「ラッシュとか言ったな……今からこの私と戦え」 「え……?」 戸惑う俺に、王は吐き捨てるように言った。おおよそ王様とは思えない口調でだ。 「お前にはこいつらを黙らせるほどの力があるのか?」 「ンなもの……ねえよ」 「なら答えは一つしかない。戦ってこの私を殺せ」 「え、いや、だからなんでだよ! あんた王様だろ? この国で最高に偉い奴なんだろ? 戦うだなんて、そんな……」 なに考えてるんだこいつ。口を開いたかと思ったらいきなり俺と戦えだの殺せだのって……考えがおかしすぎる! 俺の言葉をまるで聞いちゃいないかのように、王は身につけていた重そうなマントを脱ぎ捨てた。 その体躯に俺は一瞬息を飲んだ。 遠目じゃよく分からなかったが、上着の上からでもはっきり分かるその体つき……そうだ、実戦で剣や斧を振るったであろう、締まった肩の筋肉が。 親方が俺に稽古付けてくれたときに見せた、それと同様のヤバい体つきだ。 「ルールは一つ。私とお前のどっちが死ぬまでだ。もしお前が勝ったらその疑いも罪も全て帳消しにしてやる」 「いやいや、待てよ王様! あんたが死んだりしたら次の王様は一体どうするんだ!?」 その言葉に、王はちらりと顔を階段の上へと向けた。 視線の先には、そう、王子が。 「父上……」 「お前はもう全てを学んでおる。私がいなくとも立派にリオネングを統治できるはずだ」 心配そうな顔で、王子はゆっくりうなづいた。 そうしている間にも王は壁に掛けてあった剣をとり、戦いの準備を着々と進めていた。 「手ぶらでこの私と渡り合うのか?」 その言葉に思わず振り向くと、リオネングの鎧を来た騎士が二人がかりで、白い布に包まれた何かを抱えてもってきてくれた。 この長さ……そうだ、俺の斧だ。 布を解くと、きれいに手入れされて磨き込まれた白銀の刃がきらりと輝く。血曇りも汚れも全く見当たらない、もはや新品同様だ。 「ワグネルの鍛えた業物か。剣は何度も見たことはあるが斧は初めてだな」 ワグネル……って、そうか、俺の斧を作ってくれたジジイの名前だっけか。 「知ってるのか? ワグネルって奴のこと」そうだ、あのジジイ……もう一度会いたかったんだ。 「神の腕を持つ刀工……としか私も知らん。いずれにせよ、お前はワグネルが認めてくれた戦士でもあるわけだな」 神……そうなのか? あのジジイ宝石あげたらあっさり作っちまったけどな。 斧を手にしてウォーミングアップをはじめる。身体を動かすたびに服の肩口や尻のところからビリっと破ける音がするが……まあしょうがねえか。今着ているこの服がキツすぎるんだ。 「準備はいいか、ラッシュ」 王はそう言うが、まだあいつは剣を抜いていない。 「剣は抜かないのか?」 俺の言葉に、王はニヤリと悪戯っぽい笑みを見せた。 「お前ごとき、この剣を抜かんでも勝てるわ」
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八百十三
海音(かいね)
いけお
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