伊藤菜々子

「出産はけがと同じ」――女性アスリート「産後」の競技復帰どう支える

12/9(月) 8:00 配信

女性アスリートにとって「出産後の競技復帰」は大きな課題だ。リオ五輪では、日本代表164人の女子選手のうち5人が母親だった。一定期間競技を離れることへの不安はある。「結婚したら引退」「子どもができたら引退」という空気も根強い。出産後も現役続行を選んだ2人の選手と、彼女たちを支える人たちを取材した。(ノンフィクションライター・西所正道/Yahoo!ニュース 特集編集部)

「出産でこんなに体が変わるものか」

「これでチームをやめなければいけないかもしれない」。女子ハンドボール元日本代表の高木エレナさん(28)は、妊娠が分かったとき、そう思った。

高木さんは、日本ハンドボールリーグに加盟するチーム、三重バイオレットアイリスに所属している。本拠地は三重県鈴鹿市。運営はNPO法人で、ほとんどの選手が地元企業で働きながらプレーしている。高木さんも、物流会社ホンダロジスティクスで働いている。

練習中の高木エレナさん(中央)。ポジションはゴールキーパー(写真:伊藤菜々子)

2017年8月に、同じハンドボール選手と結婚した。妊娠が分かったのは2018年4月。恐る恐る監督に報告した。「チームにいていいですか? 会社に怒られないですか?」

当時の監督で、現在はチームマネジャーを務める櫛田亮介さん(42)は、拍子抜けするほどの笑顔で言った。「おめでとう! よかったやんか! チームにいて全然オッケー。会社と話をしながらやっていこうよ」

高木さんは、当時のことを話すと今でも泣き出してしまう。実は、引退しようかと気持ちが揺れ動いていた時期の妊娠だった。出産を機に引退という考えもよぎった。

「おなかの子が『いまは気持ちが疲れているからちょっと休んだら』と言ってくれたように感じたんです。この子も応援してくれている……だからもう一度頑張ってみようかなと思ったんです」

高木エレナさん(写真:伊藤菜々子)

取材中、感極まる高木さんを、櫛田さんと、現監督の梶原晃さん(36)がニコニコと見守る。櫛田さんはこう言う。

「やっぱり、スポーツ界はまだまだ、女性選手が結婚したり、子どもを産んだりすることが、祝福される雰囲気ではないですからね」

プライベートなど顧みず、スポーツに打ち込め――。スポーツ界にはそんな考え方が根強い。高木さんは結婚したとき、「結婚したからプレーのレベルが落ちたと言われたくなくて、それまで以上に練習に取り組んだ」と言う。

「シュートの阻止率が上がって、よしっ!と思いました。だから今回も、苦しくても現役を続けようと。そうすれば、後輩も好きなことを諦めないでいられるから」

チームマネジャーの櫛田亮介さん(左)と監督の梶原晃さん(写真:伊藤菜々子)

2018年12月に男の子を出産。3カ月後に練習を再開した。が、体が動かない。高木さんは「久々に体育館を走ったんです。すると膝が痛くなって10分で終了。こりゃあヤバいなって」と振り返る。

妊娠前の体重は68キロ。妊娠中、いわゆる食べづわりで一時85キロまで増えた。出産後、授乳と運動で落ちたが、練習再開時はまだ75キロあった。チームトレーナーを務める理学療法士の佐久間雅久さん(45)は、出産でこんなに体が変わるものかと驚いた。

「筋肉に触れると、妊娠前と比べて弾力が低下していました。トレーニングによってまた体を作っていくわけですが、出産後に現役復帰をするアスリートを担当したことがなかったので、どう運動メニューをつくればいいのか、手探りでした」

トレーナーの佐久間雅久さん。鈴鹿回生病院に理学療法士として勤務する(写真:伊藤菜々子)

「長く現役を続けるために先に子どもがほしい」

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