ある獣人傭兵の手記

10話

「……お、お前、マジで言ってること分からねえのか?」  訳が分からず答えた俺に、ゲイルは呆れかえっている。 「姫様、女性だよ。えー……っと。お前ンとこにこの前迷い込んでこなかったか?」  言われてもう一度考える……あ!!! 「ティディのことか!?」そうか、もう女性って言われりゃあいつしかいない。 「お前ンとこじゃそう呼ばれてるのか。まあいい。彼女は我々の国にとって重要な存在なのだ。マシャンバル……いや、オコニドの存続に関わるくらいのな」  マシャンバルじゃなくオコニド? オコニドはもう存在しないんじゃなかったか。 「あいつ、オコニドの姫さんだったのか」 「そんなことはお前にとってどうでもいいことさ。とにかく、姫様を返してもらえたら、我々ここにいる兵どもはすぐにここから立ち去る。ウソは言わんさ」 「で、返さなかったら、どうするワケだ?」 「お前の生まれ故郷が瞬時に焼け野原になる……簡単だろ?」  なるほど、こりゃ確かにヤバい交換条件だ。 「姫様をかくまったところでお前にはなんのメリットもないだろ? オコニドとマシャンバルだけの問題だからな。頭の回転の鈍いお前にも分かるだろ?」  いちいち言うことが気に障るな。この前殴ったことまだ根に持っていやがるのか。  でも、いいのかあの女。ティディのこと。  あいつ、俺のことを「大好き」って言ってたじゃねえか。それだけの理由。それだけなのに、なんだかいま考え直すと、あいつの存在がちょっぴりいとおしく感じてくる。  出会ってまだ全然だってのに。 「ああ、それとな、これだけじゃちょっとお礼が足りないだろうと思ってな、交換条件としてもう一ついいものを用意してるんだ」  なんなんだ、もう一つのってのは。俺はゲイルに聞いた。  奴は薄ら笑いを浮かべて俺に近づいてきた。まさか俺とここで……?  と思ったのだが、ゲイルは腰の剣に全く手をおかないまま、俺の目の前まできた。 「お前が敬愛してやまない、ガンデ親方のことだよ」  その言葉に、一瞬胸がドキッとする。何でいきなり親方のことを!? 「……誰に殺されたかってことを、お前に教えてやろうと思ってな」  目の前が、真っ白になった。

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