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東方幻想入り 作者:コノハ

世界の脅威

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幻想郷の会議と私

 再び目を開けると、私は神社で寝かされていた。布団にくるまって寝ていれるのが妙に安心した。私のことを、レイムが覗き込んでいた。

「起きたわよ」

 レイムは周りにそう言った。誰かいるのだろうか。そう思って体を起こすと、私は驚いて、一瞬体の動きを止めた。

 レイム、マリサ、アリスがいて、カグヤとエイリン、エイキ、レミリアとサクヤと、他にも数人、たくさんの人が私を取り囲んでいた。何をされるのだろうか。

「……怯えなくてもいいわ。ここにいるのは、あなたの味方よ」

 レイムにそう言われても、安心できなかった。なんでレミリアがここに?

「霊夢、あまり澪を疲れさせてはいけないわ、早く始めましょ」

 カグヤがレイムにそう言った。カグヤの仕草、口調はお姫様モードで、とても優雅だった。

「そうね。じゃ、解放団対策会議を始めるわ。まず、被害状況。アリス……は、澪が一人ね。で、マリサはどうだった?」

 レイムの質問に、マリサは手をあげて答えた。

「あたしんところは外来人がいないんでゼロだぜ。ま、行く先々で被害に遭ったやつはいたけどな」

 そう、とレイムは言った。やはり、さっきマリサがレイムに聞きに来たのは、解放団に痛めつけられた人を見たから、だろうか。

「じゃ、次カグヤ」

 マリサの隣を指してレイムが言った。カグヤは後ろに侍るように座っているエイリンに目配せをすると、エイリンが手をあげた。

「永遠亭も被害はごく少数。けれど、解放団の人に助けを求められたことはあります」

「具体的には?」

「逃げたいから、助けてくれと言ってきました。ある程度の監視の元、匿っています」

 エイリンの報告に、レイムはしばらく何かを考えた。

「内情を探ろうとする動きはある?」

「ありません」

「そう。じゃ次閻魔」

「映姫という名前があるのですが……」

 そう文句を言いながら、エイキは手を上げて、他の人と同じように報告を始めた。

「裁判所、被害少数。詳しい人数はあがっていませんが、友達がいなくなったと相談を受けた死神が数人いました」

「解放団に攫われたってこと?」

 エイキは首を振った。

「断言はできません。しかし、生還した外来人が解放団所属になっていたことを考えれば……」

 エイキは錫の先端を顎に当てて悩み始めた。

「ねえ、その帰ってきた外来人は、どうしたの?」

「どうした、とは?」

 私の問いに、エイキは不思議そうに聞き返してきた。

「だから、敵じゃないかと確かめなかったの?」

「……澪。彼らが解放団にほだされたとして、帰ってきて、解放団になったと伝えますか?」

「でも、本当になりたくないなら、何されても我慢するのが」

「あなただけよ」

 レイムに口を挟まれた。私はエイキから視線をレイムに移した。

「何されても我慢する覚悟なんて、そうそうできるものじゃないわ。それから、発言するなら手を上げて」

「……はい」

 私はしゅんとなってそう言った。

「まあ、こんどその外来人に話を聞きにいきましょうか。じゃ、次レミリア」

 はい、と返事をしたのはレミリアに仕える人間、サクヤだった。この中で今唯一立っているのだが、それはやはり威圧感を演出したいからだろうか。

「紅魔館、被害ありません」

「……。そう、じゃ次、さとり」

 指を指されて手を上げたのは、紫の髪に私みたいな、感情を抜いたような表情をする女の人だった。赤い太めの紐に繋がった目玉をアクセサリーみたいにしてつけている。奇妙だけど、あれはまさか本物なの、だろうか。

