―――― カッツェ平野【モモンガ視点】
「壮観だな。」
俺の眼前には王国軍26万人。
王国国民が900万人程だから、およそ全人口の3%があそこに居るという事だ。
「『まるで人がゴミの様ですね。』と言いたい所ですが。」
「ダメだよ~デミウルゴス。モモンガ様はそれを望まれてないんだから」
「冗談ですよアウラ。私がモモンガ様の意思に背く事は決してあり得ません。」
俺の隣ではアウラとデミウルゴスが軽口を叩き合っている。
ここにはデミウルゴス、アウラ、マーレ、コキュートスが俺の護衛として控えている。
マーレ、コキュートスは無言ではあるが、表情からリラックスしているのは読み取れる。
(よし、緊張しているのは俺だけの様だな!)
まぁ、皆が準備してくれた作戦だ。
その主役となるのだから緊張するのも無理ない。
「アウラ、ターゲット達の動きに変化は無いな?」
「はい、モモンガ様。デミウルゴスの調査通りの配置についてます。
後はスレイン法国の者らしき一団が、南の丘に潜んでいるくらいでしょうか。」
「マーレ、檻の準備は整っているな?」
「はい、300個全て昨日中にチェックは完了しています。」
「コキュートス、
「ハッ。今ハスキルニテ次元ノ狭間デ待機シテオリマス。御呼ビ致シマショウカ?」
特徴はスキルで、
容姿は茶色のトレンチコートとソフトハットという昔の探偵の様な装いだ。
それを纏うのは真っ白のスケルトンで、俺もああいう格好してみたいなと思った事はある。
まぁ、軍服の方がかっこいいけどね!
あのパンドラズ・アクターが着ているネオナチのやつ。アレ俺が来ても結構似合うと思うんだよね!
おっと、脱線しちゃったかな。
「いや問題ない。時間が来るまで控えさせて置け。
最後にデミウルゴス。作戦のスケジューリングを頼む」
「はい、お任せ下さいモモンガ様。必ずやモモンガ様のお求めになる結果を献上致します。」
俺がガチの戦闘に入ったら作戦指揮までは出来ない。
ここまでガチガチに固めているのは、やはりユグドラシルプレイヤーへの対応だ。
王国にはゲヘナの件もあってほぼ確定で居ないと判断できるが、法国はどうにもプレイヤーの匂いが強くする。
アウラの言った様に偵察しに来ている事からもグレーな存在だ。
「よし、準備は万端のようだな。
それではニンブル殿、宣戦をお願いします。」
「はい、ですが……この布陣で宜しいのですか?」
ニンブルが心配するのも分かる。
俺の左右には300個の檻。100m後ろに
最前線というより孤立状態というのが正しいくらいなのだ。
「ええ。もし本気で戦う事態が発生した時、仲間を巻き込みかねませんので。」
「その場合は
「はい。その場合は相手を私がひきつけて戦線を離脱しますので、
正直その場合は【最優】の作戦ではなくなってしまうが仕方ない。
自分の目的の為に他を犠牲にしてはならない
「フールーダは宣戦の後、ニンブル殿を連れて後方に下がれ。」
「はい。大師匠の魔法戦を見れないのは残念ですが、邪魔とあれば致し方ありません。」
フールーダは自分の力不足をしっかりと分かってくれているので素直に話を聞いてくれた。
万が一の場合はLv70以下は確実に死ぬからな。
「ご武運を。モモンガ閣下」
「幸運をお祈りしております。大師匠」
フールーダはニンブルを連れて要塞まで転移してこの場を去った。
「さて、
後は頼むぞ、デミウルゴス。」
俺は戻って来るための転移をいつでも使えるように溜めておく。
「はい。
その作戦に選ばれた事を栄誉に、過信も慢心もすることなく自分たちに与えられた勅命を全うする事を期待している。以上だ。」
そういってデミウルゴスはこちらを向く。
「それではカウントダウンを開始させていただきます。
5……
4……
3……
2……
1……」
「
俺達5人と
―――― カッツェ平野 国王直衛【モモンガ視点】
「
俺達5人は王国軍の中心、つまり国王ランポッサⅢ世の居る地点へと転移した。
そして誰もが気付く前に時間を停止して作戦に入る。
「アウラ。ナザリック陣営以外に動く存在はいるか?」
「いえ、アタシ達と
スレイン法国の一団にも動きは見られません。」
Lv70以下の雑魚、または敢えて動かずに俺達の行動を見極める強者。そのどちらかだろう。
戦わずして相手の情報を行動指針を得られるならば、俺だって動かない手を選ぶケースもある。
「そうか。
アウラと会話しながらまずはランポッサⅢ世、平民出身の軍師、レエブン卿を檻の中に飛ばす準備をした。
「えぇーーい!
