「早く起きてよ、ラッシュ!」 突然だった、聞きなれたいつもの声が俺の鼻先にガン! と。 「もう、いつまで寝ぼけてるのさ、食事できてるんだから。冷めたハンバーグは嫌いだっていつも言ってるじゃないの」 トガリだ。あいつ眉間にしわを寄せて俺に説教を始めやがった。 「だいたいさ、最近仕事多いからって要求多いんだよ、スタミナつくもの食わせろって、朝からもう夕食作ってるのと変わりないもん!」 分かったから、早く俺の前からどけ。 ………って、トガリ、なんか変だ。 メガネにはヒビが入ってるし、なにより頭から血が流れてる……俺が力いっぱい殴ったからか? いや、そんなハズはない。こいつが流血するのなんて今まで見たことなかったぞ。トガリの頭は鉄より硬いんだし。 しかし、それをやつに問おうとすると、なぜか言葉が出ない。 「いくらおやっさんが亡くなったからって、ずっとふさぎ込んでるのも身体に悪いよ……」 え? いつの話だいったい、トガリの姿といい……俺はどこにいるんだ? 「みーんなここから去っちゃったけど、大丈夫、二人ででもがんばっていけるよね、ラッシュ」 「え、俺……は」 「平気だよ、僕はここから出たりしない。ほかに行くところもないしね」 いつしか俺のいた場所は食堂へと変わっていた、じゅうじゅうとハンバーグが焼ける匂いが俺の鼻をくすぐる…… だけど、なぜかトガリは俺の前から離れてくれない。 「いつまでそんな気の抜けた姿でいるの?」 傷だらけのトガリは、そんなひどい姿なのにもかかわらず俺にいつもと変わらない笑顔を向けてきている…… 「分かってる、辛いのは……だけどラッシュがたとえ独りになったって、僕はラッシュの仲間だよ、ずっとご飯を作ってあげるから」 独り……そうか、俺は、そうだ、独りだ。 ゲイルの言う通り、俺は親方を殺したかもしれない忌み嫌われた独りなんだ。 「だから……早く立ち上がってよラッシュ! 足が動かなかったら這ってでも動いて! 」 その言葉に俺の全身に稲妻が走った感じがした。しびれるような、なにかに貫かれるような。 「誓うよ、ラッシュがどんな大悪党でも、世界を滅ぼそうとする存在でも……僕はついていく。だからさあ、立って! 立って一緒に食事しよう!」 ガタガタだった俺の両足に、わずかに力が戻ってきたような気がした…… だが、あくまでもそんな気がしただけだ。 「全くもう……これでもまだ立てないの? 意気地なし」 トガリはムッとした顔で、今度はなにやら首から下げていたペンダントを外していた。あいつが肌身離さず着けていたやつだったな。 「これあげる、だから、もう一度踏ん張って」そういってあいつは、俺の首にそのペンダントをかけてくれた。 「なにがあろうとアラハスは裏切らない。これを僕だと思って、さあ!」 ……………… ……… … あたりはまた轟轟と雨の降りしきる食堂の中だった。 俺は……一体なにしてたんだたっけか、確か、トガリが…… 俺のずっと先では、ティディとジールがゲイルと対峙している。 そうか、俺……あいつに。そうしたらアスティが…… だが、奴に散々やられた身体はもうピクリとも動かせられない。情けねえ、こんなところで! ……ふと、握りしめていた右拳の中に、小石のような固いものがあるのが感じられた。 震える手をゆっくり開いてみる……それは、真っ赤な丸い植物の種だった。 そうだ、これトガリがいつも大事に首から下げていたガダーノとかいうスパイスの種だったか。親から仕送りがわりにもらったって話してたな。 でもさっきまでこんなの握ってなかったはず。トガリがいつの間にかくれたのかな、と慌てて俺はあたりを見回した。 「トガリ、お前どこ隠れていやがるんだ、とっとと……!」 諦めかけていた矢先に、視界の隅にあいつはいた。 厨房の崩れたガレキの隙間から……あいつの長い爪の生えた右腕だけが。 ああ、そうだ、トガリだ。全然姿見せねえなと思ってたら、あいつ……あいつ!!! バカ野郎!!! 俺はトガリのくれたガダーノの種を口に放り込んだ。 奥歯で思いきり噛み締める……苦いような、それでいて舌が痺れるほどの強烈な熱さが俺の口の中を、いや、身体中を駆け抜けた。 その熱さがだんだんと俺の力に変わってゆくのが感じられた、 足も腕もまだまだ動く……そうだ、あいつが俺に力をくれたんだ! 「さあ、トガリ……立ち上がったぜ俺は!」 そうだ、例え相打ちになったって、俺はあのバケモノを倒してみせる! 水の中に沈んでいた俺の斧を引き上げる……めちゃくちゃ重いが、大丈夫、やってやる! 「ああ、俺もお前を裏切らねえぜ!」
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