俺の知らない間にゲイルは強くなっていた、いや、性格もだ。 以前はもっと口だけは達者で女々しかった、剣の腕なんて全然大したことなかった。それなのに……いや、俺の方が疲弊しているせいか? 「分かるかラッシュ? 強くなった俺が」俺の思いにこたえるかのようにゲイルは話した。 「身体がなあ! 生き生きしてるんだよォ! もう俺は以前までの薄汚ねえ獣人なんかじゃない! マシャンバルの力で人の姿になれたわ、おまけに今まで以上の力も得ることができたわで、もう最高なんだよおおおおおお!」 倒れた俺の顔面を踏みつけ、そして何度も蹴りまくった……苦しい、それに火がすぐそこまで来ているからか、胸の奥が熱くなってきた。 「残念だったなラッシュ、もう貴様ら獣人が戦争の主役だった時代は終わりだ。これからはなァ、俺……のぉッ!」 バカかこいつ。倒したんだったらさっさととどめを刺せ。いつまでも講釈垂れてンじゃねえ! 俺は顔面を踏んづけていたゲイルの足首を掴んでひっぱり、同じく泥の中へと突き倒してやった。 そのまま、泥まみれの俺とゲイルは武器を捨て、延々と殴り合い…… ゴッ! と鈍い音が俺の拳に響いた。ゲイルの頬骨が砕ける感触とともに。 それでも容赦なんかしねえ、俺は声にならないうめき声をあげているゲイルの顔面に、さらに何度も拳を見舞った。 ……が。直後、俺の背中に刺すような熱い激痛が響いた。 「……矢?」何本もの矢が、俺の背中を刺し貫いていたようだ。 「ひゃははは、どうやら援軍が到着したようだな」血まみれのゲイルの顔が、邪悪な笑みで歪んでいた。 「貴様……!」流れ出る血とともに、俺の意識が急速に薄れていった。 「と、言うことだラッシュ。ディズウ神王様はまだ俺を見捨ててはいなかったようだ。これから俺たちは援軍とともに行かせてもらうとするぜ! ひゃーはははは!」 その汚ねえ笑い声で俺は一気に目が覚めた。そうだ、こいつら……街に行く気だ! しかし、身体がいうことをきかねえ……なにか、なにかこのクソ野郎に何か一発でも食らわさねえと、俺の怒りが……! そうだ……あれだ‼‼‼ 「じゃあなラッシュ、お前の生まれ故郷が燃えるさまをここでじっくり見ていてくれ……ってウワァ!」 武器と一緒に投げ捨てていたルースのザック、俺はそのままひっつかんでゲイルに投げつけた。 直後……真っ白な光と音と。そして身体が引き裂かれそうなくらいの衝撃と。 その一撃で、俺のすべての意識が飛んでいった。
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八百十三
海音(かいね)
2019年8月8日 19時29分
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