。

武田:そのGSOMIA破棄で決定的になっている日韓関係の悪化。その発端となったのは1年前の、あの出来事でした。

対立の発端 「徴用」めぐる問題

日韓両国の立場の違いが鮮明となったきっかけは、去年10月、韓国の最高裁判所が下した判決でした。戦時中、日本政府は労働力不足を補うため、徴用令などで朝鮮半島からも民間人を動員。多くの人々が炭鉱や工場などで働きました。1965年の国交正常化の際に、日韓両国は日韓請求権・経済協力協定を締結。国家間の約束として、この問題は「完全かつ最終的に解決済み」だとされました。

しかし今回、韓国の最高裁判所は「個人の請求権は消滅していない」として日本企業に賠償を命じる判決を言い渡したのです。この司法判断を尊重するとした韓国政府。その理由はなんなのか。ムン大統領の外交特別補佐官を務める側近が、初めて日本のメディアの取材に応じました。

大統領特別補佐官 ムン・ジョンイン(文正仁)氏
「(判決は)そもそも日本による植民地支配が不法であり、それによる『徴用』も不法だったとみなし、連行された人たちの個人的請求権は完全には消滅していないとしている。韓国にとって日韓請求権協定で“解決した”というのは国家間で賠償を請求する権利のことで、個人の請求権も消滅したとは考えていないのだ。」

これに対し、日本政府は韓国側の姿勢を国際法違反だとして繰り返し批判。

安倍首相
「最大の問題は国家間の約束を守るかどうかという信頼の問題です。政府としては引き続き、国際法に基づき我が国の一貫した立場を主張し、韓国側に適切な対応を強く求めてまいります。」

元外務事務次官で、長年、日韓外交にも携わってきた佐々江賢一郎さんです。佐々江さんは、今回の判決はこれまでの両国の関係の基盤を根底から覆しかねないといいます。

元外務事務次官 前駐米大使 佐々江賢一郎氏
「日本(としては)この問題は決着済みの話なのに、個別のケースで補償要求が出た場合に、個別に日本の企業が次々と補償しなければならないとなると、とめどを知らないということになってくるし、戦後処理の大前提となっていたことを、ある面で根本から覆す。これは絶対日本として譲れない話だと。」

日本政府は、事態を打開する責任は韓国政府にあるとして、協定に基づく協議を繰り返し要請。5月には第三国を含めた仲裁委員会の開催を求めましたが、韓国側は応じませんでした。この間、韓国では賠償を命じられた日本企業の資産の差し押さえや現金化に向けた動きが進み、状況は悪化の一途をたどったのです。

対立は経済に波及 今後どうなる?

対立に拍車がかかったのは先月。日本政府は韓国への輸出管理を強化し、優遇対象国から除外すると発表しました。これに対し、ムン政権は「徴用」をめぐる問題への報復だと強く反発。日本への依存度を引き下げるための対策に乗り出しました。輸出管理の強化の対象になった品目を国産化するため、企業に年間2兆ウォンの集中投資を行う方針を示したのです。

ムン大統領
「我が国民と企業は、今回も必ず災い転じて福となし、経済と産業をさらに成長させてくれると信じています。」

この方針に、大きな期待を寄せている中小企業です。韓国の主力産業である半導体の製造に使う素材を生産してきたこの企業。今後、人員を増やし研究を加速させたいとしています。

ケムトロス イ・ドンフン(李東勲)社長
「日本製品に代替できるものを韓国企業が早期に開発できるとは思いませんが、おそらく今回のことをきっかけに(日本との)差はどんどん縮まっていくでしょう。」

一方で、日韓の対立の激化に不安の声も上がっています。

日本での就職を目指す専門のクラスがある大学です。去年は59人全員が日本企業から内定を得ました。しかし、この夏から韓国での日本企業による就職説明会は中止や延期が相次いでいます。
大学3年生のキム・ミョンジョンさんです。

ヨンジン専門大学(3年) キム・ミョンジョン(金明鐘)さん
「これから日本での就職に向けて、いま一生懸命やらなきゃいけないことがたくさんあるので。」

今、日韓関係を報じるニュースはあえて見ないようにしていると胸の内を明かしました。

キム・ミョンジョン(金明鐘)さん
「いま政治的なニュースを見て気持ちが揺らいではいけない。自分が揺らいでしまう…。僕たちはただ1日でも早く関係が再び友好的になってほしいのです。」

日韓の関係悪化に歯止めをかけるには、何が必要なのか。元外務事務次官の佐々江さんは、立場の違いを埋めるにはさまざまなレベルで対話を模索しなければならないと指摘します。

元外務事務次官 前駐米大使 佐々江賢一郎氏
「お互いの原則的な立場、あるいは国内的な立場からすれば、譲れないということだと思う。ですが譲れないままにクラッシュを繰り返せば、お互いに望まない結果になっていくことは明らか。これは鳴り物入りでやるような話ではないと思います。ひっそりと行うべき話であると。衆人環視のもとでやれば、頑張れとか強く当たれとか、そういう議論だけ出てきますけれど、なんとかしてお互いにどこかに出口がないかと探す姿勢、努力が重要だと思います。」

韓国政府に対日政策を助言してきた、イ・ウォンドク教授です。対立がこのまま長期化することは韓国にとって決して好ましくないと指摘します。

クンミン大学 イ・ウォンドク教授
「両国の外交当局者の交渉と対話を通して、大きな解決の枠組みが作られることが望ましいと思います。そのような機会を設けることができなければ、関係が悪化した状態が長期化し、構造化してしまうおそれがあるため、可能ならば今年中に関係を改善する流れができればと思います。」

関係改善の糸口は、見いだせるのでしょうか。

どうなる「徴用」めぐる問題

武田:若者の就職など、経済にもやはり影響が出ているようですけれども、現地ではどんなことを感じますか?

