成功に必要なのは「才能」より「意志力」、という研究結果

ある分野で成功するには、生まれもった才能よりも、計画的な努力を持続的に続けられる性質が重要であるとする研究結果が発表されている。

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特定の分野に秀でた能力は、遺伝子によって決まる「才能」に基づくもの、という考え方がある。しかし、生まれもった才能は、過大評価されていることが分かってきた。

アンダース・エリクソンら多くの研究者たちは、本当の才能とは、計画的訓練(deliberate practice)に励むこと、1万時間もの厳しいトレーニングを積むことだと主張している。

エリクソン氏は、影響力のあるレビュー論文(PDF)『The Role of Deliberate Practice in the Acquisition of Expert Performance』(計画的訓練が、卓越したパフォーマンスの獲得に果たす役割)の中で、次のように書いている。

「優れたパフォーマーと標準的成人の違いは、不変のもの、すなわち遺伝子に定められた才能によるものではない。このような違いは、生涯にわたって行なわれる、パフォーマンス向上のための計画的努力によって生じる」

もう1つ、最近の論文(PDF)『Deliberate Practice Spells Success: Why Grittier Competitors Triumph at the National Spelling Bee』(計画的訓練は成功をもたらす:綴り字の全国大会でより意思力のある参加者が勝利する理由)を紹介しよう。

論文を執筆した心理学者チームは、計画的に訓練できる子どもたちの持つ特性に関心を向けた。研究には、何千時間もの訓練を要する綴り字の競技会『Scripps National Spelling Bee』に参加した子どもたち190人のデータが用いられた。

データを分析した結果、論文執筆者の1人でペンシルベニア大学の心理学者Angela Duckworth氏は、「grit」(気骨、意志力)と呼ばれる心理学特性が重要であることを発見した。Duckworth氏は過去の研究において、人間の意志力の程度は、手短なアンケートを通じて、熱意の継続性(質問例:「何かのアイディアやプロジェクトに熱中したが、短時間で興味を失ったことがある」)と努力の継続性(質問例:「挫折によってやる気を失うタイプではない」)を5点満点で評価することにより、かなり正確に測定できることを明らかにしている。

予想どおり、意志力のある人ほど、自分の目標を一途に追いかけ、特定の活動に熱中する傾向を示しており、また苦労や失敗に遭遇しても、あきらめずにやり通す傾向も強いようだ。

綴り字大会の参加者のうち、意志力のある子どもほど、そうでない子どもに比べて計画的訓練に取り組んでいた。予想された意志力と綴り字の成績との関連は、何時間もの計画的訓練によって完全に媒介されていた。

われわれは通常、最良のパフォーマンスを発揮させるテストによって才能を測る。例えば、NFLのスカウティング・コンバイン[ドラフト候補選手たちが集められ、各種テストを行なうもの]がそうだ。選手たちは短時間で一気に能力を発揮するテスト(40ヤードダッシュ、短いIQテスト、キャッチドリルなど)を、モチヴェーションが高い状態で行なう。

しかし、こうしたテストの問題点は、現実はスカウティング・コンバインとは違うという点だ。

現実の成功は、継続してパフォーマンスを発揮することや、きつい練習に励み、週末にプレーブックや試合のビデオを何時間も研究できるかどうかにかかっている。これらはすべて、計画的訓練に相当するものであり、そうした有用な訓練にいそしむ能力の有無は、その人が持っている意志力の程度に左右される部分が大きい。

ここでの問題は当然、意志力という性質が、たった1日で、たった1つの場所で計測できるものではないことだ(この人格特性の評価には、むろん長い時間を要する)。

その結果、才能に関して間違った信念をもつわれわれは、間違ったテストによって才能を測ってしまう。「コンバインでのテスト結果とプロフットボール選手の成績との間に統計的に有意な相関が認められ」ない理由は、おそらくこの辺りにあるのだろう。

上述の研究はまた、意志力や自制といった「非認知的」スキルに対する認識の高まりを示している。これらの特性は、知能とはほとんど、または何の関係もないが、人生の成功における個人差を説明する上で、大きな要素であることが多い。意志力などの要素はしばしば、現実の成功を予測する最も優れた因子となっている。

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セシウムの「環境的半減期は180〜320年」

セシウム137の半減期は約30年だが、チェルノブイリ付近の土壌に含まれるセシウムの「環境的半減期」は、180〜320年と算定されている。


Aaron Rowe


画像はWikimedia

[この記事は、2009年12月に掲載された記事を再編集したものです]

