いだてん

IDATEN倶楽部

2019年128

「2人のシーンはどれも濃かったなぁ」

次回、いよいよ最終回!「いだてん」を駆け抜け、泳ぎ切った主役のお二人に、役への思い、そして脚本の魅力をうかがいました。

元祖オリンピック・金栗四三

中村勘九郎(以降:中村)
僕はもともと運動することが苦手でした。それが「いだてん」で金栗四三さんを演じ、走る楽しさを知ることに。同時に一瞬にかけるスポーツ選手のプレッシャーも疑似体験して、オリンピック直前のシーンなどは白髪が増えたりもしたんですよ(苦笑)。お芝居でもそれだけストレスがかかるのですから、実際のスポーツ選手のプレッシャーは想像を絶しますよね。
阿部サダヲ(以降:阿部)
ほんと「何が何でも金メダル」とか「全種目制覇」とか言っちゃいけないですよね(笑)。まして「一種目も失うな」なんて、これは良くない!
中村
(笑)。金栗さんもとんでもないプレッシャーに押しつぶされそうになり、思うような結果を残せなかった。でも、気持ちを切り替えて前進していけるとても強い人だったので、純粋に「勝ちたい」という思いだけで突き進んでいったんでしょうね。
阿部
選手時代は厳しい状況に置かれることもありましたが、引退してからは金栗さんって、良いおじいさんになっていてかわいいですよね。
中村
(笑)。思えば田畑さんと2人のシーンは、パリオリンピック報告会の背負い投げから始まり、どれも濃かったなぁ。1940年の東京オリンピック返上のときに新聞社で語り合ったシーンは、立場は違えどオリンピックを愛する純粋な気持ちは同じで、通じ合うものがありました。
阿部
落語の『替り目』を下敷きに「元祖オリンピックは三千世界広しといえども、金栗四三ただ一人だ」と言って金栗さんを認めるシーンも印象的でした。あれを見ていた生田斗真くんは「三島も行ってたよっ!」とツッコミを入れたみたいですけどね(笑)。

宮藤官九郎さんが描いたスポーツと歴史

阿部
実は僕、「日曜よる8時に笑いが起こります」と言っていたんですよ。放送が始まって、いろんな人の感想を聞くと「泣けた」という声が多くて。いい意味で宮藤官九郎さんに裏切られました。
中村
僕は宮藤さんの脚本って優しいなと思います。すごく悲劇的だったり感動的な場面の最後に、ふっと心を和らげるように笑いを入れてくれるでしょう。悲しいことがあって落ち込んでも、ずっとその気持ちだけを抱えているわけじゃないというのは、生きていて当たり前のこと。それをいろんな方向に感情が揺さぶられるようなセリフやシチュエーションに盛り込んでいるので、いつも癒やされていました。
阿部
それに毎回毎回、すごく詰まっているんですよね。それなのに書き終わったあとにまだ書き足りないって言ってるんですから、ネタが尽きないんだなと(笑)。もうひとつ意外だったのが「いだてん」ってスポーツのお話じゃないですか。宮藤さんってそんなにスポーツに関心があると思っていなかったので、「いだてん」を見ていてアスリートを応援するような気持ちになって泣けたことにも驚いたんです。主役をバトンタッチしたと思った翌週に “人見絹枝物語”が放送され、「あれ?もう僕主役じゃない?」と思うような裏切りもありましたけど(笑)。
中村
大河ドラマで近現代を扱うという点もチャレンジングでしたが、歴史を知ることが楽しく、とても勉強になりました。近現代って歴史の授業でも駆け足になりがちなので、知っているつもりで知らないことのほうが多いんですよね。でも「いだてん」に出会って、オリンピックを通して見た日本の歴史を知れば知るほど、現代を生きる僕たちが学んでおくべき大切な歴史なんだと思うようになりましたね。
阿部
どうやって日本にオリンピックが来たかということは、僕も含め、皆さんあまりご存じなかったのではないかと思います。「難しいから」と毛嫌いするのではなく、少し知識を入れることで興味が湧くことってありますよね。僕にとって「いだてん」はそんな入り口になった作品でした。

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