 知らない人だったけど、挨拶はあとにしようと思った。今は、この会議になぜ私が参加させられているかも含めて、色んな事をよく考えなければならないから。

「地霊殿、被害多数。外来人と暮らしていた多くの鬼が外来人の失踪を訴えている」

 ……鬼。私は昨日を思い出した。吸血鬼になった次の日に初めて食べたお肉は、鬼だった。生で食べたのに美味しいと感じた自分を、今更ながらに恐れる。

「やっぱり、人が多い場所だと被害も多いわね。次、紫」

 はーい、とまるで子供のように返事をしたのは十代に見えるキレイな女性だった。ここにいる人はみんな綺麗だけど、二番めくらいに綺麗。一番は、もちろんカグヤ。

「うちはね、被害ゼロよ。でも解放団が直接ちょっかいかけてくるわ」

「ありがと。次、慧音」

 手を上げたのは、青白い髪をした、不思議な帽子をかぶった女の人だった。二十代後半くらいだろうか。この中では年長者の部類にはいるのでないだろうか。

「人里の被害は甚大だ。寺子屋の子供達も一クラス分程度いなくなっているし、人里に行くたび、誰が消えた、誰々がいなくなったという話を聞く。誰が解放団のメンバーかわからない故、対策も取りづらくてな。数にすれば百をゆうに超える」

 ケイネという人の報告に、この場にいる私以外の人は痛ましげにうなった。

「想像はしてたけど、やっぱり人里が一番か……。ありがと、慧音。天子、次お願い」

 手を上げたのは、普通の女子高生に見える女の人だった。青い髪という特異点を除けば極普通で、学校に通っていても違和感はないだろう。その丹精な顔は、怒りに満ちていた。

「天界、被害一。霊夢、いつ解放団を潰すの? 私も手伝うわ」

 その表情と雰囲気から何かを読み取ったのか、レイムは静かに頷いた。

「わかってるわ。でも、もう少しだけ待って。最後、早苗よろしく」

「はい!」

 元気良く挨拶したのは、緑の髪の女の人だった。レイムのような、脇と肩を露出した特殊な巫女服に身を包んだ、変な巫女さんだった。

「被害数、把握しきれません」

「それほど多いの?」

 サナエは首を振った。

「参拝者が随分減ったのですが、その人たちが解放団に入ったからなのかただ信仰がなくなったか判別がつかなくて……」

「……そう。ありがとう、早苗」

 ここにいる全員が報告し終わると、レイムは静かに口を開いた。

「解放団は、正直私にとっては、ただ馬鹿が騒いでるようにしか映らない」

 衝撃を受けた私を、レイムがじっと見つめた。

「……けど、特殊な力を持ったせいで帰れなくなった、幻想郷に住まわざるを得ない人達にとっては、解放団は救いに映るかもしれない。あるいは、恐怖の対象か。謀反するのは勝手だけど、関係のない、力のない人間にまで手を出すのはいけないことよ」

 だから、とレイムは私に向かって言った。

「あなたに協力してほしいの」

「どんな力を貸せばいいの?」

 私は即答した。アリスの友達の力にならないという選択肢なんて、私は持ってない。それに、解放団には、入りたくない。あんなところ、殺されても行きたくない。

「情報が欲しいの。顔とか、覚えてない?」

 ……顔? 顔って、誰の? もしかして、御陵臣? 話していいの? 話したら今度こそ、壊れるまで痛めつけられるのではないだろうか。さっきは最後には仲間になるといえば苦痛は終わった。でももし私が話したことがばれて、捕まって、しまったら……。

