……自分でもここまで長い時間戦ったことはない気がする。 もうどのくらい連中を斬ったかわからない。だが意識はますます冴え、身体は熱くなってくる。 まるでこの大斧が求めているみたいだ。もっと、もっと血を吸わせろ、命をよこせ、と。 昔、親方が言ってたっけなぁ……この世界には意志を持っている武器や鎧があるって。握ったが最後、数多の血を吸わない限り手から離れないぞと。 どうやら俺のこの斧がそれみてえだ。まるで手に吸い付いたようで、離れてくれない。 それに、これだけ斬ったというのに刃こぼれ一つ起こしていない。奴らの血も、脂もひと振りするだけできれいに落ちてくれる。 「これがお前の意志か……?」って、つい斧に向けて話しかけちまった。答えてなんかくれないのにな。 足元にはおびただしい数の人獣どもが血の池とぬかるみを作りだしていた。それでもまだ奴らの数は減ろうとしない。 もしかしたら、オコニドの全勢力をここに持ってきたんじゃ? って思ってしまうくらいに。 ふと顔を上げると、森の奥から……いや、俺の周りがキナ臭くなってきた。木の燃える匂い……なるほど、ルースのくれた薬に火が付いたか、それともゲイルたちが俺たちを追い込むために山焼きでも始めたか、どっちかだろう。 いずれにしろ、そろそろここに留まっているのも危険だな。俺は一向に木の上から降りてこないティディを探しに、また足を進めた。 彼女の名を呼びながら……だが、俺の前に立ちふさがったのは彼女じゃなかった。 「ようやくお前と二人っきりになれたな」俺の斧と同じくらいの巨大な剣を肩に掲げた奴……ゲイルだ。 「お前とここで心中する気はないからな」 「俺も同じだ。しかし勝った方がここから出られる……そうだろ?」 俺の渾身のネタをさらりとかわしやがった。相変わらず可愛げのない野郎だな。 「そうそう、交渉決裂したから言わねえでおこうかと思っていたんだが……例のアレな」 言われて思い出した。親方の死の真相をこいつは知っているってことを。 「大サービスだ。俺に勝ったら教えてやるよ。俺もこうなった以上、もはやマシャンバルに戻ることすら許されねえだろうからな」 「ゲイル……俺らと一緒に街に帰ろうとは思わないのか?」無理を承知で聞いてみた。いずれにせよ敵国であるオコニド……いや、マシャンバルに就いたこいつは戦犯だ。帰れたとしても捕らえられて拷問された挙句、処刑されるのは目に見えて明らかだ。 「変なところで優しいんだな、お前はいつも」 「お前も優しいじゃねえか。交渉決裂したのに敢えて教えてくれるなんてよ」 俺は思わず吹き出しちまった。ゲイルもそれにつられて高笑いした。 「なら、これで終わりにしよう……ぜっ!」 俺とゲイルのぶつかり合う音が、森にキーンと響き渡った。
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八百十三
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海音(かいね)
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