ある獣人傭兵の手記

28話

 前にルースから聞いただけだからちょっと違うかもしれねえが、馬っていうのは俺ら獣人みたいに人と同じ姿になるのを望まなかったんで、俺たちの先祖……獣と同じ四本足の姿のまま今も変わらず生きているって話だ。  人間も、俺たちも馬の恩恵を受けている。長旅をするときだってそうだし、こうやって目的地にまで早く移動したい時だって。    俺とティディの乗った馬が全速力で走ってどれくらい経っただろう。そろそろこいつも休ませてやらねえと限界かなと思ってきた矢先、草原のはるか前方にオコニドの人獣どもの緑色の背中が見えてきた。  さらにその先には、俺たちの住んでいる町が。  しかしすげえ数だ……ざっと見ても、俺らがさっきまで切り倒してきた数と同じくらいの兵がいる。  正直、俺とティディ、そして後から来るであろうジール……いや、あの二人にこれ以上戦いを強いるのはやめておきたい。どちらにせよ……って。 「ティディ、あそこにいる奴ら何人くらいか分かるか?」そうだった。俺は10以上の数を数えることができないんだった。  ルースの勉強会がいろいろあってお流れになって以降、俺もチビも字の読み書きはそこそこ(無論、チビのほうが飲み込みは早い)できるようになったんだが、肝心の計算とかが……な。 「うーん、千人くらいかな、もっとかな」  うん、千人ってどれくらいなのかちっとも分らねえ。  いつかまたルースに会えるだろうか?  またあいつは勉強会をしてくれるだろうか?  ……いや。  この戦いが終わって、またみんなでメシを食うことができるだろうか。  なぜだろう、これからもっと激しい戦いになるっていうのに、思い出すのは楽しいことばかりだ。 「あたしね、おうちに戻ったら、またラッシュのためにおっきなケーキ作るんだ」  喜々としたティディの声が背中から聞こえる。俺同様、まるでこれから始まる戦いのことなんて全然意に介してないほどに。 「作り方、覚えたのか?」 「うん、トガリがみんな教えてくれたの。卵と、砂糖と、え……っと」  ダメだこりゃ。

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