配偶者も間違えたら選び直せばいい

自分の決意したことに悩む今回の相談者。夫との関係に悩み続ける相談者に、幡野さんは何と声をかけるのでしょうか。

※幡野広志さんへ相談を募集しています。専用フォーム(匿名可)からご応募ください。

私は生後8ヶ月の娘を育てるシングルマザーです。

婚約をして1ヶ月後に妊娠、その2ヶ月後に入籍、その1ヶ月後に元主人が首吊り自殺未遂をして閉鎖病棟へ入院、その3週間後に弁護士を通して離婚成立、そしてシングルで出産という流れで今に至ります。
元主人とは高校時代に交際をしており、15年後に復縁したという経緯でした。
その15年の間元主人は精神的に落ち込むと、お酒や、恋人、友人、その他ここには記せない事にドップリ依存しては急にケロっとして復活するというパターンで、精神科にも通院していました。
私は婚約に浮かれて、そんな彼の過去を見て見ぬふりをして、本人がもう通院は不要で完治したと言っていたのを鵜呑みにしていました。
一方私は、妊娠、出産、我が子に会いたい、と言うことが人生の目標になっていました。
元主人はひとり親家庭で複雑な環境の幼少期を経て育ったということもあり、自分が父親になるということがどうしても想像できずに一人悩んでいたようでした。
私はその頃妊娠悪阻で入院し、流産しそうでホルモン剤を投与しながらの状況で頭の中は赤ちゃんを守ることで100%の状況になっていました。神経質にもなっていました。
義母からは、悪阻なんか平気なはず、ほとんど安定期なんだから家事したり義母に会いに来い(出血してて安静指示を受けていて仕事も休んでいました)、という感じで険悪な状況でした。
私がこのままでは精神的にも肉体的にも、赤ちゃんにも悪いと思い、実家に当分帰らせてほしいと告げました。
そして元主人は首吊りを図りました。

搬送された病院で彼は『もうちょっとで死ねたのになぁ?この首の跡一生残るよね』と義母に笑って話していたのを見て、私は、彼は病気なんだから受け入れないとと思う反面、私と赤ちゃんを置いていこうとしたという事への大きな大きな怒りに飲み込まれていました。
元主人と向き合ったとき、私は怒りで震え声が出ず、お互いに精神的にとても不安定ということでドクター指示で私たちは面会禁止となりました。
元主人は私と復縁する半年ほど前から通院と服薬を自己判断で止めていたことが原因だったそうです。
私が元主人と復縁して交際してた間は彼はいわゆる躁状態だったそうです。
そんな事情を私は受け入れられず、単純に元主人を許せないという感情と、お腹の子を一人でも絶対に守り抜かねばという使命感に飲み込まれ、弁護士を通して一方的に入院中の彼と養育費無しで協議離婚しました。
元主人とは一切話もせず、弁護士を通しての書面のみでかなり一方的だったと思います。
元主人は兄弟も親戚もおらず、唯一の義母は再婚して別の姓になっているので頼れる人がいません。きっとこれからも精神的に不安定で自殺未遂をくり返したり、お酒や、言えない事に溺れたり、下手したら警察にお世話になったり、借金を抱える可能性も大きいだろうという私の勝手な妄想で、お腹の子と元主人を人生で接点のないように育てていかないと辛い思いをしながら育っていくと判断しました。
元主人とはその後一切連絡をとっていません。
私が着信拒否などしている為です。
娘が産まれたことも報告していません。

かなり前置きが長くなりましたがここで相談です。

今後が成長して娘に父親の存在を問われ、会ったみたいと言われても私はリスクを考えると会わせるつもりは無いです。
元主人から会いたいと言われても一切承諾しようとは思いません。

その固い決意の裏で、自分はなんて薄情で残酷な人間なのだろうと思います。元主人が夢に出てきては私が許しを乞うというのを何度も見ています。
ただそれだけのことなのですが…

幡野さんは私のこの状況をどう感じますか?
私はこの自分の感情や思考を誰にも打ち明けたことがないので、思い切って幡野さんに打ち明けてみました。

相談でもなんでもなく申し訳ありません。

(匿名希望 女性)