マーレは六大貴族のレエブン卿が私兵として雇っている元・オリハルコン級の冒険者を魔法の牢獄に閉じ込める。
高位の行動阻害魔法なので、マーレが魔法を解くまでは身動きできないだろう。
コキュートス達は俺の護衛に神経を尖らせつつ、俺はザイトルクワエのときと同じ様に
周囲の兵士たちは一秒にも満たない時間でほぼ全ての指揮官が居なくなったのだ。
何が起きたか理解できていないようだ。
その異常状態から真っ先に理性を取り戻したのは、やはり――――
王国戦士長ガゼフ・ストロノーフだった。
「ゴ、ゴウン殿!? い、一体これは――――陛下は如何なされたのですか!?」
「お久しぶりですね、ストロノーフ戦士長殿。
国王ランポッサⅢ世はこちらの軍に招待させて頂きました。」
「ま、魔法でですか……?」
「えぇ、私の配下達も他の貴族の方々を招待している最中です。」
「そ、そんな……」
魔法に疎いガゼフでも分かるだろう。王国の上層部を軒並み捕虜にされれば戦う事すら出来ずに負けたと。
それに兵士たちはうろたえているが、義憤で俺達に槍を向けようとする者は居ない。国民の忠誠心が知れるところだ。
いや、レエブン卿の領民は好きあらばといった所かな。
「やはり、ゴウン殿がバハルス帝国に付いたという噂は本当だったのですね……」
ガゼフは俺と敵対している事を酷く残念に思ってくれている様だ。
「ゴウン殿。何故ハバルス帝国に? と聞くのは愚問ですね。」
「ええ。出来ればストロノーフ戦士長殿の前では口にしたくはありませんね。」
【王国につく価値などない】などと。
「ゴウン殿、貴方ならありえないとは思いますが、どうか陛下を危害が加わる様な事がない様に願います。」
フル装備らしきガゼフは剣を抜く事すらしない。
抜けば国王にとって不利となる事は分かっているようだ。
「ええ。ですが、最終判断を下すのは皇帝陛下です。そうならないようには善処しますが、確約はできません。」
「そうか……」
この状況でもやはりランポッサⅢ世しかガゼフの目には映らないか……
「ストロノーフ戦士長殿、貴方の立場上難しいのも分かりますが、貴方は国王の剣なのでしょうか?
それとも、国民の剣なのでしょうか?」
ランポッサⅢ世もガゼフも優しい故に国民を苦しめている。
人格が固まりきった国王はもう変る事は出来ないだろう。だが、ガゼフであれば一縷の望みはある。
「それは…………」
「分かっているようですが、敢えて言います。
貴方は国王だけの剣ではいけない。貴方は振るわれるだけの名刀の時期はとうに過ぎています。
貴方が何かすれば、良くも悪くも王国に影響を与えるでしょう。だから、影響を与えない様に動いている。
だが、動かなかった結果命を落とす国民が居る事を忘れてはいけない。」
ガゼフも頭では分かっているのだろう。
何も変らなければ王国は消滅しバハルス帝国に併呑される。
国民の事を考えればそれもいいのだが……何故かな。ガゼフには肩入れしたくなる。
「考えて置いて下さい。悩む事が出来るうちはまだ何か出来るのですから。
――――と、少し長話が過ぎましたね。そろそろ帰らなければ。」
「ゴウン殿!!」
ガゼフの表情は悩みと焦り、苦悩の表情が見て取れる。
元々村人だったのだ。難しい事を言っているのはわかる。
だが、俺と同じ様に一般市民だからと、できないという事は許されないのだ。
「そうそう、ストロノーフ戦士長殿。私はモモンガという名前に戻しました。
これからはモモンガと呼んでくれると幸いです。
それでは――――
俺は
ガゼフの口は『戻した……覚悟を決めたということですか……』と動いたような気がした。
誤字報告ありがとうございます。
作戦は「びっくり登城作戦」と同じです。
他者を転移させれるのは異常なまでに強いと思うんですよ。
カルネ村に向かったバルブロ?
カルネ村に着く前にレッドキャップとルプスレギナに始末されてますよ。
なので覇王炎莉にはなれなかったようです。
色々と実験しているので村に来られるのも困るのでね。
・今回のオリジナル魔法
第5位階の転送魔法。他者のみ長距離転移できる。
第7位階の信仰系移動阻害魔法。