その夜、俺は王にまた呼びつけられた。今度は食事会だとか。 本当ならチビと二人で向かう予定だったんだが、あいにく当の本人はあの時の緊張からか部屋に戻るなり大いびきをかいて寝ちまった。 「食事会とは言ってたけどな……どんなメシなんだか」そんな雑な通達だ。俺もついつい疑ってしまう。まだ心の奥ではイマイチ信用していない。 万が一のことを考えて、俺はいつもの革鎧を身につけて出て行った。 しかし……この鎧も、いつも着ていた服も、城の侍女たちに念入りに洗われたおかげで、なんか鼻が落ち着かねえ。人間にとってはいい香りかもしれないんだがな。 通された場所はえらく小ぢんまりとした部屋だった。さっきとは全然違うまるで個室みたいなところだった(それでも広いことは広いんだが)。 同様に小ぶりな白いテーブルの向かいには王様が。そして手前の席には俺が。 「まだ警戒しているのか。大丈夫。俺とお前以外ここにはおらんぞ」 そういやさっきもそうだったか、いつの間にか自分のことを俺って言ってるんだ。最初は私だったのにな。 「ふう……何十年ぶりかだな。こうやって心を許せる奴と会話ができるのは」 王はグラスに注いであった赤い酒を、一気にグイっとあおった。 「ガンデの忘れ形見……そう、お前という存在に出会うまで、毎日が息苦しく、周りにも憔悴していた」 「王サマっていうのも結構疲れるんだな」少しうなづき、そうやって俺のあだ名が生まれたんだと話してくれた。 色々話そうかと思った矢先、俺の後ろのドアが開いて懐かしい臭いのする大皿のメシが運ばれてきた。 「王よりご要望のありました、アラハス風スパイス煮込みでございます」料理長らしき老人がそう話した。 「さあさあ食え、ナイフもフォークもどうせ使えないだろ?」 そういうなり王は、皿から骨の付いた肉をつかみ取り、一気にかぶりついた。 そして同様に俺も……って、あれ? この味どこかで…… 「昔な、ガンデと二人で戦場を転々としていた時だ。盗賊の襲撃に遭っていたアラハスのキャラバンを救ってやったことがあってな、その際にやつらがお礼でもてなしてくれた料理がこれだったんだ」 おおよそお偉いさんとは思えないがっついた食いっぷりに、俺も肩を並べて付き合った。 残念ながら酒には付き合えなかったけどな、けど親方の懐かしい思い出がいっぱいよみがえった。 当たり前だが、俺には初めて聞いたことだらけだ。 親方が片足を失った本当の理由とか(つーかなんで親方は俺にウソを教えたんだ?)、ジャエス親方は結構臆病で、2人と違ってほとんど前線には出なかったとか。 そして…… なぜ王は、親方と違う道を選んだのか。 「昔とちっとも変っちゃいねえ。お前たち獣人たちはいつも人間に虐げられて辛い思いをしてきた、そんな光景ばかり見ていた……だから」王は俺の両肩をがっしと掴んだ。 同じだ。力強くて、それに手のひらから熱さが伝わってくる。 「どうにかして変えたかったんだ。俺も、ガンデの奴も」 変える……っていったい? いや、つまりそれって、まさか⁉ そうだ。と王は大きくうなづいた。 「反獣人を旗印にしているオコニドを倒して、そして作りたかったんだ。俺は傭兵から出世して、貴族に取り入って……猛勉強してここまで来ることができた。中から変えていきたかったのさ。ガンデは傭兵ギルドを立ち上げて、外側から」 俺の肩をつかむ手のひらに、一層の力がこもっていった。 「獣人も人間も差別のない、真の自由の国をな」
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星川ちどり
松ヶ枝朋幸
八百十三
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