ある獣人傭兵の手記

13話

 大人数での来客のときにしか使わない巨大なテーブルを持ち出してきて(持ってきたのは俺だが)、その中心にドン! とでっかいケーキが置かれた。 「まま待っててね、いいいいまロウソク刺すから」  つーか俺はもう待ちきれなくて腹減りまくりなんだけどな。マジでかぶりつきたい気分なんだが、周りの連中がそうはさせてくれない。  ティディもチビもニコニコしながら俺の方をじっと見つめている。まあそれは分かるんだが、この二人、いつの間に仲良くなったんだか。  そんなこと考えているうちにトガリの細い爪で一本、二本と色とりどりのロウソクが刺されていった。  その25(大丈夫、それは数えられる)。年齢の数だけロウソクって刺されるんだっけか。それにしても俺ってそんな年齢だったんだな。 「意外と若ぇなオマエ」ジャエス親方が感心しながら言った。いや俺も知らなかったんだ、自分の年って。 「アスティがしらべてくれたの、ラッシュにじゅうご歳!」  ティディがとなりではしゃぎながら開設してくれた。なんでも親方の日記から推測すると、俺は大体こんな年齢なんだそうだ。 「僕も最初驚いちゃいました、30歳くらいはゆうに行ってるのかな、なんて」そう話すアスティも、ケガもすっかり癒えたみたいだ。 「おとうたん、ふーってけして」今度はチビが俺にせかしかけてくる。 「ラララッシュがいないときにね、みみみみんなでこっそり作ってお祝いしようってけけ計画してたんだ。おおおめでとうラッシュ」 「「「お誕生日おめでとう」」」その言葉に合わせて、みんなが一斉に言ってきた。なんなんだ……この心の奥のむず痒い気持ちは。  とりあえず言いたいのをぐっとこらえて、俺はふーっと一気にロウソクの灯を消した。  トガリがケーキを取り分け、みんなの皿に盛る。いつも通り俺のは山のように大きい。  実を言うと俺は極端に甘いものがちょっと苦手なんだが、やっぱり空腹も相まってか、このクリームのこってりした甘さがすごく身体に染み入る。要はうめえってことだ。 「本当ならこういうのって誕生日の夜にお祝いするんですけどね、なんか知らないけど朝になっちゃって……」アスティが照れ臭そうに言う。  よく見るとこいつ、以前会った時より髪を伸ばしたりして、かなりイメージが変わっていた。それに革鎧も当たり前だが着ていないし、ゆったりした上衣の……なんていうか、ゆるすぎて形容しづらい格好だ。 「あ、分かりますか。もう軍にはいられませんしね。叔父さんにも言われたんです、周りにばれないようにイメチェンしろって。僕もこういう服の方が好きですし……なんというか、画家とか彫刻家っぽくて」  芸術家がどういう服をいつも着ているかは知らねえけど、割とルーズな格好も似あってるぜと答えてはおいた。案の定真っ赤になって照れてたし。  そんなことで大量のケーキをがっつり食っていると、突然ティディが俺の鼻の頭をぺろんと舐めてきた。 「ラッシュ、クリームだらけ。ふふっ」  予期しなかったティディの行動に、俺の胸がいきなりバクバク高鳴った。  以前ジールに俺の涙を舐められたときあったけど。あれとそっくりな胸の高鳴り……爆発する寸前にも似たアレだ。 「ラッシュ、顔硬いよ。もっとニーっとして」ティディは俺の両頬をつまんで、横にびろーんと伸ばし始めた。 「にゃにやっへるんだおまへ……」  不思議だ。いきなりこんなことされたら、いつもの俺なら相手を叩き落とすくらいなのに。今は、いやこいつも、チビにもそんな感情は起きてこない。 「おとうたんびろーんしてる!」つられてチビも俺の顔を引っ張り始めて、周りも大爆笑。  ああ、そうだ。こんなこと今までなかったよな……  チビが来て、アスティとジャエス親方が来て、そしてティディが来て。みんなでこうやって笑って騒げる。  昔だったら全然考えつかなかったことだ、これ。 「しかしこうやってみると、まるで家族だなあオイ」ビールをなみなみ注がれたジョッキ片手に、ジャエス親方も満足げだ。 「でよ、バカ犬。ちょっと考えたんだが……さっき言ったことは撤回だ。俺に考えがある」  ビールを一気に飲み干した親方は、酒臭い息をまき散らしながら立ち上がった。どうした? なんなんだ一体? 「お前、彼女と結婚しろ」  俺の心臓が止まった。

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