債券ファンド世界大手PIMCOが、マイナス金利政策に対してマイナスの見方を表明し、全米中で高まる反マイナス金利の議論に加わっている。
理論上は、名目政策金利をマイナス領域まで引き下げることは、政策金利をプラス金利の環境で引き下げる時と同様の拡張的効果をもたらす。
・・・しかし、現実にはマイナス金利には3つの主要な欠点がある。
PIMCOが自社サイトで「マイナス金利:マイナスの見方」と題する論文を公表し、マイナス金利政策にダメ出しをしている。
同社がいう3つの欠点に入る前に、公平のため、PIMCOの挙げる理論上の利点についておさらいしておこう。
- 個人・企業を貯蓄より消費・投資に向かわせる。
- 通貨安の要因になる。
- 資産価格を下支え、資産効果につながる。
実際PIMCOは、これら利点がある程度は成果を上げていると認めている。
しかし、それだけではいけない。
ほとんどの政策にはコストがあり、言い換えれば「欠点」がある。
利点と欠点の両面を秤にかけることが重要なのは言うまでもない。
PIMCOは3点、欠点を挙げている。
- 銀行システムを損なう:
「政策金利がマイナスになると、概して預金金利がゼロ以上である中で、銀行の資産からの収益は減り始める。」
銀行の収益が減ると、銀行は貸出に慎重にならざるをえない。 - 年金・保険への悪影響:
長期で約束した利回りを実現するのが難しくなる。 - 「貨幣錯覚」:
マイナス金利になると貨幣錯覚が増幅し、人々は貯蓄を減らし支出するのではなく、逆に貯蓄を増やしてしまう。
こうした利点と欠点を比較し、PIMCOは結論を下している。
比較対象した結果の結論は、マイナス金利政策にはさらに深堀りする余地が多くないというものだ。
また、長引かせれば、市場やマクロ経済の見通しを害することになる。
ほぼ完全なダメ出しである。
PIMCOが債券ファンドであることを考えれば、これは自然なことだ。
債券投資家は、マイナス金利であろうと、金利が低下するうちは潤沢なキャリーを稼ぐことができる。
しかし、底に達するとキャピタル・ゲイン部分はなくなる。
マイナス金利で長くとどまるなら、もはやロングで稼ぐことはできなくなる。
さらに、金利が上昇トレンドになろうものなら、慢性的なキャピタル・ロスに苦しむことになる。
米国におけるマイナス金利の不人気はすさまじい。
日欧での社会実験の結果を見てということもあろうが、その他にもイデオロギー的な側面もあるのかもしれない。
社会のためとはいえ資本家の利益を奪うことが、資本主義経済の機能不全を引き起こしかねないという思いもあるようだ。
ほぼ全員が反対の様相だ。
条件付きで賛成するのがケネス・ロゴフ教授だ。
ロゴフ教授は、これまでも米国が実質ベースでマイナスの金利だったことはあったと指摘。
理論上、マイナス金利はさほど特殊なものでないと説明する。
ただし、ロゴフ教授の考えはPIMCOの考えと相反するものではない。
PIMCOは現状を見つめ、ロゴフ教授は乗り越えるべき条件を提示している。
現状はまだその条件が満たされていないのだ。
ロゴフ教授のいう条件とは、通貨のデジタル化であり、現預金へのマイナス金利の適用だ。
預金金利が政策金利に連動するようにマイナスになるなら、銀行の利ザヤは悪化しない。
預金金利がマイナスならば、年金・保険の予定利回りが絶対的水準として低くても、相対的には選好されよう。
預金金利がマイナスならば、預金者は預金の目減りに驚き、貨幣錯覚から目覚めるかもしれない。
その時に起こることは何か。
それは、国民が気付くことであろう。
長い間、経済を刺激するという建前で、自分たちに預金税が課されてきたこと。
仮に刺激策が功を奏した場合には、預金税はインフレ税に変わるであろうこと。
この気づきは金融緩和にとって逆風にしかならないだろうが、今のところその風は吹きそうにない。
銀行・年金・保険などが、お人よしにも、緩衝材の役割を引き受け続けているからだ。
話をPIMCOに戻そう。
PIMCOはマイナス金利政策を批判しながらも、世界的な低金利は継続すると想定している。
その上で、投資上のインプリケーションを述べている。
投資家が『利回り追求』を強いられる中、長く続く低金利・ゼロ金利は、中央銀行の膨張したバランスシートとともに、しばらくの間リスク資産を支え続けるだろう。
そうした動きが中長期的に有害かもしれないのにだ。
しかし、すでに上昇したリスク資産のバリュエーションは、選択的であることが重要であることを示唆し、全体として慎重なスタンスをとるよう命じている。
・・・
通貨では円にポジティブな見方をしている。
1つの理由は、銀行がリテール預金による調達に高く依存しているため、マイナス領域でさらに政策金利を引き下げることが特に難しいためだ。