1986年に史上最悪の事故を起こしたチェルノブイリ原子力発電所は、期せずして、放射能の影響を研究する格好の実験場となった。事故から20年以上たった現在でも、現場には驚きが隠されている。

周辺の放射性セシウムが、予想されたペースでは消失していないことが、2009年12月14日(米国時間)、米国地球物理学会の秋季大会で発表されたのだ。

[放射性の]セシウム137の半減期(物質が元の量の半分まで崩壊するのにかかる期間)は約30年だが、チェルノブイリ付近の土壌に含まれるセシウムの量は、およそそんなペースでは減少していなかった。

ウクライナ政府が将来的には再びこの土地を利用したいと考えるのは無理もないことだが、研究チームは、セシウムの半量が周辺の環境から消失するまでの期間—–研究チームはこれを「環境的半減期」と呼んでいる—-を、180〜320年と算定している。

今回の調査結果は驚きをもって受け止められた。専門家らはこれまで、放射性同位体の環境的半減期は、物理的半減期よりも短くなると予想してきた。どんな土壌サンプルにあっても、自然の拡散作用によって放射性物質の減少が促進される、と考えられたためだ。

ストロンチウムに関しては、この考え方は妥当だった。だがセシウムには逆のことが当てはまるようだ。

セシウムの物理的特性は変化しておらず、それゆえ研究チームは、環境に理由があると考えている。たとえば土壌採取地点には、チェルノブイリ原発の付近から新たにセシウムが供給されているのかもしれないし、あるいはセシウムは地中深くの土壌にまで拡散しているのかもしれない。今回の研究チームの1人である、サバンナ・リバー国立研究所のTim Jannick氏(原子核科学)は、さらなる調査で真相が明かされることを期待している。[4号炉は事故直後、「石棺」と呼ばれるコンクリートの建造物に覆われたが、老朽化が激しく雨水が石棺の中に流れ込んでおり、原子炉内部を通って放射性物質を周辺の土壌へ拡散しているとされる(日本語版記事)]

チェルノブイリ原発事故の後、専門家らは、放射性降下物が飛散すると予測されるルートに沿って、複数の実験場を設置した。さまざまな深さから土壌サンプルを採取し、ストロンチウム、セシウム、プルトニウムの放射性同位体が地上にどれだけ拡散されるかを測定した。この計測は20年以上続けられており、最悪に近い原発事故が環境に対して持つ長期的な影響に関して、貴重なデータを提供してくれている。

米エネルギー省のハンフォード核施設[第二次大戦中から1970年代までプルトニウムを精製。2000年には火災でプルトニウムを漏洩した(日本語版記事)]のように長期にわたって汚染されてきた地域に比べれば、チェルノブイリの影響は単純で理解しやすいので、そのデータが期待されている。

[放射性セシウムは生態系のなかで生物濃縮される(環境から生物体内に濃縮され、それが食物連鎖により増強される)。国立環境研の研究によると、土壌中の細菌のなかにも、カリウムを濃縮するのと同じ機構でセシウムを濃縮する種がいることがわかっている。

Wikipediaによると、1997年頃の調査で、この区域内の木の中のセシウム-137のレベルが上がりつづけていることが判明している。また、汚染が地下の帯水層や、湖や池のような閉じた水系に移行しているほか、雨や地下水による流去は無視できるほど小さいことが実証されているという。以下は、同ページに掲載されている放射性物質の減衰予想グラフ。黒い線がセシウム137。縦軸が残留濃度、横軸が経過年数(10000日は27.4年)]

[放射性物質を含んだ食物を人間が摂取した結果、長寿命の放射性核種(ストロンチウム90、セシウム137のような)が体内に蓄積する恐れがある。ストロンチウムは同族元素であるマグネシウムやカルシウムに性質が似ているため骨や代謝系に、セシウムは同族元素であるナトリウムやカリウムに性質が似ているため体液や筋肉にそれぞれ浸透し、そこから放たれる放射線によりダメージを受ける]

参考: “Long-Term Dynamics of Radionuclides Vertical Migration in Soils of the Chernobyl Nuclear Power Plant Exclusion Zone” by Yu.A. Ivanov, V.A. Kashparov, S.E. Levchuk, Yu.V. Khomutinin, M.D. Bondarkov, A.M. Maximenko, E.B. Farfan, G.T. Jannik, and J.C. Marra. AGU 2009 poster session.

[日本語版:ガリレオ-江藤千夏/合原弘子]

WIRED NEWS 原文(English)

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