ある獣人傭兵の手記

29話

 さてさて、どうしようかまずは。  作戦なんてのんきに考えられるわけもない。ましてや俺は基本的にそんなこと考えたことがない。  できることは、そう、一点突破だ。  おそらくこの集団の先頭にはリーダーであるゲイルいるはずだ。あの爆発の後、目が覚めた時にはあいつだけいなかった。つまりまだ生きているってことだから。  とにかく、斬って、斬って、斬りまくって……  連中が気付くか気づかないかの距離に、俺は馬を泊めた。こいつも休ませてあげなくちゃかわいそうだしな。  幸いにもティディはまだルース製の爆弾を一個持っていたんで、それを奴らの中心に投げつけて、そこから一気に突っ込んでいこうってことにした。  まずは盾になる俺、そして後ろにはティディと。  気配を隠し、背の高い草むらに身を潜めていると、なぜか俺の足がガクガクと震えだしてきた。  なんなんだ? 怖いのか? それとも武者震いってやつなのか?  こんなこと、生まれて一度も……いや、一度だけあったのを思い出した。  生まれて初めて、戦場に行った時のことだ。  あの時はナイフ一本で無我夢中で名も知れぬオコニドの人間どもを倒して、気が付いたときは真っ白な息をハッハッと吐きながら、死体の山の上で震えながらずっと立ちすくんでたんだっけ。  凍えるほど寒かったのか、それともあの時の震えが…… 「ラッシュ、怖いの?」それを見ていたティディが心配そうに話しかけた。 「ああ? 大丈夫だ。ちょっとな……」  俺は頭の中に残っている思い出をすべて振り払おうと、ぶんぶんと首を激しく振った。 「嫌なこと思い出しちまっただけだ……よッ‼‼‼」  手にしたルースの爆弾を、俺は渾身の力で放り投げた。  しばらくして、またいつもの連中の気持ち悪い叫び声が草原一体に響き渡る。  大斧をぐっと握りしめ、俺は慌てて散り散りになったオコニド兵どもをつぎつぎ真っ二つにした。  うおおおおと雄たけびを上げ、隊列のど真ん中へと突進していく。  そうだ……これが終わったら、俺にもケーキの作り方教えてくれよな、ティディ。

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