おいおい、一体なんだって言うんだ⁉︎ 仲間をいきなり殺すわジールが危険だと言うわで、俺の頭は一気に混乱しちまった。 難しいことを考えるのはとにかく苦手だ。俺はすぐさまルースを問い詰めた。 「ラッシュさん、ゲイルさん。私をこれからどうするかはお二人にお任せします……だけど今だけは信じてもらいたいんです。私はここへ向かう馬車の中から、みなさんの容姿はひと通り目に焼き付けてました。むろんガグさんもです。だけどその時の彼とは服や装備すら同じでしたが、顔つきと体格が違っていたんですよ、それもパッと見た限りではわからないほどに」 「なんだと…じゃあ俺とお前が村に行ってたとき、こいつは…」 ゲイルがまん丸な目をさらに丸くして問いただす。 「恐らく、ゲイルさんの見えないところでガグさんは殺されました。そこにいる奴の手によって」 俺は落ち着いて思い返してみた。つまりガグに化けていたやつは、掃除の上前を奪おうとしてた野盗かなにかか⁉︎ 確かに暗殺業に通じているルースならば俺と二人でいたとき、いや、俺が抱えていた時にでも十分殺せるチャンスはあったはずだ。だがそんなマネをしないということは…… 「ルース、今はお前を信じるしかないようだな……しかし盗賊の連中は人間だけじゃなかったのはうかつだったな」 俺の隣にいたゲイルが申し訳なさそうに話した。だがここで感傷的になっているヒマはない。一刻も早くジールのところへ行かないと。 と思ったとき、俺の胸に掴まっていたチビが、またえっえっと泣きだした。 「ラッシュさん……一体?」 その泣き声でようやくルースとゲイルが気づいた。チビの存在に。 「えっと、ラッシュさん、その…」 「な、なんだよ、話は帰ってからするから待て!」 「ま、まさかラッシュさんの隠し子…ぐはっ!」 隠し子なんて言葉は知らないが、俺はつい条件反射でルースの頭を思いきり殴っちまった。 「な、殴って済ませるということは、その事実を認めたがゆえの行為です…よ…」 俺たちがジールのいる合流場所へと着く直前だった。ひときわ太い大木を背にして身を潜めている奴がいる。 ジールだ。やっぱり盗賊共はこっちに来ていたってことか。 ジールは俺たちが来たことに気づくと、まず手で制し、指によるサインで人数を伝えてきた。 1…5人いるのか、あとは何を言いたいのかサッパリ分からねえが。 「相手は5人。馬車に3人と付近で見張りが2人。何かを探している。ですね」 俺の頭のてっぺんからルースがひょっこり顔を出して教えてくれた。 「分かるのかお前?」 「私たちの仕事じゃ、あんなサイン基本中の基本ですよ」 その言葉にかなりイラっと来たが、ここで殴るのはやめておこうと思い、俺は一気に馬車へと走っていった。 5人程度ならすぐ蹴散らすまでだ。 気配を隠して挟み撃ちとか役割分担とか。そんな小難しいモン俺には一切必要ねえ。 やるときはいつも正面からだと俺は決めている。戦場ではいつも俺はそうやって戦ってきた、あっという間に済ませてやる……なんだったら100人でも構わねえ! ……ふと、さっきまでむず痒かった気分がウソのように消えて、代わりに全身に熱い血が駆け巡ってくる感覚が久々に蘇ってきた。 そうだ、この感覚! 俺の前に立ちはだかる奴らは全て斬り殺してやるだけだ。 俺は背中に負った大斧の止め具を外し手にとった。 ズッシリと、だが心地よい重さが両腕にかかってくる。 よくよく考えてみたら、これを使うのは初めてだな……なんて今更ながら思った。 そうそう、泣き止まないチビは茂みに隠した。それを遠目でみていたジールの顔、すごい驚いてたな。 「なにこの子⁉︎」って声が聞こえそうなくらい、あいつも同じ猫獣人のゲイル同様目をまん丸くしてたな。 つーか、なにと言いたいのは俺も一種だ。 馬車の前では人間が3人、保存食しか入ってない俺らの荷物を全部ぶちまけて、何かを相談してた。こいつら山分けでもする気か。 さて……と。俺は上体を低くして相手に向かってダッシュ。まず手前にいる一人目に向けて、斜め下から上へと、大きく斧を振り上げる。 相手は俺に驚く間もなく宙に舞っていった、身体が脇腹から斜め半分に分かれて。 そして斧を持ち替え、すぐさま隣にいる二人目を、横一文字に一気に切り裂く。 一瞬「見つけた!」「奴か⁉︎」って言葉がどっかから聞こえた気がしたが、そんなことは知るか。まったく警戒もしていないお前らが悪いんだ、死んでから反省してろ。 そして三人目。 慌てて腰に付けている剣を抜こうとするが、もう遅い。俺は正面から突き飛ばした後、仰向けにひっくり返ったその首元にすとんと刃を落とした。 すると今度は上から奇声が。 ナイフを構えた四人目が、馬車の屋根から俺の所へと飛びかかろうとしていた……のだが、突如、そいつは力無く地面にぼとりと落ちた。 