ある獣人傭兵の手記

15話

 ということで、ジャエス親方と一緒に俺はリオネング城へ向かうことにした。  分かるだろ? 俺がこういうかしこまった場所が大嫌いなことが?  石造りの長い廊下を歩きながら、俺はジャエス親方の言ってたことを思い出していた。 「悪ぃがここから先は俺は無理だ、お前ひとりで行ってくれ」って。  どうやら昔、ウチの親方と二人がまだリオネングの正規兵だった頃、中で大ゲンカやらかして追放処分になったらしい。  若いころから好き勝手やってたとは聞いていたが、軍をクビになるくらいって……残念ながらジャエス親方はそのことに関しては教えてはくれなかったが、一言だけ「堅苦しいトコは大嫌いだったんだ」だと。  わかる、リオネングの城の門からここに至るまでの間、衛兵に変な目で見られるわ、見たことない動きにくい服を着た連中にジロジロ見られてきたわで、傭兵として戦地に行くとき感じた……あのイヤな雰囲気がここにも感じられたんだ。 「リオネングは獣人には寛容とは前々から言われてはいるが、俺にはそうは感じねえ。だからこそお前はその強さで見返してやれ!」  ウチの親方はことあるごとに俺にそう話していたっけな。 「お前たち獣人も俺たち人間も、仲良く暮らしていける世の中こそ理想ってもんよ」  残念ながらこのリオネング城にいる連中はそうでもないらしい。以前殴り飛ばしてやった奴らどもと同じ目つきしてやがる。 「遅かったな、とにかく入れ」先日話しに来た態度のクソでかい騎士が、奥の大きなドアの前で待っていた。  大きな部屋へと入ると、やっぱり動きづらそうな金属の鎧をまとった連中が一気にざわめいた。ざっと十数人はいるだろうか。  それに俺を歓迎する目つきでもなかった。そう、見下している目だ。 「傭兵のラッシュとか言ったな、貴様の活躍はかねがね噂に聞いているよ」  部屋の奥に腰かけている白髪交じりの初老の男……こいつだけ鎧は着ておらず、赤と黒に塗り分けられた国旗のような服を着ている。そして左目には黒い眼帯。確かにここにいる誰よりも地位は高そうだ。  そいつはまた、トゲのある物言いで俺に低い声で話しかけてきた。 「私はリオネングの騎士団長である。名前はドールだ。貴様は森にいるマシャンバルの兵どもと接触したそうだな……まずは我々に詳しく話を聞かせてもらおうか」    ってなわけで、俺はゲイルと話したこと、ティディのことに関してのすべてを話した……だが、ウチの親方の死因に関すること、それに結婚のことについては言わないでおいた。こいつらには関係のないことだしな。 「なるほど、貴様のところにマシャンバルの女が迷い込んだというわけか。しかもよりによって獣人である貴様に惚れ込んでいるとはな」  ドールがプッと吹きだすと、つられるように周りの騎士の連中も笑い出した。そんなにおかしいことか?  なにかここにいる連中は俺らと感性とか性格とか正反対なようだ。やることなすこといちいち癪に障る。  ああ、なんか薄々分かってきたぜ、親方がここの連中を嫌いなわけが。 「我々が言いたいことは分かるな? すぐにそのマシャンバルの女をここに連れてくるんだ」  唐突にドールがいった言葉に、俺はつい、えっと声を上げてしまった。 「獣人という種族は無知で愚鈍とは聞いていたが、君はまだちょっとは賢明なようで安心したよ。亡命してきたマシャンバルの女をすぐさま殺さずに『飼いならして』しまったとはね」  飼いならす……? 一体どういうことだ。 「それももうここまでだ。彼女は我々リオネングで預かろう。奴らとの交渉での重要な人質……いや、切り札になるからな」 「おい、それってつまり……」そうだ、俺がティディをずっとかくまっても、結局同じ成り行きになるとは予想してはいた。  ゲイルたちと一戦交えることに。  だが、ティディはこれから一体どうされちまうんだ⁉ 俺はドールに尋ねた。 「貴様がそれを知ったところでどうにもなるまい。まあでもこれだけは言っておく。マシャンバルの人間とやらを知るうえで彼女は貴重な……」  怒りでドールに詰め寄ろうとした瞬間、俺の首元に槍の切っ先が突きつけられた。 「それ以上近寄るんじゃない! 薄汚い獣人が!」  そうだ、こいつらはティディを調べ上げるつもりだ。無抵抗な彼女を。 「ああ、森に潜んでいる連中なら心配には及ばんさ、我々リオネングの騎士団にかかればゴミクズ同然、獣人の手を借りることもない。無論この街に指一本触れさせはしないさ」 「俺もお前が言いたいことは分かる、マシャンバルの奴らは目障りだしな。だがあいつは……ティディは……その」  緊張でカラカラになった喉から、俺は声を振り絞って放った。 「俺に……惚れちまってるんだ」

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