「だめーっ!」俺の首に切っ先が突きつけられた時だった。 王との間に立ちはだかって、両手を大きく広げた小さなその姿……チビだ、なんでお前…… だが、そんな抵抗にあっても奴の剣はピクリとも動かなかった。 「おとうたんきっちゃだめ!」 チビのその一声に、あたりが一斉に静まり返った。 あんだけ俺を殺せだの斬れだの騒いでいた野郎どもが……全員だ。 「チビ……」そして俺もこれ以上は言えなかった。 そういえば、こいつの……チビの背中って今までほとんど見てなかった気がする。 いつも頼りなさそうな上目遣いで、俺のことをじっと見つめていた。 そんなチビが、俺を守ってくれている。 小さな背中が、足元が怖さでガタガタと震えている。だがチビだってやっぱり怖いんだ。 「おとうたんわるいことしてないもん! まいにちそとであそんでくれるし、いっしょにめしくうし、おべんきょうだってしてくれるし、それに、それに……」 涙でぐずついた声が漏れ出る。 「おとうたんはせかいでいちばんつよいんだもん!!!」 ひときわ大きな声が空間を揺るがした。この小さな身体にそぐわないほどの、頭の中までキンキンするほどのでかい声で。 そしてその声に折れたのか、王の剣がゆっくりと下がった。 「……坊主」対する王の優しい声。さっきとは全然違う。 「お父さんのことは大好きか?」 その言葉に、チビは黙ってうなづいた。 「どのくらい大好きだ?」 「うん……えっ、と……」 しばらく考えたのち、チビは口を開いた。 「おうさまよりだいすき!」 その言葉に、周りの騎士から貴族連中から、どっと笑いが起きた。 だが、それ以上にガハハと大口で笑っているのが一人。 そう、ずっと不機嫌な顔でいたあの王が、だ。 チビの声より、さらに大きく響く豪快な笑いで。 その姿に俺とチビだけは呆気に取られていた。 「参った、俺の負けだ。降参だ」 チビの前で王はドン! と座り込んだ。なんなんだいったい? 「いや、ラッシュ……おまえとの勝負には勝ったが、坊主には負けた……ってことかな」 リオネングで一番偉い男、王様が、あろうことか俺たちの前であぐらをかいている。 チビのおかげで俺は勝てたのか……? まだイマイチ王の言っていることが分からないままだ。 「すまなかったな、お前を試そうとして」 「え?」その言葉に、つい俺は変な声を上げてしまった。 じゃあ、この一対一の戦いっていうのは一体⁉ と言いたかったんだが。鼻血がひどくてここまで話すのがやっとだった。 「お前を呼びつけて色々話そうとしたのは本当のことだ。だが私はお前を処刑しようとするつもりは毛頭なかった、全ては……」 王はまた不機嫌な目で、周りの貴族どもを……いや、さっきまで俺を殺さんと囃し立てていた観客をにらみつけた。 「ここに集まっている馬鹿どもを、とにかく黙らせたかっただけだ」
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八百十三
海音(かいね)
2019年11月13日 23時16分
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