「きっとこれからも精神的に不安定で自殺未遂をくり返したり、お酒や、言えない事に溺れたり、下手したら警察にお世話になったり、借金を抱える可能性も大きい…」まで読んで、あぁぁ……ズルズルしちゃうパターンか、とおもいましたが、そのあとにつづいた「子と元主人を人生で接点のないように育てていかないと辛い思いをしながら育っていくと判断しました」という決意を応援をしたいとおもいました。

あえてはっきり書いてしまいますが、元旦那さんは躁うつ病ですね。配慮してボカしているようで、でもどこか気づいてほしいのか、この病気をすこしでも知っている方はすぐに気づくのではないでしょうか。

躁うつ病を知らない人は誤解してほしくないのですが、患者さんすべてが元旦那さんのような状態ではありません。できれば躁うつ病のことをグググっと調べて勉強をしてみてください。

妊娠のつわりとおなじで、ケロッとしてる人もいれば、入院するほどの人もいます。すべての事柄にいえますが人それぞれで、とても複雑な病気です。躁うつ病は状態の波がはげしく、落ち着いている人もいれば、元旦那さんのような人もいます。

そもそも、とても勇気のいる正直な相談だとおもうんです、人から嫌われやすい相談です。家族が苦しんででも、支援や介護するべきことが清く正しく美しくという考えから、場合によっては家族を見捨てたと受け取られるわけです。

みんな自分がやらない理想を、だれかに求めているんですよ、美しいものを見たいから。綺麗事を言う善人になれてコストすらも払わないのだから、最高にスッキリするインスタント善人だよね。支援をしても離れても、家族は苦しみます。苦しませるのは周囲の人の目だったりします、だからこそあなたも誰にも打ち明けられないんだよね。

配偶者は自分で選べる家族ですから、選択を間違えたら選びなおしましょう。

そして、あなたの相談文はとても配慮をしているなと感じました。それはおなじ病気で苦しんでいる方や周辺の家族へや、元旦那さんが警察に捕まらないようにだったり、相談内容もそれなりにボカしているんじゃないでしょうか。

躁状態のときに元旦那さんが家庭のお金を使い込んでいたり、仕事も辞めてしまっている可能性もあり「他ここには記せない事にドップリ依存」というのは違法薬物か違法賭博じゃないでしょうか。とにかく警察案件のことなんだとおもいます。

ぼく個人の感想としては、自殺する人のことを反対したくないというのがあります。

相手に本当に死んでほしくないなら「死んじゃダメだ」という言葉はかけない方がいいです、これは自殺する人への最後の一押しになります。なぜなら自殺したいという最後の本音の否定になるからです。死んでほしくないなら「死んでもいいんだよ」と肯定をしてから会話をするのがいいでしょう。

そして、自殺を覚悟した人は、自殺未遂後の生活のリスクを考えてほしいです。場合によっては、自殺すらできなくなる生活が待っています。自殺というのは救いでもありますが、場合によってはいま以上の生き地獄が待っていることもあります。

それでもぼくはあなたのことを残忍だなんて、まったくおもいません。無理なものは無理です、元旦那さんの状態と、あなたの許容量があるわけです。つまりは相性です、病人だろうがなんだろうが関係ありません。弁護士を通して離婚を成立させたことがいちばん正解だとおもいます。

繰り返しになりますが、あなたがいまいちばん守りたいのはお子さんのことです。もしかしたら、お子さんがいなかったら離婚をしていないのかもしれません。元旦那さんを支えていたのかもしれません。

守るべき存在が変わったんです。もちろん子どもがいて、旦那さんの病気を看病している方もたくさんいます。でもあなたが無理なんだから、無理でいいんですよ。

ただ、躁鬱病は波があるので、状態が落ち着く時期もあります。あなたが好きだった結婚を決めたときの旦那さんにまた戻るわけです。

そのときに連絡をとってくる可能性もありますよね、というかあなたが心配しているのはそこでしょう。現代では電話番号だけ着信拒否しても連絡する手段はあります。メール、SNS、共通の友人や、現住所や実家への連絡など、さらにはお子さんがお父さんに会いたがるという可能性だって充分すぎるほどあります。そのときに、あなたは自分の決断に苦しむわけです。

