お答えします!「ノイズキャンセリングについて」
ワイヤレスノイズキャンセリングオーバーイヤーヘッドホンAH-GC30が話題を集めていますが、ノイズキャンセリングヘッドホンは実際の所どういう仕組みになっていて、どうやってノイズ を消しているのでしょうか。そんな疑問にAH-GC30の開発者、成沢真弥がズバリとお答えします。
AH-GC30
今回のナビゲーター
GPDエンジニアリング 成沢真弥(AH-GC30開発担当)
「ノイズキャンセリング」とは、パッシブ+アクティブの組み合わせ。
●ずばりうかがいますが、どうしてノイズキャンセリング機能は、ノイズを消すことができるのでしょうか。
成沢:まず、順番にお話ししましょう(笑)。そもそもノイズキャンセリング機能とは、パッシブノイズキャンセリングとアクティブノイズキャンセリングという2つを組み合わせることでノイズの音量を下げる技術です。
この上の図を見てください。黄色がパッシブノイズキャンセリング、水色がアクティブノイズキャンセリングです。それぞれに守備範囲があって、パッシブノイズキャンセリングは高音〜中音のノイズの音量を下げます。アクティブノイズキャンセリングは低音〜中音のノイズの音量を下げます。これを組み合わせることで、ノイズキャンセリング機能を実現しています。
イヤーパッドの工夫などで遮音するのがパッシブノイズキャンセリング。
●ではまず、パッシブノイズキャンセリングとはなんでしょうか。
成沢:外からのノイズを抑える、いわゆる「遮音性」がパッシブノイズキャンセリングにあたります。たとえばオーバーイヤーヘッドホンでは、イヤーパッドの形状や素材、音質調整のために設ける外部との通気孔の位置。インイヤーヘッドホンではイヤーチップの素材や形状、密着性など。これらによってどのくらいノイズが遮断できるかがポイントです。
↑AH-GC30のイヤーパッド。形状、素材、柔らかさなどが吟味され、遮音性が高められている。
●パッシブノイズキャンセリングでは電気的な回路は使わないんですね。
成沢:はい。回路などを使わないので目立たない部分ではありますが、実はここが結構ノイズキャンセリングの効果としては重要だったりします。また、これはAH-GC30において先代モデルより強化した点でもあります。ただし先ほども説明しましたが、こうしたパッシブノイズキャンセリングで除去できるノイズは中域から高域で、低域はカットできません。そこでアクティブノイズキャンセリングの出番となります。
逆相の音を加えて音を消すのがアクティブノイズキャンセリング。
●アクティブノイズキャンセリングとはどういうものなのでしょうか。
成沢:アクティブノイズキャンセリングとは電気回路を使って“積極的に”ノイズを消す方法です、具体的にはノイズに対して逆相の音を生成し、それをぶつけることで音を消してしまう技術です。
●その「逆相の音をぶつけることで音を消す」とはどういうことですか。
成沢:ご存じのように音は「波」ですが、この波の山と谷を逆にひっくりかえしたものを「逆相」といいます。山と谷がぶつかることで打ち消し合って音が聞こえなくなります。
↑ある音の波形 ↑その音に対する逆相の波形 ↑加えると打ち消しあい音が消える
逆相を加えるアクティブノイズキャンセリングでは、中域から低域のノイズを消すことができます。高域になると山と谷の間隔が短いので回路処理が間に合わなくなってしまい、有効ではありません。
●逆相を加えて音が消えるのであれば、音楽も消えてしまうのではないでしょうか。
成沢:いいところに気づきましたね。ではそのあたりを詳しくご説明しましょう。
外部のマイクでノイズを拾う「フィードフォワード方式」。
●では、どうやったら音楽を消せずにノイズだけ消せるのでしょうか。まるで魔法のようです。
成沢:いちばんシンプルな方法はフィードフォワード方式です。この方式はヘッドホンの外側にマイクがあって、外部のノイズを拾います。そして外部のノイズの逆相の音を生成し、再生音にミックスします。そうすると外部のノイズだけが消えるというわけです。単純に言えば外部のノイズを打ち消す音を再生音にミックスする、というわけです。
↑AH-GC30の外部マイク。ノイズキャンセリング用に取り付けられている。
耳元で鳴っている音を拾ってすべての音を消し、あらためて音楽を加える「フィードバック方式」。
●もう一つの「フィードバック方式」とは、仕組みなのでしょうか。
成沢:フィードバック方式はヘッドホンの内側にマイクがあります。この耳に非常に近い部分で、再生されている音楽と外部から侵入するノイズの両方をマイクで拾って、その逆相の音をスピーカーから出します。
↑ハウジングの内側、スピーカーユニットの前に取り付けられている黒い円形状のものがAH-GC30の内部マイク。
●そうすると、音楽もノイズも両方とも打ち消してしまうことになりませんか。
成沢:そうなんです。いったんノイズも音楽も両方とも消してしまいます。そして、そこに改めて音楽を追加して再生するわけです。
●いったん音楽もノイズも消して真っ白にしてしまって、そこに再び音楽をのせる、というイメージでしょうか。
成沢:はい。そんなイメージです。これにより結果としてノイズのみが消されることになります。これがフィードバック方式のノイズキャンセリングの原理です。
●フィードフォワード方式とフィードバック方式では、どちらの方が効果があるのでしょうか。
成沢:一般には、マイクが 耳に近いフィードバック方式のほうが精度が高くノイズが検出できるので、ノイズキャンセリングの効果が高いと言われています。フィードフォワード方式はシンプルなので比較的安価なノイズキャンセリング用ヘッドホンで使われることが多いようです。AH-GC30はフィードフォワードとフィードバックの両方を使ったハイブリッド方式にすることでノイズキャンセリングの効果を高めています。両方使った時のノイズキャンセリングの効果は、フィードバック方式が7-8割、フィードフォワード方式が2-3割ぐらいかな、という印象です。
↑AH-GC30のノイズキャンセル機能はフィードフォワード方式とフィードバック方式の両方を使用している。
●ちなみにAH-GC30開発者インタビューの時に、AH-GC30ではデジタルのノイズキャンセリング機能になった、とおっしゃっていましたが、ノイズキャンセリング機能にはアナログとデジタルがあるのでしょうか。
成沢:厳密に言えばアクティブノイズキャンセリングの逆相の音を作る部分に関して、アナログ回路で作るものと、デジタル回路で作るモノがある、ということです。AH-GC30の先代のモデルであるAH-GC20はアナログ回路でしたが、AH-GC30はデジタル回路を採用しました。
成沢:「逆相の音を作る」といっても、実際には簡単ではありません。説明の時はシンプルな波形を書きますが、実際の製品から再生される時の位相は周波数によって複雑にずれますので、それに対するきれいな逆相を作るのは結構難しいんです。その点デジタルのメリットとしては複雑な逆相の音も正確に作ることができます。
また、今回のAH-GC30のノイズキャンセリングは「飛行機」「シティ」「オフィス」と3つのモードを持っており、これらを簡単に切り換えることができるのが便利な点ですが、もしアナログだったら、実際に3つの回路を別々に用意して切り換える必要があって実装は現実的ではありません。3つのモード設定をメモリーして瞬時に切り換えることができるのもデジタルのメリットです。精度と利便性を含めて、AH-GC30ではデジタルのノイズキャンセリング機能を採用しました。
ノイズキャンセリングのことが、よくわかりました。ありがとうございました。
(編集部I)