絶命していたそいつの背中には、ナイフが3本、きれいに深く刺さっている、ジールがやってくれたのか。まったく要らん世話しやがって。 さて、残りの一人は…… 「うっわ、もう4人済ませちゃったんですか、早っ!」 いつの間にか俺の頭の上から消えていたルースが、後ろから遅れてやってきた。 さっきまでの険しい表情はいつの間にやら消え失せている。 「さすが! 疾風のラッシュの異名はダテじゃないですね」 おい、さっきとまた名前が変わってるぞ。 そんなルースに残りの奴のことを聞くと「それならもう大丈夫です。私とゲイルさんで挟み撃ちにして仕留めましたから」と、あっさり答えやがった。 早ぇなこの二人も。いや、ジールもか。 「これで全員だな」と、ルースに続きゲイルが最後の一人を、俺の目の前に放り投げてきた。 これで5人…いや、ガグに化けてた奴も含めて6人か。全員ぶっ殺して終了となったわけだ。 一応調べてみはしたが、めぼしいものは何も持ってない。要は掃除して俺たちを狩ろうって魂胆だったのか。まあ相手が悪すぎだったけどな。 ……しかし、よくよく見るとこいつら、なんか変だ。 最初は人間の盗賊連中かと思ってたが……いや、人間のようで人間に見えない。 やや青緑色がかった肌に細長い枯れ枝のような手足。そして…… 「な……⁉︎」死体を調べていたルースが言葉に詰まった。 いわゆる白目が真っ黄色なんだ。ギラギラと光を反射していて、まるで月みたいな怪しげな輝き。 「人間……なのか、これ」同じくゲイルも言葉に詰まっていた。 「気持ち悪いですけど、これは研究するに値しますね」と言ってルースは、比較的綺麗な怪物の身体ージールが仕留めた奴ーをザックに詰めていた。なにするんだこいつ? しかし奴らが言ってた「見つけた」って、一体何のことだったんだか。誰か賞金首でもいたっけか? 「よく切れる斧だな。かなり腕のいい職人がこさえた物と見たが」 ゲイルが俺の大斧の第一号の犠牲者の身体を見て、感心している。 そうだ、今まで戦場でいろいろな武器を使ってきたが、こいつの切れ味は正直予想以上だった。 重さでぶん殴る斧じゃない、斬るための、剣のように鋭い大斧なんだ。どんな名の知れた鍛冶屋が作ってくれたのかは知ったこっちゃねえ。こいつにはキラキラの宝石1個分の価値が、価値が…… って、ま さ か⁉︎ 俺の背中に冷や汗が走った。 そうだ、きっとこいつだ! 盗賊共はこいつを狙ってきたんだ! 俺のこの斧を! だとしたら、奴らが「見つけた」って言ってたのもうなづける。そんだけ値打ちが付いちまってるってことか……この大斧に。 となると、あの時行った武器屋のオヤジが、こいつの価値とか、誰が持っているのかを言いふらしでもしたのか! 冗談じゃねえ! 俺はあのオヤジにまんまとハメられたってことじゃねえか。許せねえ。帰ったらすぐにあのオヤジを捕まえて叩き斬ってやる! ……いや、殺したら意味ねーか。二.三十発殴ってシメておくとするか、それとも…… なんていろいろ考えてた時、草むらからジールが姿を現した、手にはチビを抱いて。 「ほーらよしよし、泣き止んだねいい子いい子。もうすぐお父ちゃんと代わりますからね~」 あいつ、子供の扱い手慣れてるな。ちょっと感心した。しかし…… 「はいラッシュ、あんたの子供でしょ、パス」 「いや、俺の子供じゃねーし」 「どこから拾ってきたのかは分からないけどさ、でもこの子あんたのでしょ? ラッシュお父ちゃん」 「だ! か! ら! 俺は父ちゃんじゃねえって!」 その言葉に、またチビはつんざくような声で泣き始めた。 「おーこわっ、お父ちゃん短気だし声はデカいしで最低でちゅね~」 ルースがジールの足元でけらけら笑いながら言ってきた。 「お前ら…」 殴りたい気持ちをぐっと抑えながら、俺たちは結局収穫ゼロのまま帰路についた。 だが、この人間ともつかない盗賊の存在が、俺たちの運命……いや、この戦争の勝敗を左右する事になろうとは、まだ全然わかってはいなかった。
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shiba
ラッシュの無骨さが良いですね!!
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「粗にして野だが卑ではない」を念頭に置いてキャラ作りしました。 基本はすごくピュアなのです…多分。
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たか☆ひ狼
2019年10月12日 21時44分
星川ちどり
hiwa
T&T
中村健一
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