ある獣人傭兵の手記

38話

 面白いもんだな、とっくに最後の最後の力まで使い果たしちまったっていうのに、まだ歩ける力が残っていただなんて。  あと一撃……それだけでいい、あのクソ野郎の首を刎ね飛ばすだけでいい。右腕以外はもう動かなくてもかまわねえ。 「おとうたん……」目をこらすと、チビが俺に何か言ってるような、そんな風に見えた。  ああ、怖かったよな。俺がそばにいなかったおかげで、こいつに捕まっちまってずっと怖い思いしたんだよな。  お前がマシャンバルとどういう繋がりであろうが関係ねえ。そうだ、俺はお前の親なんだ。命に代えても必ず救い出してやる。 「ふっ、やっぱり起き上がってくれたか。そうでなくちゃ、それでこそ見込んだ甲斐があるってもんよ!」  滝のように降りしきる雨の中、ゲイルもまた俺の元へと近づいてきた。 「できれば、お前と組みたかったんだけどな……神王様のもとでこの世界を手に入れることができれば、どんなに最高だったことか!」 「どういう意味だ……?」 「お前だってわかってるだろうが、この国の、この世界の奴らは俺たち獣人のことなんざゴミ程度にしか思ってないのさ、今まで散々味わっただろ? 人間どもの冷めた目、陰口、目いっぱい働いたのにもかかわらず僅かしかもらえねえカネ……まだまだいっぱいある、なぜ獣人ってだけで俺らはここまでひでえ扱いを受けなきゃならねえんだ⁉ だから俺はマシャンバルへ行ったんだ。そりゃ俺だって警戒してたさ、あそこは獣人嫌いなオコニドの連中もたくさんいるって聞いてたしな。だがよ……あそこの国の連中は俺に優しくしてくれた、種族の垣根なんてなかったんだ、あそこには。だから俺はマシャンバルに尽くそうって決めたんだ。神王様のために、より良い世界を創ろうってな!」  どう返していいかわからなかった。確かにコイツの言う通りだ……が、言うほど俺は差別ってこと自体にピンとくる頭がなかったんだ。親方だって、街の連中だって俺に分け隔てなく優しくしてくれていた。  それに……そう、アスティなんか俺のことを英雄みたいな目で見てくれていたんだ。俺のファンだって、憧れの存在だって。  頭の中までクソみたいな人間の傭兵、それにリオネングのクソな騎士団や城の連中くらいなもんだった、俺たち獣人を白い目で見ていたのは。  でもそんな些細な連中までいちいち憎んでいたところでキリがねえ。どうせ俺よりちっこくて、華奢で、口だけの連中。 「俺は……俺を信じてて、そして好きな奴らだけを大事にしていけばいい……そう思ってずっと生きてきただけだ。この国の奴らがどうとかなんて微塵も考えていなかった……お前みたいに賢い頭なんて持ち合わせちゃいなかったしな」 「ほう、分かってンじゃねえかラッシュ」機嫌を良くしたのかゲイルは、俺の前へと手を差し出してきた。  奴の元へ行くのかどうするのか、ふざけるな。もう答えなんて決まっている。  俺は奴に応えるべく、その手をグッと掴み返してやった、渾身の力で。 「な、ちょ。おま……力入れすぎ!」  不思議だ……力を込めれば込めるほど、さらに俺の身体の奥底から力が湧き出てくる。それはまるで俺の怒りに同調するかのように、ふつふつと、まるでこれから噴き出る溶岩みたいな感じに似ていた。 「分かってるかゲイル、お前は俺の大事なもんを奪ったんだ……!」 「や、やめてやめてラッシュ……手が折れ……!」直後、ゲイルの手首がボゴっと鈍い音を立て、明後日の方向に折れ曲がった。 「これはアスティの! そして……」  返す手で俺は斧を掲げ、残ったゲイルの腕をぶった斬った。 「ぎゃああああああああああああああああああ!!!!」 「これはトガリの分!」

コメント

もっと見る

コメント投稿

スタンプ投稿