「……霊夢、質問やめて」

「え、なんで?」

 紫色の髪したさとりという人が、レイムに言った。

「この子、御陵臣に怯えてる」

「普段通りじゃない」

「それでも、心の中は不安と恐怖でいっぱい。こんな子に余計な負担を与えるべきではない」

 さとりがそう言うと、レイムは唸って、それから頷いた。

「わかったわ。ごめんね、澪。辛い思いさせて」

 大丈夫、と私は首を振った。私は視線をさとりに向けた。なぜ、この人は話してもいない私の感情を読んだのだろう。

「……」

 さとりは唇に指を当てた。言わなくてもいい、口をつぐんでいてもいいというサインなのだろうか。

 私が疑問に思っていると、さとりは頷いた。

 ……不思議な人だ。

「で、対策会議というのはわかるが何を話すのだ?」

 手を上げて、ケイネが言った。不思議そうに私を見ていたレイムは、彼女の方に顔を向ける。

「正直な話をすると、解放団の厄介なところは、その性質上力づくで全滅させりゃいいってものじゃないってところよ」

 マリサが手を上げた。

「なんでだ?」

「解放団のアジトが仮にあったとして。そこにいる人間の誰が脅されて嫌々入った人間で、自分から進んで解放団に参加したかわかる?」

 マリサは首を振った。

 皆が手をこまねいているのは、だからなのか。誰が悪人で、誰がそうでないかを判断できないから、強行手段に出ることができない。

「ほうっておく、というのもありじゃない?」

 そう言ったのは、レミリアだった。不敵な笑みを浮かべて、ニヤニヤと楽しそうだった。

「……あのね、レミリア」

「奴らの理念上、最後の最後には武力による直接手段に訴えてくるわ。その時向かってくる奴を皆殺しにすれば、最後に残るのはビクビク怯えて動けない、無理矢理解放団に入れられた人達、ってこと」

 レミリアは本気でそんなことを言っている……のだろうな。人間のことを食糧か何かにしか思っていない。私もいつか、あんな風になるのだろうか。ああにだけは、なりたくない。

「トップが前線に出てきて、最終手段に訴えてくるまでの人的被害を無視できるんなら、それもありかもね。そんなの無理よ」

 じゃあ、とケイネが手を上げた。

「いっそのこと帰すというのはどうだ? 元凶を外の世界に出せば、この世界でもう解放団は存在しなくなる」

「それはダメよ」

「特殊能力を持ってるからか? そんなもの、特例にすれば……」

 レイムは首を振って強く否定した。

「十歳の女の子に酷いことできる特殊能力持ちがいる集団を外に出せるわけないでしょ。無力な外来人なら別に帰してもいいけど、それじゃ向こう納得しないでしょ」

 うむむ、とケイネは唸った。

「あまり褒められた手段ではありませんがトップかその側近を殺害、ないしは捕縛すれば自壊するのでは?」

 エイリンの提案にもレイムは首を振った。

「私もそれがいいと思ったんだけどね。でもトップ殺して、部下が暴発する形で戦争が起こったら、無辜の解放団の人までも命の危険を感じて武器をとる可能性があるわ。そうなったらそれこそ、解放団VS幻想郷の構図が最悪の形で完成するわ。だから、最終的に戦争になるとしても、最初の引き金は向こうに引かせないと」

