ある獣人傭兵の手記

31話

 ギン! と俺の真ん前で鈍い金属音が響いていた、  ああ、やり残したこといっぱいあったかもしれない、けど最後にティディを抱いたまま死ねるのも……なんて、自分でも似合わない思いが頭の中をよぎっていた。 「あ、あの……ラッシュさん」  突然のルースの声に、俺は恐る恐る目を開けた。  そう、ゲイルの一撃を受け止めていたのはルース……じゃなく、その隣にいた、えっと、誰だっけか。とにかく俺も意識が朦朧としていて思い出せねえ。  唯一浮かんだのが、この前城でバケモノと戦った時に剣を借りたあのやたらと弱腰な騎士のガキだってこと。  そいつが、ゲイルの剣を自身の巨大な盾で受けていたんだ。 「ご無事……には全然見えないですね」ルースが盾の陰から気まずそうな顔で話しかけてきた。俺のこのボロボロの姿じゃ、もはや皮肉な一言も言えないだろうな。 「……遅かったじゃねえか」絞り出すように俺も答えた。  っていうか、こいつ何しに行ってたんだっけ? 「ルース、かっこいい!」便乗してティディもルースの頬にキスをしやがった。ナイス。 「つーか、その、デュノ様、こいつを早く!」何度もゲイルの猛攻を受け止めていた騎士が、相変わらずの弱音をこっちに向けてきた。借りができちまったなと思ってはいたが、この軟弱な声を聞くたびに殴り倒したくなる衝動に駆られるのはなんでだろう? 「えっと、手短に話しますね。王子に許可を願ったんです。リオネング騎士団の残った全員を私にお貸ししてもらえませんかって」  猛烈な早口でまくし立てるルース。つまりはこういうことだ。俺と仲間以外誰もいないこの戦いに、力を貸してくれないかってことでルースはお城の偉い奴に申し立てに行ったってことらしい。  リオネングとオコニドの長い戦争は終わっている、いわゆる休戦状態。  そんな中で勃発しちまったこの戦い……これを引き金にまた協定が破られてしまったら元も子もない。  そう、これは存在してはならない、誰にも知られてはいけない戦争なんだってこと。  だから、リオネングのお偉いさんも見て見ぬふりで通していかなければならないんだ。  だが、俺たちが力及ばず全滅したことで、ゲイルたち異形の兵士が攻めて来たりでもしたら、もう意味がなくなってしまう。  それゆえにルースは陰で陳情していたんだ。どうにかしてリオネングの兵隊を貸してもらえないか……って。  弱腰騎士がゲイルと対峙している間に、ルースがぽつりと「ただ、条件が二つありまして」と付け加えてきた。 「一つは、今回の戦いの首謀者、ゲイルとティディさんの生け捕りと連行、そして……いや、これは私たちが無事に帰れたら、その時にでもきっちり話します」  寂しげな笑みを浮かべながらルースは俺に応えていた。  ああ、分かる……あいつのかなり重そうな、その決心を。

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