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東方幻想入り 作者:コノハ

世界の脅威

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レイムの真実と私

 おぶわれながら、私はゆうぎの話を聞く。今、ゆうぎは街道の真ん中を物凄い早さで走っている。

「勇儀たち鬼はな、基本的に、強い。だから、戦うことが好きだ」

 黙って話を聞く。話の真意は何か、この話をしてゆうぎは私に何を伝えたいのか、それを考えながら。

「でも、いくらなんでも、鬼の中でも人間を笑って殺せるヤツは少ない」

 ゆうぎは、鬼だったのか。今更ながら、そう思う。

「勇儀だって、今みたいな状況でもない限り人は殺さない」

 目の前に、大きなバリケードが見えた。近くの家を潰して、街道を塞ぐようにして木材などが積み上げられている。

「勇儀は、さとりや鬼のみんなから話を聞いた。解放団の話や、いなくなった人たちの話を」

 だん、とゆうぎはジャンプしてそのバリケードを超えた。バリケードの後ろには、甲冑を着込んだ人間と、弓を持った女がいた。強そうではあったけれど、彼らのそばに着地するのと同時に攻撃に移ったゆうぎには、声を上げることすらできなかった。打ち倒された彼らは、首が回っていたり、胴体に穴が空いていたりと、とても生きているようには見えなかった。

 私は目を閉じて、もう何も見るまいと決めた。

「お前の話も、よく耳にした。だから、さっき驚いたんだ。恨んでないのか、とな」

 目を閉じて、ゆうぎの声を聞く。時々、打撃音が聞こえる。でも、私にはほとんど衝撃がこない。それだけ、ゆうぎの技量が高いことを示していた。

「勇儀は少なくとも、解放団に慈悲をくれてやるつもりは、欠片もない。奴らは、それだけのことをした」

 そうだけど、それはそうなのかもしれないけど。

「霊夢は、滅多矢鱈に殺すなとは言う。無理矢理仲間にさせられたヤツもいるから、と。だが、勇儀はそれよりも怒りが先に来る。地霊殿の仲間になりつつあった外来人を、幼い子供を、そして幻想郷の住人を傷つけた敵を、許すことはできない」

 スタ、とゆうぎはゆっくりと止まった。

「着いたぞ、澪」

 私はぽん、と背中に合図をされた。私は少しずつ目を開けた。

 ゆっくりと、ゆうぎが私を降ろした。久しぶりに自由に動けるような気がして、なんだか不思議な感じ。

周りを見渡す。遥か後ろにはさっきまでの街道があった。周りはだだっ広い荒野。レイムがその奥の方にいる。

 不毛な大地が延々と続くのは他と変わらないが、レイムのいる場所の周りは、まるでこの世の終わりだとでも言わんばかりに、漆黒だった。レイムのいるさらに奥は、何も見えない。それが、とても恐ろしい。

 そして、レイムの周囲だけ闇が薄くなっていた。

「送り届けたぞ、霊夢」

「ごくろーさん、勇儀」

 レイムは私の方へとやってきた。私の額に人差し指を当てると、光が私を包んだ。

「これで、無間地獄……解放団の本拠地へ行けるわ」

 踵を返し、レイムは漆黒の奥を見据えた。その闇に、私は気圧された。私の覚悟は、先の見えない漆黒を前に崩れてしまった。そして、もう一度覚悟をすることができずにいた。

「レイム、私は何をすればいいの?

 ……何をさせられるの?」

 レイムは私の方を見た。

「あなたの力が必要なの。あなたの、一度受けた能力を無力化する力が」

 レイムが手を差し伸べて来る。その手を、私はとることができない。引き込まれて、それっきりかもしれない。死んだわけでもないのに、無間地獄に囚われてしまうかもしれない。そもそも、このレイムが本物だという確証も、ない。ありもしない想像を私は振り払えなかった。

「……私は」

 どうして私は怯えるのだろう。誰か、私の背中を後押しして。そうだ、アリス。アリスはいつも、私に力をくれた。アリスの言葉があれば私は、どこまでもいける。

 でも、アリスはここにいない。

 ここにいない人を求めて、私は悩んでいた。アリスが、いてくれたら。

 私が悩んでいると、レイムは手を下ろした。

「……そう。まあ、当たり前……よね。ごめんなさい。私が、間違ってたわ。それじゃ、行ってくる。澪、来なくていいから、せめて、ここで私の帰りを待ってて」

 引っかかった。

 なぜ、レイムがこんな事を言うんだろう。まるで、まるで……。

『みんな、不安なの』

 さとりの言葉が、脳裏によぎった。

「もしかしてレイム……不安、なの?」

 もしかして、あれほど強く自分を見せてたのも、自信があるように言っていたのも、全部、不安を隠すため?

「……まさか」

 震える声で、レイムは漆黒の奥へと進もうとした。その腕を掴んだ。レイムは驚いて私を見た。

「……私は、怖い。レイムがニセモノなんじゃないかって。このまま、帰れなかったらどうしようって。でも、レイム。私、決めるよ」

 私が御陵臣を殺すだなんて強がりを言ったように、レイムも強がっているんだ。

 だから。

「レイム、答えて。御陵臣と戦うのは、怖い?」

「……怖くなんか、ないわ。あなた、私を誰だと思ってるの? 博麗の巫女、博麗霊夢よ?」

 このレイムは、本物だ。言葉に隠された弱さが、彼女の声色に滲む不安が、私を確信に導いた。

「行こ、レイム。私、頑張るよ」

 全力で、死力を尽くして、御陵臣を……倒す。

「……ありがと、澪」

 私はレイムに導かれ、漆黒の奥へと進んで行った。

「無理はするなよ」

 ゆうぎのそんな言葉を最後に、私の視界は闇一色に染まった。

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