ある獣人傭兵の手記

4話

 ジャエスの親方は、まるで俺の家に引っ越しでもするかのようだった。  ここからそれほど離れてもいないトコに住んでいたのにもかかわらず、馬車に積まれた大量の荷物。これ全部ジャエス親方の持ち物かよ。と思わずトガリと俺はぽかんと放心してしまった。 「あァ? まあ知らんでもしょうがねえか。この家を建てたのはガンデ兄ィと俺なんだ。傭兵の仕事の給料からコツコツと貯めてな。けどお前の稼ぎの方がかなり上だったみたいだな……全然広くなっていやがる」  そういって俺やトガリの手を借りながら、どかどかと専用の椅子やらでっかい鉢植えまで、搬入作業は昼まで続いた。 「お前の話を聞いててなかなか興味深いことに気付いたんだ。もっとも趣味でカミさんから習った夢見解読法だけどな。しかしそういうものとは違う。分かるか……?」  分からないから、さて昼メシっと。  ジャエスの親方はスパゲッティが大好物だそうだ。これまた自分の家から持ってきた大量の麺を、トガリに命令してぐつぐつ茹でるわ具を作るわで、さすがのトガリも悲鳴を上げそうになっていた。  そんなこんなで皿に盛られた超山盛りの、そしてニンニクと唐辛子が大量にぶち込まれたスパゲティを、さあ食えと俺たちにも勧めてきた。  あたりまえだろ、ここまで旨そうなニンニクの香りさせてきたなら一気に腹の虫が鳴っちまう。食うぞ食うぞ!  (もちろんチビにこんなキツい臭いの奴は食わせられねえから、別にトマトソースを作っていた) 「兄ィと一緒に食った時のことを思い出すぜ……金なんて全然無かったころ、大好物のスパゲティに具なんてぜいたくで全然入れられなかったんだ。塩とオイルとニンニクだけのこいつをな、昼間に腹が張り裂けそうなくらい食って、夢を語ったよ」  ジャエス親方はメシを食いながら、合間合間に親方との思い出話を語ってくれた。 「今でも思い出すさ、いつか俺は自分で傭兵ギルドをオッ立ててやるぜ! ってな。二人で誓ったことを。それがこうして……」  口いっぱいに含んだメシを、これまた自分で持ってきたビールで流し込んで続けた。 「…お前みたいなやり手の戦士が受け継いでくれている。兄ィも地獄で喜んでいるだろうぜ」  その言葉に俺はちょっと鼻の奥がツンとなっちまった。大量のニンニクが鼻に来たせいじゃない。ヤバい。でもいま泣きでもしたら、ジャエスの親方にアホかとか言われそうで、ぐっとこらえた。  そう、俺たち傭兵は絶対に天国へなんか行けないと分かっている。だから地獄で待ってろ、地獄で騒ごうぜと、あえて最悪な場所である地獄を俺たちの待っているあの世としているんだ。親方は口癖のように言ってたのを思い出した。  脱線しっぱなしだったな。さてと、俺の夢の話の続きだ。 「兄ィはな、ああ見えても結構手帳にその日その時の気になった出来事を書くのが好きだったんだ。日記ほどでもないけどな。それがここの書斎に大量にしまい込んである。それを見させてもらいに来たわけさ」  手帳とはいえ相当な量だ。まだ字が読めなかった自分でも、書斎においてある大量の手垢まみれの分厚い本の量を見ればわかった。  手帳を一冊書き終えると、それに革表紙を貼り付けていつでも読み返せるようにしてたんだ。    けど、それと狼聖母の降臨と一体どういう関係が? 「そこだ! お前みてえな頭が空っぽのバカ犬には無理かもしれねえがな、見た夢からしてどうもそりゃディナレ降臨があった日の軍の記録と不思議なほどに状況が一致してるんだ」 「でも、俺にはそこまで記憶が……」  そう。まだいまいちピンと来ない。『それ』が本当に俺が過去に体験したものであるのかすら。 「ああ、それを今日からじっくり調べ上げてやるのさ。お前を実験台にしてな。ガハハハ!」  実験台ィ⁉ なんかイヤな響きだなそりゃ。 「安心しろバカ犬。おめえの頭をカチ割ったところで砂利しか詰まってないのはわかってる。やりてえのはな、俺が独自に編み出した『夢見質問法』だ!」  ジャエス親方いわく、夢見質問法とは、なんでも寝ている相手に話しかけることによって、その夢を操作したり、質問に答えさせてしまう方法なのだとか。  つーか、どういう方法なんだ? ちょっと怖くなってきた。

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