脅すわけじゃないけど、もっと怖いのは元旦那さんがうつ状態が抜けて、躁状態になったときです。躁状態の人が本気になればあなたの目の前に現れます。でも、忘れないでください、家族を壊したのはあなたが原因じゃない。

あなたがお子さんを育てていると信じて、あなたの心をしっかりと保って。

お義母さんはなかなかのクセ者っぽくて『渡る世間は鬼ばかり』のキャラクターにいそうなぐらいの人ですけど、元旦那さんとの相性はいいのかなぁとおもいました。元旦那さんが笑いながら自殺未遂後に首の傷跡で会話できるなら、相性は悪くはないでしょう。

お子さんと元旦那さんを近づけたくないなら、あなたがお義母さんに嫌われておくことはメリットがあります。弁護士を通して一方的に離婚したことが効いてきますよ、プライドが高そうなお義母さんですから、あんな冷たい女に近づくなって元旦那さんにいってくれる可能性が高いです。元旦那さんのブレーキになります。

お子さんに元旦那さんのことをどう伝えるか、病気があって会える状態ではないと伝えるほかないでしょう。お子さんの状態をしっかりとみて、この相談のように病気のことも上手に伝えてください。

あなたがお子さんのことを大切に愛してあげれば、お子さんは自然とあなたのことを応援してくれます。インスタント善人にはならないでしょう。

とても大変なことですが、つらさはお子さんにぶつけないように。つらさをぶつけてしまうと、元旦那さんとお義母さんのような、あなたが抱いている違和感のある親子になりかねません。

一人で抱え込むのは良くないし、でも子どもに苦しさを吐きだすのも、いいことだとはぼくはおもいません、親の苦労話って子どもには解決できないし、聞くことしかできないから負担にしかならないんです。

もしもまた悩んだり苦しんだりしたら、信頼できる人にまた相談をしてください。いちばんいいのは精神科医や臨床心理士だとぼくはおもいます、味方になってくれます。

あなたみたいに覚悟があって、配慮もできる人は大丈夫ですよ。 ぼくがあなたの立場なら離婚をするだろうし、元旦那さんの立場なら離婚を受け入れます。あなたはなにも間違っていないよ、応援しています。

今週の幡野さん

大阪でたこ焼きたべたり、東京でコメダコーシーのメロンソーダのんだり、岡山で鰆の刺身をたべたり、いまは島根県の益田という街にいます。今日は何をたべよう。

自分の人生を生きろ

この連載について

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幡野広志の、なんで僕に聞くんだろう。

幡野広志

写真家・幡野広志さんは、2017年に多発性骨髄腫という血液のガンを発症し、医師からあと3年の余命を宣告されました。その話を書いたブログは大きな反響を呼び、たくさんの応援の声が集まりました。想定外だったのは、なぜか一緒に人生相談もたくさ...もっと読む

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    yorunorekishi 「私も相談してみたい」というやんわりとした希望が根こそぎ抜き取られる毎回ハードになっていく相談(笑)今回は本当に心から応援したい相談だった。重い鬱は一般人が対応出来る事じゃない。自分を責めないで。 #幡野広志 https://t.co/KE0inLJOya 30分前 replyretweetfavorite

    shamonoir 自分を傷つける人間を愛する義務はないので子供と共に幸せに暮らしてください。 https://t.co/WHryn1ECOx 約1時間前 replyretweetfavorite

    neverland_never なるほど、「配偶者だけが自分の意思で選べる家族」か。親も兄弟も子どもも選べないもんなあ。 そういやむかしは躁鬱でアル中なりかけてたな… https://t.co/xfdcvgmdd3 約1時間前 replyretweetfavorite

    Favi_ty https://t.co/Ku6eWIpRZR 約1時間前 replyretweetfavorite