「そんなマシャンバル神国に、オコニドの連中がどうやって接触できたかは、神国の国内情勢同様今でも謎です。そもそも我が新生リオネングとオコニドもにらみ合い状態が続いてましたからね……」 トガリが深煎りコーヒーを持って俺の隣に座ってきた。こいつの淹れるコーヒーも結構好きだ。周りからは泥水味だと言われてはいるが。 「そそそうだ、ぼぼ僕がアラハスにいたとき、いい一度だけマシャンバルのお客さんが鉱石買いに来たことがあったよ」 「え、本当かいトガリ⁉」ルースがどんな感じだったと詰め寄ってきた。こいつがここまで驚くくらいだ。相当希少な連中っぽいな。 「ささ3人だったかな。ぜぜ全員おそろいの黒いローブ着ててさ、かか顔にも手にも刺青がびっしり描いてあって、ひひ必要最低限のことしかしゃべらなかったよ。あああそうそう」 モグラ族の長い爪に合わせて作られた、持ち手が不釣り合いに大きな専用のコーヒーカップで一口。トガリは続けた。 「かか買いに来た一人以外は一切話すことなかったね。っていうか暑い中何時間も立ってて、ぴくりともうう動かなくってほんと不気味だった」 「で? で? なに買ってたのさあいつら! 教えてくれ!」白い顔がぐいぐいとトガリの顔に接近する。 なんなんだルース。マシャンバルにでも興味あんのか? ……が、幸いにもルースのヤバさに気付いたのか「後で話すね」と、うまいこと切り替えしてくれた……俺の授業のこと忘れるくらいだ。よっぽどその暗黒の国になにかあるんだな。 「コホン。失礼しました……私、いろいろと他国の研究もしているもので」 と言ってトガリの深煎り泥水コーヒーを一口すする。案の定ルースの顔がみるみるうちに曇ってきた。 「え、っと……げふっ、そこからが不可解だったんです。ちょうど昨年でしたか。突如としてオコニドの使節団がここに現れまして、これまた突然、リオネングに和平を申し入れてきたんです」 「ちょうど親方が亡くなる前……か。周りのギルド連中も話してたしな」俺の言葉に、ルースはうんうんとうなづいた。 「我々リオネングも何十年と続く先の見えない戦争に疲弊してましたからね……ある意味願ってもない僥倖だったのでしょう。すぐに調印式が始まりました。とはいえまだまだそれに納得しないオコニドの残党も数多く存在してるって話も、ちらほら聞いてます」 けれども、平和が戻ってきたことには違いない……と結び、これで終わりますね、とルースは黒革の本をばたりと閉じた。 ルース曰く、俺向けに結構細かいとこを端折ったとは言ってるが、今まで親方に全く教えてもらわなかったものだし、それなりに勉強にはなった……と思う。俺としては。まあ明日には忘れてしまうかもしれないが。 ふと外を見ると、陽が傾きかけてきた。そろそろチビを戻してこなきゃな、と思い、俺は家を出た。 つーか、ルースの授業、結構長かったんだな…… ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 窓の向こう、まるで親子のようにラッシュとチビが話している。 ルースはそんな仲むつまじい姿を見つめつつ、テーブルの片づけをしているトガリへと、ポツリとつぶやいた。 「トガリ、マシャンバルの連中の事、あとでゆっくり教えてもらえないか?」 「ええ、うん……そそそうだね。けどいい一体なんでそんなマシャンバルにこここだわるのさ?」 ルースはだれにも口外しないでと一言、そしてささやくように言葉を紡いだ。 「国境付近でいろいろ聞きまわったんだ。オコニドはマシャンバルと同盟を結んだんじゃない……」 「どど同盟じゃない……? それってどういう意味?」 見上げた空に、ふと黒い雲が差し掛かった。 「オコニドは『消された』んだ……マシャンバルに」 突風が吹き付け、窓がビリビリと大きく鳴った。 「まだ終わらないよ……ううん、これからもっとひどくなるかもしれない。天気も……」 見上げた空はあっという間に黒く染まっていた。これからさらに荒れるだろう。 「そして、この世界もね……」
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星川ちどり
2019年7月31日 18時25分
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