高野支局長:日本がここまでやるのかという驚きとともに、日本企業が部品を提供して、韓国企業が完成品にするという水平分業が、ここまで進んでいるんだという現状を再認識したように思います。表向きは、日本に否定的なことを言わざるを得ない雰囲気はあるものの、早期の関係修復を望んでいる韓国人は少なくないように感じます。

武田:韓国政府は「徴用」をめぐる問題で日本企業による賠償にこだわっていますが、これはやはり変わらないんでしょうか?

高野支局長:韓国の歴代政権ですけれども、日本側と同じく日韓請求権協定で解決済みだとの立場をとってきました。ノ・ムヒョン(廬武鉉)政権下の2005年ですが、「徴用」をめぐる問題は日本からの3億ドルの無償援助に含まれていると結論づけ、韓国政府の予算で実際に元徴用工の補償が行われたんです。
ところがムン政権は、協定で解決としたのはあくまで未払い賃金などについてであって、過酷な環境で強制労働させられた不法行為に対する損害賠償は含まれていないと主張。事実上、過去の政府見解に修正を加えている形なんです。ムン大統領は人権派弁護士出身です。それだけに個人請求権は生きているとする司法判断を重視し、日本企業による賠償にこだわっているわけです。おりしも、今年(2019年)は日本の植民地支配からの独立運動が起きてちょうど100年の節目でもあります。弱腰と映るような動きはとりづらいところです。

武田:一方、日本政府ですが、韓国政府が主体となって問題解決に取り組んでもらう以外にないという立場。これも、やはり変わらない?

岩田記者:そうですね。「徴用」の問題はやはり、韓国政府自身が対処するしかないという立場でして、ここは譲れない一線です。というのも日韓請求権協定は条約でして、国と国との約束なんですね。国内の確定判決を理由に条約の不履行を主張することは国際信義に反します。第2次世界大戦後の処理については、サンフランシスコ平和条約、日中共同声明などで、各国が賠償請求権を放棄しています。これは戦後処理を行ううえで、どこかで区切りをつけないと永続的な平和を得られないという考えからなんですね。また、1965年の日韓請求権協定の交渉過程を記録した外交文書から韓国側の代表が「徴用」に関する補償について韓国が国として請求し、支払いは国内措置とするとしていたことも明らかになっているんです。日本政府は、国家間の約束、国際法の順守といった観点から、引き続き韓国側に問題の解決を求めていく考えです。

関係改善の糸口は 注目のポイント

武田:そうしますと、関係改善の糸口を韓国政府はどう考えているんでしょうか。

高野支局長:日本との関係改善を見いだすには、「徴用」をめぐる問題の進展が避けて通れないというのはムン政権も認識しています。実際、今年6月に日本政府に示した、日韓両国の企業が自主的に財源を作って慰謝料の支払いに充てるという案は、絶対これじゃなきゃだめということではなくて、たたき台に過ぎないんだと強調しているのもそのためでして、そこに妥協の余地があるのかもしれません。

岩田記者:慰安婦問題をめぐって、過去に日本政府は基金を設置するなどしましたが、結局、問題の解決には至らなかったですよね。政府内では、賠償問題は韓国国内で対処すべきだという考え方が大勢です。日本企業による出資という対応は、株主代表訴訟も招きかねず、現実的ではないとみられます。

武田:そうすると、今後どう進んでいくのかということですが…。

高野支局長:韓国側が当面の重要なタイミングと位置づけていますのが10月22日、天皇陛下の即位の儀式です。ムン政権は、知日派のイ・ナギョン(李洛淵)首相を派遣する方向で検討しています。取材では、イ首相がこれまでに複数回、進退をかけてムン大統領に直接打開案を建議した経緯があるというんですね。イ首相は、GSOMIAの有効期限である11月22日までに日本側の対応によっては破棄を見直す可能性についても言及しているんです。「徴用」をめぐる裁判の原告側がすでに差し押さえている日本企業の資産を、年末にも現金化する恐れがあるうえ、来年4月には総選挙が近づいている。時間が限られる中でムン政権も対話を通じた解決策の模索を続けるとみられています。

武田:イ・ナギョン首相の動きは、日本政府も注目しているのでしょうか?

岩田記者:日本政府としても、日韓関係の悪化が安全保障や経済に影響を及ぼすべきではないと考えています。取材しますと、水面下では外交当局やNSC=国家安全保障会議など、さまざまなチャネルを通じたやり取りが続いているもようです。イ・ナギョン首相がムン大統領に対してどのような働きかけをするのか、日本政府も注目しています。ただ、イ首相が輸出管理措置撤回を条件にしていますので、ただちに対話が進むとはなかなか考えにくい状況です。
日韓の対立の根底にあるのはやはり「徴用」をめぐる問題。この問題解決の糸口をつかむため、感情論ではなく、冷静な視点で解決策を見いだす知恵がまさに求められています。