戦争は、終わった。 だけど、俺っていったい何なんだ? それをずっと考えながら、今、俺は書いている。 これまでの経緯を。 目が覚めたのは、例の騒動から数日が経った朝だった。 「ようやく起きましたかい、ラッシュ様」聞きなれない声が部屋の隅から聞こえる。 でもあれだけボロボロになったのにもかかわらず、凄く軽い。身体が、手足が。 いや違う、俺は今まで一体何をしていたんだっけ、確かどっかで仕事を……ん、どこでだ、誰とだ? 「医師も驚いてましたよ、肋骨は折れてて背中も全部皮が焦げていたっていうのに、一日で何事もなかったかのように治っていたって」 がしゃりがしゃりと金属同士のこすれる音。ああ、こいつ重そうな鎧着ているのか。でもこいつは誰だ? 思い出そうにも、考えようにも頭の中に分厚い霧がかかっているみたいで全然ダメなんだ。 俺の名前は……ラッシュ。 親方の下で傭兵をしている。仕事は戦争の手助け、自分のいるとこが勝つように、襲い掛かってくる連中をみんなぶった斬っちまうだけ。 そう、それだけの簡単な仕事。 それと「俺自身が死ななければいい」だけだ。 ずっとそれだけを言い聞かされて生きて働いてきた。 落ち着け、落ち着け……だんだん思い出せてきたじゃねえか。 「やっぱり獣人っていうのは我々とは身体のつくりが違うんですかね。普通そこまで痛めつけられていたら、もう治るどころか死んでいますし」 誰なんださっきっからずっとここで話してる奴は。俺には人間の知り合いなんて……親方くらいしかいないぞ。 いや、親方だけだったっけか? もう2.3人知ってる人がいたような。 「いつまで呆けているんですかいラッシュさん。王直々にお呼ばれがかかっていることを忘れているんですか?」 王? 俺が一体何したっていうんだ。そんな奴の顔なんて生まれて一度も見たことがねえぞ、だいいち俺には一生縁がない存在だって親方は言ってた。 ああそうだ、ここ俺の部屋だろ、早く親方に挨拶しなきゃ……あれ? 親方は死んだはずだよな? 何年も前に、老衰ってやつで。 老衰? 親方はそういう名前の病気で死んだんだったっけか? 違うだろ、誰かが言ってたな。親方が死んだのって…… 死んだ原因って…… !!! その瞬間、身体じゅうからどっと汗が噴き出してきた。 と同時に、頭の中の霧がみるみるうちに消えていった。 ジャエス親方は? アスティは? トガリは? ジールは? ルースは? ティディは? いったいどこに行っちまったんだ⁉ なんで俺一人しかここにいないんだ、そうじゃないここはいったいどこなんだ! 見回すと、いつも俺が寝ている部屋でもなかった。すごくきれいな白い清潔な、大きな部屋。 壁のいたるところに花やでっかい絵画が飾ってあって、薄汚い俺の部屋とは全く違う。 それに、チビは……どこだ? いつも俺の傍らですうすう寝息をたてていたあいつが、チビがいない。 なんなんだここは、俺はいったいどうしちまったんだ? まさか俺はもうとっくに死んでいるとかか⁉ ここはあの世なのか? じゃあここにいる鎧着た野郎は誰なんだ……って、こいつ会ったことがある! 「まーだ頭の中が混乱しているんですかいラッシュ様。起きることできるんだったら早く身だしなみ整えましょう。会はいつでも始められますんで」 会ってなんなんだと聞いたら、そいつはあきれ顔で軽くため息を一つ。 「ラッシュ様、あなたは裁かれるんですよ」
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星川ちどり
八百十三
いけお
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