 話がだんだん、私の理解の範疇を超えていく。いくら人より勉強したとはいえ、政治の話などかけらもわからない。

「だが、引き金を引かせるまで待てば人的被害は今よりなお増加します。事態は可及的速やかに解決しなければならないのですよ?」

 エイリンが鋭い口調で言った。

「じゃあどうしろってのよ」

「……そうですね、いっそのこと結界を閉じて、修復後、少しづつ帰していく、というのはどうでしょう?」

「それじゃトップが納得しないでしょ」

 次にエイリンが言った言葉は、私の常識を大きく外れていた。

「全員もれなく帰すと約束するのです」

「そんなのできるわけが」

「無辜の解放団を優先的に帰し、帰しても問題のない特殊能力持ちを帰す。最後に残るのは、強力な力を持った、首謀者達のみ。あとは、殲滅するだけです」

「却下です!」

 立ち上がって叫んだのは、エイキだった。エイリンは涼しい顔で、彼女を見る。

「なぜ?」

「私の前でよく堂々と騙し討ちを宣言できましたね! そんな非道な真似はできません!」

「しかし、全ての問題が収束します」

 本当だろうか。そんなことをして、誰も文句を言わないのだろうか。

「ダメよ、エイリン」

「なぜですか、紫」

 今まで一言もしゃべらなかったユカリが、初めて話し合いに参加した。

「それ、結界を閉じれる前提で話進めてるでしょ」

「閉じられないのですか? あらゆる境界をいじることの妖怪であるあなたと、博麗の巫女が揃っているのに?」

 ユカリはこくんと頷いた。この人、妖怪だったのか。

「それがねぇ。今の幻想郷、少年漫画みたいに能力同士がぶつかり合う、とっても混沌とした世界になってるのよ」

「なぜ」

「なぜかは、調査中よ。でも、こんなおチビさんがワケのわからない力を持つくらい、能力の幅は増えてきているの」

 ユカリの言い方は、私の能力がまるでいい物のような感じだった。

「……澪が?」

 そう思ったのは、私だけではなかったようだ。エイリンが頓狂な声を上げて、私を見た。

「そ。ま、この子の力はこの四日で成長して、完全な物になったからねぇ。『力を増幅し、その後耐性を得る程度の能力』、なんて素敵なんでしょう」

 ? 私は、あらゆる攻撃に弱いのではなかったのか?

「……まさか」

「さすがエイリン気付くの早いわね。そう、本来ならこの子は攻撃に限らず、受けた特殊能力を増幅してしまい、ちょっと妹紅に燃やされただけで灰になるような子供。でも、この子の力には先があったのね。

 一定まで力を増幅したあとは、その力に対する完全な耐性を得るのよ。だから、一度妹紅に燃やされて灰になったあと、蘇ってからもう一度燃やされても、熱いとも感じないはずよ」

 ……そんな。そんな力が、私に。

「ま、話戻すと、こんな感じの能力を持った人間が何人もいてね。相乗効果で結界が閉じれないのよ」

 ユカリの言葉に、ここにいる全員が、何かを一様に考え始めた。

「……解放団の件については、正直もっと情報がほしいわ」

 レイムが、私の方を見て言った。さっきも言ったことだった。

 もう、私は理解した。

「私が行く」

 こう私から言ってほしかったのだ。きっとそう。

 でもいい。私は、アリスの友達の力になれるなら。

「……そう、ありがとう」

「反対」

 アリスとカグヤが、強い口調で言った。

「なぜかしら」

 ユカリが、じとりとした視線を二人に向けた。

「こんな子に偵察任務なんて荷が重すぎるわ。もしばれたらそれこそおかしくなるまで痛めつけられるわ。助けた時だってあんなに怯えてたのに」

「そうよ。それに、私の友達が危険な目に遭うなんて許せないわ」

 ユカリはやれやれとでもいうように首を振った。

「吸血鬼で、しかも不老不死。これほどの人材、放っておけるわけないでしょう?」

「いいえ。いくらなんでも分別はつけるべきよ」

「やらなきゃ何の罪もない人が死ぬのよ?」

 ユカリがさらに言った。

「澪だって、なんの罪もない子供よ」

「並行線ね」

 すっと、ユカリは立ち上がってみんなから背を向け、縁側からどこかへ行こうとした。

「どこ行くの紫」

「勝手にやらせてもらうわ」

「解放団への独断先行はしない。それが約束できるなら」

 ユカリは頷いた。ユカリの進行方向の空間が裂け、別の空間に彼女は行った。スキマができたような、そんな感じの穴だった。スキマにユカリが入りきると、それが閉じて、ユカリはすっかり消えてしまった。

「ったく、あのスキマ妖怪。勝手なんだから」

「スキマ妖怪?」

 レイムの呟きを、私は聞き逃さなかった。

「ええ、そうよ。空間の境界を弄ってできるスキマを、あいつは自由に操れるの。あいつとあいつの下僕が神出鬼没なのはあれがあるからよ」

 神出鬼没、自由奔放。私のイメージする妖怪そのものだった。

「では、私も好きにさせてもらうわね。行くわよ咲夜」

 レミリアは立ち上がって後ろのサクヤに呼びかけた。深く礼をしたサクヤは、どこからか大きな傘を取り出してさした。

「じゃあね、皆」

 サクヤから傘を受け取ると、ゆっくりとした足取りで神社から出て行った。

「……はぁ。皆も、解散。お疲れ様」

 レイムの一言で、この場にいるものから緊張が消えた。

 あれだけ話したのに、何も決まらなかった。

 会議は踊る、されど進まず。この言葉、誰が言ったんだろう。すごく、的確だ。


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